110 落ち着いた?
聞き覚えのある声に、はっと顔をあげる。
声がした方向を見ると、喫茶店の外に大きな買い物袋を持った仁王が立っていた。
「!? 五十嵐!?」
「……え、」
「有梨!? おま、何泣いて、」
目元に手をあてると、水滴が指について、確かに私は泣いているようだった。
ガランガランと盛大な音を立ててバタバタと仁王が喫茶店の中に入ってきた。
「おまんら……何しとんじゃ」
宍戸と不二を睨む仁王。
「仁王、ごめん、何でもないんだよ、落ち着いて」
「おま……なんでもない訳なかろ!」
店内で怒鳴りまくる仁王をなだめてとりあえず座らせる。
ほんとこの喫茶店ごめんなさい。
仁王は幸村くんに買い出しを頼まれたらしい。
そこで偶然私たちを見つけたみたいだ。
「ほお……。とりあえず、お前らが"雫色"と"真昼の夜"で、俺らがこっちの世界に来る直前のことについて話してたってことか」
「うん。まあ、そんな感じ。というか部活はいいの?」
「ちょっとくらい平気」
さらっと説明をしたが、仁王はピンときていないようだ。
まあいきなりの話だしね。
「その様子だと、やはり仁王に記憶はないみたいだね」
「おう。お前らの姿も覚えとらん」
「役立たず」
自信満々に答えた仁王に不二の言葉がグサリと突き刺さる。
おうふっと訳のわからない声を出して仁王は胸をおさえてうずくまった。
私はその光景に、ふっと笑いをこぼした。
「………でもまあ、有梨をリラックスさせたってとこでは、役立たずではないかな」
「え、」
不二が私に優しく微笑んだ。
「いろんな話を一気にしてごめんね、有梨。混乱するのも普通だよ。……ちょっとは落ち着いたかな?」
「あ………」
そうか、不二は私のこと心配してくれてたんだ。
でも確かに仁王が来たってことで、アウェー感はなくなってちょっと落ち着いたかな。
「うん、大丈夫。ありがとう」
「そっか」
不二はまた微笑んだ。
「忍足とは連絡とれた?」
「あ、」
忘れてた、と慌ててスマホを見ると同時に、電話がかかってきた。
謙也からだ。
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