72 ……あ。
もし仁王が成り代わりだとしたら。
仁王の言う"夕月"は"前の世界の私"を示していることになって。
仁王は前の世界での"夕月"の知り合いだということになる。
"朝陽"……
思い出せ……
前の世界の記憶を……
……聞いたことある気がしないでもない名前なんだよね。
誰だっけ……
記憶を探る。
「座右の銘は"夕月は俺の嫁"だぜ……へへへ」
「……」
何でだろう……仁王がとてつもなく
気持ち悪い……
病人じゃなかったらきっと殴り飛ばしてた。
人が真剣に悩んでいる時に……
"夕月は俺の嫁だ!!"
突然、男の声が頭に響き渡る。
でも、その声は懐かしくて……
「……あ」
前の世界で何か勝手に"夕月は俺の嫁!!"って豪語してた人がいた気がするような……
「あ……あああああああああ!!!!!!!!」
「うるさ……」
「
ごめんなさい」
思い出した
そうだ、"夕月は俺の嫁!!"って言ってたのは、"朝陽"って名前の同い年の男!!
毎回のように生放送に来てくれて……
私への愛を語る変態だった!!「変態!」
「ぐふ……久しぶりに聞くと応えるな……」
ぼんやりとしていた記憶が鮮明になっていく。
"また来たのか変態野郎"
"酷いっでもそんな所が好きだ!!"
"黙れドM"
"喋る"
……あんな"朝陽"が仁王の中身……
……
実感湧かねえだって私、朝陽の変態な所しか見たことないし。
「本当に朝陽?」
「俺の名は"朝"に太陽の"陽"で、あさ……ひ……だ、ぜ…………」
「……え」
スゥーと言う寝息が聞こえてきた。
寝たのかよ!!とりあえず病人にあたる訳にもいかないので、近くにあったクッションをソファに投げつけた。
いろいろ聞きたかったのにな……
まぁ病人だから仕方ないか。
「……とりあえず……」
仁王は成り代わりで、その中身は"朝陽"ってことで合ってるのかな。
いろんなことがあったからか、何かこういうのに耐性ついちゃったのかな。
非現実的な出来事に、妙に納得しちゃう私がいる。
ふと視線を下げると、仁王がスースーと寝息をたてて眠っていた。
「……早く元気になってね」
聞きたいこと、たくさんあるから。
早く元気になれ仁王!
prev /
next