ハイキュー短編 | ナノ


  谷地仁花には双子のお兄さんがいるらしい


「俺の仁花にベタベタと触るんじゃねええええ!!!!!!!!!!!!」



谷地仁花がマネージャーになって数週間後の出来事だった。





谷地仁花には双子のお兄さんがいるらしい





「今日も今日とてやっちゃん天使」

「目の保養」

「癒し」

「オアシス」



部活開始前、パタパタと体育館を駆け回る谷地仁花(と書いて天使と読む)を眺めつつ、烏野排球部三年のいつもの真顔談議が始まった。
ちなみに上から菅原、澤村、東峰、清水の声である。



「何であんなにやっちゃんは可愛いんだろうか」

「あんな可愛い子が烏野排球部にいる……これは運命なんだろうか」

「行動がいちいち可愛すぎる……俺たちの毛根は日々危機に曝されていることを忘れてはいけない」

「油断するな……いつ口が滑って本音と建前が逆になってしまうかわからないんだから。ちゃんと気張っとけ」



よし、と三年たちは気合いを入れた。

一方、その頃の一、二年はというと……



「やっちゃん今日もはりきってるな」

「転ばないか心配だな」

「じゃあやっちゃんから目を離しちゃいけないな」

「そうだな。ずっと見ていよう」

「そうしよう」



こちら二年生。
上から成田、縁下、西谷、田中、木下。



「あ、谷地さんだ!谷地さん手伝うよー!」

「ぬけがけすんな日向ボゲェ!!谷地さん俺も何か手伝うっす!!」

「変人コンビは相変わらず無駄に元気だねえ?あ、そのドリンク運ぶからこっち寄越して。危なっかしくて見てらんない」

「あ、そっちの新品のテープは救急箱に入れておけばいいのかな?暇だしやっておくよ!」



そしてこちらが一年。言わずもがな 上から日向、影山、月島、山口の声である。

ところで、声をかけられた当の本人はというと……



「み、皆様ありがとうございます……!!」



かなり感動した様子で、頭を地につけた。




……これまでのことでわかる通り、烏野排球部は皆、谷地仁花を溺愛している。




頭を地につけた仁花を宥めて立ち上がらせると、一年たちは順番に仁花の頭を撫でた。
一年が終わると、次は二年。そして三年と続く。

これは仁花が入部してからの慣行で、最初は "早く部員に慣れてもらうため" という理由からだったが、今では "部員が撫でたいから" という理由になっている。本人は気付いていないが。
だって可愛いんだもん、と部員は語る。






平均身長175cm超えのむさ苦しい男子バレー部に、清水潔子とは別の新しい癒しが入り、部の雰囲気がよりいっそう柔らかくなったように感じる。

キュッと目を閉じながら自分の掌の感覚に頬を染める仁花を見て、澤村は無意識に仁花の頭を撫でる手を止めずにいた。



「あ、あの……」

「ん?」



止まらない手を不思議に思った仁花は意を決して澤村に話しかけた。



「あの、もうすぐ部活が始ま」

「俺の仁花にベタベタと触るんじゃねええええ!!!!!!!!!!!!」



そこで突然第二体育館に響いたこの声である。



そして冒頭に戻る。



シンと静まり返った第二体育館。
部員は皆声がした方を見てぽかんと口を開けている。

そこには、澤村と同じくらいの背丈の、黒髪の少年(烏野の学ランを着ているから烏野の生徒であろう)が、息を切らして澤村を睨んでいた。
ピリピリとした空気が走る。


そんな中静寂を断ち切ったのは、バレー部のムードメーカーだった。



「あれ?義樹じゃん!何やってんだよー」

「、おう、日向」



パタパタとその少年に駆け寄る日向。
日向の声に我に返った一同は、日向の後を追ってその少年に近付いた。
しかし少年はそんな日向たちに脇目もふらず、一目散に仁花と澤村のもとへ走った。
そして、仁花の頭の上にあった澤村の手を払いのけると、仁花をぎゅっと抱きしめた。



(はああああああああ!?!?!?!?!?!?)



