6 今だけは
「、幸村部長」
「赤也……」
水道で鉢合わせた幸村と赤也。
赤也はバシャッと顔を洗う。
幸村はその様子をぼんやりと見ていた。
「……部長、」
「……何だい」
「雪先輩の事、言っちゃダメなんスか?」
「……ダメだよ」
「
何でっスか!!」
赤也は髪についた水滴を撒き散らし、叫ぶ。
「雪先輩が……、仁王先輩が、本当の事を自覚したら、また同じ思いをするんスよ!?」
「……そうだね」
「仁王先輩だって、また、あの時みたいに……っ!!」
「赤也、」
止まったはずの涙が、赤也の両目から流れ落ちる。
幸村は、そんな赤也の肩に手を置いて、優しい口調で語りかける。
「心配なんだよね? 赤也は。……あの時の状態になってしまう事が」
「……っ、」
「でも、今本当の事を言っても、同じことじゃないかい?」
赤也は俯く。
「それに、もし雪がいるとしたら……嬉しいと思わないかい?」
「……嬉しいっスよ。嬉しいに、決まってるじゃないっスか……っ!!」
赤也は涙でくしゃくしゃの顔をあげた。
幸村は微笑んで、赤也の頭をぽんぽんと叩く。
「この決断を後悔する時がくるかもしれない。けど、今は……今だけは、夢の中にいよう?」
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