48 不機嫌
「あーん? 白石、今までどこほっつき歩いてやがったんだ?」
白石がテニスコートに戻ると、跡部が"あまりウロウロするな"と不機嫌そうに言った。
今日はファンクラブの過激派が多く、何かする度にキャーキャーとうるさい。
跡部が不機嫌な理由は多分それだろう。
「スマンスマン。少し外の空気吸いに行ったら珍しい人に会ってなぁ」
「珍しい人?」
「その人、テニスコート探しとってな。なんや、見た目は超お嬢様なんやけど、中身は全然お嬢様やない感じやったんや」
「はぁ?」
またファンクラブの奴か?と跡部は思い、眉間の皺がより一層深くなる。
「ああ、ほら。あそこに居る彼女や」
くいっと白石が顎でさしたのは、テニスコートに近い席ではなく、テニスコートから遠い、誰もいない席で一人ポツンと試合を見ている人だった。
大きな鍔広帽子にピンクのワンピース。
よく顔が見えないが なるほど、確かに見た目は育ちの良いお嬢様に見えないこともない。
「試合を見に来たんやと。知り合いか?」
不意に風が吹き、帽子の鍔を揺らす。
彼女は慌てて帽子を押さえつつ、生き生きとした表情で 必死にダブルスの試合のボールを目で追っていた。
「……知らねえ奴だ」
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