第零幕
――灼熱の炎に焼かれる前に
―――あまりの衝撃に、意識が吹き飛びそうになる。
ギリギリのところで受身を取り、なんとか意識だけはとどめることができた。しかし、体へのダメージは相当なもの。
立ち上がろうとしても足に力が入らない。目の前に銀砂が飛び散る。グラグラと頭が揺れ、もう体を起こすことさえままならない。
「……意識がまだあったか。図太い奴だ――」
誰、とは聞かない。聞く必要もないし、聞くことさえできない。じゃり、と砂が音を立て、こちらへ近づいてくることを教えてくれる。
「どうする?今のうちにそれを渡してくれさえすれば、」
「……あの人たちの未来だけは、与えると?」
さらりと言葉がついて出る。ぎゅう、と握り締めた自分の手は、先程まで負傷していたのかと疑いたくなるくらい、傷ひとつなかった。
今の少しの時間で少しは回復した。頭のぐらつきも多少は残っているようだが、立てるし歩ける。
「……ほぉ、さすがは"鬼"と呼ばれるだけある。いや、今のお前は"羅刹"か?」
「そんなことどうだっていいじゃないですか」
勝ち誇ったように笑う目の前の人物を無視し、千鶴は冷酷な笑みを浮かべた。
それは勝利の嘲笑にも見え、目の前の人物を不快な気分にさせる。
「――我を守りし千の風よ、」
「させるかっ!」
「今こそ、審判の時である!」
千鶴は手に持っていたそれを高く空へ放った。闇色の空に銀色を反射させ、それはだんだん消えていく。
「私が正しいか、お前が正しいか、公平に判断してもらおうじゃないですかっ!」
―――そこで、世界は反転する。
*(20130804:執筆、公開)