1 俺たちは結界師
日本には "妖怪の類を引き寄せるスポット" というものが存在する。
中でも烏森学園、烏野高校は別格で 他のスポットとは比べものにならないほどたくさんの妖怪の類が引き寄せられるスポットである。
烏森学園には何やら強い力がある何かがあるらしく、因縁のある烏野高校はその影響をもろに受けている状態だ。
そんな場所に "妖退治の専門家" として立ち上がる者たちがいた。
烏森学園には、墨村家・雪村家。
烏野高校には、岩泉家・菅原家。
四家は "結界師一族" と呼ばれ、主に "結界術" を用いて妖を退治する――
*
【岩泉side】
家のしきたりだった。
高校は"烏野高校"に進学し、昼夜妖退治をしなければならない。
正方形の"正統継承者の証"とも言える例の印が俺の二の腕に付いて産まれた日からの宿命だった。
ある程度の修行はしてきたが、俺はまだまだ結界術を使いこなせていなかった。
というか、馬鹿力の大雑把すぎて丁寧さに欠けているらしい。
烏野高校では、今も妖の害に苦しむ人もいる。最近は妖気にあてられやすい人が増えたと思う。
だから俺は、烏野高校に進学することを決めた。
でも……最後まで、そのことを及川に伝えられずにいた。
及川は昔からかなり妖を寄せ集めてしまう体質だった。
でも及川自身は妖は見えない。見えなくていい。
本当なら、俺が側にいて妖から守ってあげたいが、生憎そうはいかない。
……青城には菅原と俺で結界のまじないをかけておいたから大丈夫だろう。
ちなみに言うと烏野は結界をはってもその内部に妖が現れるので意味がない。
だから、烏森もそうだが、烏野も妖が敷地外に出ないような結界をはってある。
中学校での最後の部活の帰り道。
及川は何も知らずに、明日から1年生だね、とか 青城に可愛い子いるかな、とか クソみてぇなことを延々と一人で語っていた。
……及川、お前の青城の推薦入試の日、俺は烏野の推薦入試受けてたんだぜ?
あの時は "あ?推薦だろ?受けたよ(烏野の)" って言ったから嘘はついてないけど、結構精神的に辛かった。
受かった時も一緒だった。
「……悪い、及川……」
「?何か言った岩ちゃん?」
「いや……じゃあな」
分かれ道でいつも通りに別れる。
「またね岩ちゃん!」
及川の声に、俺が振り向くことはなかった。
次の日。
俺は烏野の近くに借りたアパートで、真っ黒な学ランに袖を通した。
*
【及川side】
「岩ちゃん……」
思えば、部活を引退してから岩ちゃんの様子がおかしかった。
あの日だって、おかしいことに気付くべきだったのに……
青葉城西高校 入学式……の前のクラス発表。
俺は "岩泉一" の名前を見付けることができなかった。
メールしても返事が来ない。
電話も繋がらない。
岩ちゃんの家はもぬけの殻。
何?
どうなってんの……?
だって岩ちゃんは、俺と一緒に青城に……
俺はたまらず中学校へ電話した。
《……言うなって言われてたんだけど、やっぱりお前には言うな。
――岩泉は、烏野に行ったよ》
「からす、の……?」
*
【岩泉side】
烏野の夜は忙しい。
烏森ほどではないが、低級の妖がどっさり現れる。
……こんな低級の妖にも影響受けやすい奴がいるから、全部倒さなきゃいけないんだよなあ……
くぁ、と天穴を抱えてあくびをすると、ドスッと脇腹に衝撃が走った。
「仕事中。欠伸しない」
「へーい」
白い服に身を包んだ、俺の相棒……菅原。
こいつは結界術は使えないが、類い稀なる敏感で強力な霊力を見事にコントロールする。
低級妖の気配に疎い俺の代わりにピンポイントで場所を教えてくれたり、 手強い相手には俺の霊力を上げることも可能だ。
「一、南東七時の方向、第一体育館脇の自動販売機の横」
「了解。――結!」
結界で道を作りながら最短ルートで行くと、ちっこいふわふわとしたものが浮いていた。
「方囲、定礎、結!滅!」
「天穴!」
「……おい最後奪うなよ」
「うへぺろ」
「や め ろ」
天穴で妖を吸い取り終えると、今日の仕事は終了。
こんな毎日を繰り返して、俺は今日も生きる。
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