126 待て
「……そうだ」
「!!」
「……って言ったら、お前は俺をどうする?」
どうする?
どう、する……
「……まず、お前がこんなことする理由を聞くかな」
「は?」
「理由聞かないと、どうもできないし」
面白いからやったのか
何か特別な理由があってやったのか
理由によってはこの少年を一生許さない。
「……っと、その前にお前誰なの?」
「……さあな」
「さあなって……」
「時間切れ。質問タイム終わり」
少年は倒れた五十嵐を見た。
「、五十嵐をどうする気だ」
「さっきも言っただろ。殺すんだよ」
「っやめろ!!」
「やめろ?」
少年は五十嵐から俺に視線をうつした。
「こいつがこっちにいるってことは、あっちの世界のこいつは意識不明になってんだろ」
一歩、一歩と少年が近づいてくる。
「こっちの世界のこいつを殺さなければ、あっちの世界のこいつは目を覚まさない」
「な……っ、」
「見たところ、」
少年はスッと俺の足元を指差した。
俺は自分の足元を見る。
「
うえええっい!?!? 何これ足透けてんだけど!!!???」
「お前にはもう時間がないってことだ」
俺の足どこ!? と足踏みしてみるが、動かしている感覚はあっても、地面に足がついている感覚はない。
「一時的にこっちに来ただけだからな。こっちにとってお前はイレギュラーな存在。こっちの世界がお前を排除しようとしているんだよ」
俺は"仁王雅治"に転生してしまった身だから、少年の言っていることは何となくわかる。
「でもそんなこと言ったら五十嵐だって、」
「残念だがこいつはお前らとは違う。お前の場合は魂だけあっちに飛んだが、もともとこいつはあっちの世界に"実体もろとも行った"はずだったんだ。でも何故かこの世界に戻ってきてしまった」
何か言っていることがよくわかんなくなってきたぞ。
「まあ簡単に言うと、魂と身体の数が合わなくなっちまってるんだよ。お前は今魂だけなの。だから透けてきてんだよ」
「でも、五十嵐はちゃんとあっちにもいるぞ……?」
「そっちが本体。こっちはいわゆる"偶人"……五十嵐有梨の形をした偽物の身体の中に、本物の五十嵐有梨の魂が入りこんだもの。こいつをトリップさせる時にこの身体がなんらかの拍子でできちまったんだ」
少年がさらさらと言っていることは俺には難しくて、頭が混乱してなかなか話が理解できない。
「こいつを殺して、しっかり記憶を消せば、もうこっちに戻ることはない」
「殺すしか、方法はないのか……?」
「身体と魂を離す方法なんて、殺すくらいしかないだろ」
身体と魂を離す……
「どうせここに来た時の記憶は消すんだ。何も悪いことはない。……お前が消えた後に殺してやるから安心しろよ」
俺は黙って消えるのを待つしかないのか……?
気がつくと腰あたりまで消えかけてる俺の身体。
"
俺を止めろ"
あっちの世界で会ったこいつの声が俺の頭に響く。
違う。
この少年を止めなければならないんだ。
「……要は、あっちの世界の五十嵐が目を覚ませばいいんだな?」
「……何をする気だ」
俺は倒れている五十嵐を見た。
まだ気を失っている。
「人を殺すなんて簡単に言うんじゃねえよ。誰だって人を殺すのは怖いし、記憶に残るんだ」
「っ、俺は怖くない」
俺はぐいっと少年の腕を掴んだ。
その腕は……震えていた。
「ほらみろ」
「違う!! これは俺の震えじゃない!! この身体の震えだ!!!」
「意味わかんねえこと言ってないで、殺すのはやめろ。あっちの世界の五十嵐の目を覚まさせてみせる」
少年の腕を掴んだ俺の手がすうっと消えていく。
「、おい待て!!」
「いいか、絶対殺すな。俺を信じて待ってろ」
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