7 似てる
そして、首を下に向け、何かを私の側に置いた。
『あ……』
昨日傷口に巻いた私のハンカチだった。
しわくちゃになっていたが、ついていた血は薄くなっていた。
『洗ってくれたの?』
グルル、と狼は喉を鳴らし、私の傍らに俯せになった。
私は少し怯えながらも、優しく狼の頭を撫でた。
『ありがとう……わざわざ返しに来てくれたのね……』
そっと、傷があった左腕を見る。
まだ生々しい傷痕が残っていた。
昨日は血が出て気付かなかったが、傷は左肩から左の二の腕までの切り傷のようだった。
『傷はもう大丈夫なの? 痛くない?』
グルル、と また狼が鳴く。
私はずっと狼の頭を撫でていた。
狼の毛はフワフワで、温かくて……
何故だか、この温もりが、愛しく感じた。
改めて狼を見る。
暗闇の中、瞳が鋭く光っていた。
『黄金の瞳……謙也くんみたいね』
ぴく、と狼の耳が動く。
『謙也くんっていうのはクラスメイトでね、皆は知らないだろうけど、謙也くんの瞳は光の具合によって色が変わるんだ。宝石みたいに』
明るい所では、茶色。
暗い所では、金色。
『……今日ね、謙也くんに近付くなって、ファンクラブの子に怒られちゃった……当然だよね、私みたいな地味な子が、謙也くんに近付いたりしたら、謙也くんが迷惑だよね……』
狼は、もう鳴かなかった。
『……何で私こんな話をあなたにしてるんだろうね……』
私は狼を撫でていた手を止め、狼を瞳を見つめた。
『あなたの瞳があまりに謙也くんのそれにそっくりだから……安心したのかもしれないね』
私はふと薄く汚れているハンカチを眺めた。
『私、狼って獰猛なものだと思ってた。でもあなたは違ったのね』
見上げると、狼はじっと私を見つめていた。
『あなたが、人間だったら良かったのに……』
自然と、言葉が出ていた。
『はは、何言ってるんだろうね、……』
また涙が出てきそうになる。
欲しかった。
私を受け止めてくれる人が欲しかった。
弱い自分を受け止めてくれる人が、欲しかった。
『話、聞いてくれてありがとう。もう怪我しちゃダメだよ』
私は狼から逃げるように家に帰った。
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