【ノヤ潔】十年後、二十年後も 絶対、約束!
真剣な顔つきで好きだと言った彼に、すぐに返事をすることが出来なかった。それに苦笑しながら彼は返事はいつでもいいと言い、私一人残してその場を後にする。
夏休みを迎える終業式の日だった。
彼は何故このタイミングで告白してきたのだろう。
夏休みと言っても部活があるのでほぼ毎日学校に行くことになる。役割は違えど彼は部の後輩で、当然夏休み中も顔を合わせる。
少しばかり気まずい。
休み中にゆっくり返事を考えて欲しかった…ということなのだろうか?
いいや、告白のタイミングなどどうでもいい。
そんなことより自分はどうしたいのか。
彼のことは嫌いではない。
自分を慕ってくれている良い後輩だ。
ただ、それだけだった。
故に告白されて頭が真っ白になる。
彼がそんな想いを抱いていたとは知らず、美人だなどと褒められても軽くあしらってしまっていた。
考えれば考える程、彼が何故自分に好意を抱いているかわからない。
「潔子さん?」
自身を呼ぶ声にハッとして声の方を見ると心配そうな顔をした彼がいた。
「少し考え事してただけだから」
だからそんな顔することない。言うと彼は困ったように笑ってからコートに戻って行った。
そういえば部活中だったと、長いこと考え事をしていた自分にため息をつく。
ぼーっとするなんて私らしくない。彼のことを考えると、なんだか自分が自分でなくなってしまう。
夏休み三日目の部活が終わり各自帰り支度をする中、そういえば今日は夏祭りだったなと誰かが言った。
チラリと彼を見ると目が合いドキリとする。
「一緒にお祭り行きましょう!」
そう言って笑う彼に私はただ頷いた。
一度家に帰ってから祭り会場で待ち合わせることにして、彼とは一旦学校で別れた。
家に着くと祭りに行くと言って母に浴衣を出してもらう。白地に赤とピンクの牡丹が描かれたお気に入りの浴衣。せっかくだからと髪もアップにして簪を差す。
「変じゃないかな…」
気合い入りすぎ…?いわゆるデートというやつだし、祭りなのだからこのくらい着飾っても問題はないか。
考えているうちに時間が迫り、慌てて待ち合わせ場所へと足を運んだ。
祭り会場へ向かうと彼の方が先に着いていたようで後ろから声をかける。
「西谷」
振り返った彼が驚いた顔のまま固まって、そんなに変だったかと自分の姿が心配になった。
「…変かな」
「あ…いや、凄い綺麗です!似合ってます!」
「ありがとう」
「じゃあ、行きましょうか」
言って差し出された手に戸惑いながらも彼の手をとり歩き出す。
「結構賑わってますねぇ〜!」
りんご飴でも買います?なんて言って出店を指指す彼がなんだか子供っぽくて思わず笑ってしまった。
買って貰ったりんご飴を片手に「後で綿あめも買おうね」なんて話しながらまた彼の手をとる。
誰がみても彼氏と彼女が手を繋いで祭りを楽しんでいるようにしか見えないだろうなと思う。
「ねぇ西谷、恋人じゃないのにずっとこうやって一緒に笑ってたいって思ったら変かな?」
「…変じゃないっす。俺もそう思ってます」
彼の手に力が入ったのが伝わる。
「期待してもいいですか?」
「うん。いいよ」
「もう一回告白しても?」
「うん」
「潔子さんが好きです。俺と付き合って下さい」
「私も西谷が好き。よろしくお願いします」
祭り会場を歩きながら、次は何を買おうかと話すような軽い口振りでの告白に互いに笑ってしまう。
でもその位が堅苦しくなくて丁度いい。
「来年もまた来ようね」
「来年とは言わずに、十年後、二十年
年後も」
「それは凄いね」
「約束ですよ?」
「ふふっわかった、約束」
十年後、二十年後も 絶対、約束!
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