烏野高校排球部の心の声が完全に一致した瞬間だった。

あまりにも衝撃的な出来事にまた呆然とする一同。
それを少年は仁花を抱きしめながら睨みつけた。
何やら仁花が苦しそうにもがいているが、少年は気付いていない。



「……おい日向、何なんだよあいつ」



マイペースな影山がチッと舌打ちしながら日向に聞くと、日向は頭を捻りながら答えた。



「義樹は俺のクラスメイトだけど……」



クラスメイトにも関わらず、日向も今の状況を理解できていないようだった。



「へぇ、同い年か」

「なんだ、年下か」



変人コンビの会話を聞いた月島と縁下が、額に青筋をたてながらにこりと笑った。正直怖い。


すると、パンッ と手を叩く音がした。


音の発信源は主将である澤村。
今だ睨み続けている義樹を見て、月島や縁下と同じように笑っている。怖い。



「とりあえず、やっちゃんが苦しそうだから離そうか?それからやっちゃんを速やかにこちらに引き渡すこと」

「……あんたが主将さん?」

「そうだけど」



自分を睨みつける義樹に、にこり、と澤村が笑う。
もうやめてくれ、と部員の心の声がした。


しかし一拍おいて次に部員が見たのは――



「いつも妹がお世話になってますッッ!!!!!」



土下座をする少年の姿だった。









「1年1組の谷地義樹。正真正銘仁花の双子の兄貴です」



部活開始を遅らせて始まった烏野高校排球部会議。
体育館の床に座って議題も決めずに突然始まる。
その中心には皆が愛して止まない谷地仁花と、双子の兄だと名乗る義樹が座っていた。



「ほ、本当なの?谷地さん」

「へぇ!?あっハイ!!本当であります!!」

「君同じクラスでしょ?何で苗字同じなの気付かないの?」

「だ、だって "義樹" って名前しか知らなかったから……」



信じられない、といった様子の日向。他の一同もあまり信じていない様子だ。
なぜなら――



「いや、だいたい双子にしちゃ似てなさすぎじゃね?」



影山が言う。
そう、仁花と義樹の容姿は、正反対と言っていいほど似ていなかった。

義樹の髪は黒く、そして何より澤村と同じくらい身長がある。



「俺ら二卵性双生児だから」

「……にらんせい……」

「……ソーセージ?」



美味いのか、と影山が日向に聞き、日向は 知るか と答えた。
他の皆は馬鹿二人をスルーして "二卵性か" と、少し納得。



「でも目元とか口とかよく似てるって言われるぞ」

「……まあ、よく見れば」



色は違えど、パッチリした目やちょこんと突き出した唇は仁花のそれにそっくりだった。
そういえばさっきの土下座も仁花のそれにそっくりだった気がする。

義樹が仁花の双子の兄だとやや信じた澤村が義樹に聞く。



「で、ここには何しに来たんだ?」



この時期に部活開始を遅らせるとは、と澤村のこめかみが引き攣る。



「す、すみません……」

「いや、やっちゃんは悪くないよ」

「そうだぞ悪いのはここの奴らだぞ、仁花」



義樹の言葉に、その場の空気がピシッと凍った。
そんな空気に怖じけもせず、義樹はぐるりと部員を見渡した。



「……バレー部のマネージャーになった、って聞いて……女子バレー部かと思ってこっそり女子の方覗きに行ったらいねぇし……まさかと思って男子バレー部を覗いてみたら案の定仁花はむさ苦しい男子バレー部のマネージャーになってて……しかもその男子バレー部員全員に頭撫でられてるなんてな?……男子バレー部がそんな部活だとは思わなかったよ。……よって、」



にこりと義樹は笑って立ち上がり、仁花を引っ張って同じように立ち上がらせた。



「お兄ちゃんこんな部活は認めません!」

「えっ」

「「「はぁ!?!?!?!?」」」



数週間お世話になりました、と義樹だけお辞儀をして、仁花の手を引いて体育館の出入り口へ足早に連れて行く。
部員は一瞬ぽかんと口を開けたがすぐに我に返って彼らを引き止めようと立ち上がった。



「待――」

「待って!!!」



その声に、皆の動きが止まった。



「待って……義樹」

「……仁花」



その声は、仁花の声だった。

いつの間に、こんなに大きな声を出せるようになったのだろう。
いつの間に、俺に向かってこんなに攻撃的な目をするようになったのだろう。
義樹は、表情には出さず、そんなことを思った。


仁花は、繋がれた義樹の手をギュッと握った。



「わ、私……やめないから」

「……仁花、」

「決めたの!!」


仁花はギッと涙目で義樹を睨む。



「やるって、決めたの。マネージャー」



義樹の握る仁花の手が震える。

その様子を、部員たちはかなり感動した様子で見ていた。



「お願い、義樹。邪魔しないで」

「……」



義樹は、仁花とその後ろの部員をちらりと見渡して、はぁ、と息を吐いた。



「……わかった」

「!義樹、」

「じゃあ俺もマネージャーやるわ」



よろしくお願いします、と ぽかんと口を開ける仁花の目の前で、義樹はお辞儀をした。
















「「「「「はぁああああああああああああああああ!?!?!?!?」」」」」




烏野高校排球部。

マネージャーが3人になりました。

prev / next

[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -