23 生きて
数ヶ月後……
ポロン……ポロン……
オルゴールの優しい旋律が静かに響き渡る中、俺は手を合わせた。
「雪……全国優勝、できんかった」
「でもな、立海大附属高校への推薦が決まったんじゃ」
「俺、高校でもまだテニス続けるから……ちゃんと見ててな、雪」
氷上家の墓の前で しばらく両手を合わせて目を閉じていた。
目を開けると、俺は 消えない右手首の跡を指でなぞった。
この傷痕は、消えなくていい。
この傷痕を見る度に、あの事を思い出せるから……。
今までずっと着けていた、雪から誕生日プレゼントに貰ったリストバンドは、もうボロボロになっていた。
「雪……雪はきっと、"自分のことは忘れて幸せになって"とか思っとるんじゃろうけど……生憎、俺は雪の事を忘れられそうに無い。……でも……」
着けていた雪から貰ったリストバンドを取り、お墓の所に置く。
「少しずつ、前に進もうと思う」
そして、新しく自分で買ったリストバンドをを右手首につけ、傷痕を隠した。
「次来る時には、ちゃんと現実を受け止めて、心から笑えるようになってるからな」
なぁ、雪……
今も傍にいるんじゃろ……?
見ててな、雪……
俺
生きるから
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