5万打企画 | ナノ


  サムライ誕生


「〜♪〜〜♪」


部活のランニング中に聴こえてきた鼻歌はとても綺麗なソプラノで


俺は一目で、……いや、一耳で虜になってしまった。





+++サムライ誕生+++





「不二先輩」


俺がその人の隣に行くと、その先輩――不二先輩は驚いて少し顔を赤くした。

不二先輩でもそんな顔するんだ。


「ごめん、聴こえた?」
「歌上手いっすね」


死にたい、と呟く不二先輩に、今まで見てきた"天才 不二周助"の姿はなかった。


「何ていう曲っすか?」
「炉○融解っていう曲。知らないだろう?」
「知らないっす。誰が歌ってる曲っすか?」


不二先輩はうーん、と考え出した。
誰の曲か忘れたとか……?


「いや、忘れてはないよ」
サラッと心読まないでください


うーん、とまた考える不二先輩。
俺には不二先輩が悩んでいる理由がさっぱりわからなかった。


「いや、あのね、何と言うか、……越前をこっち側にしていいのかと思って」
「こっち側?」


キョトンと不二先輩を見ると、不二先輩はフフ、と笑った。


「何でもない。さっきの曲はね、ボーカロイドが歌っているんだ」
「?ぼーか、ろいど……?」


初めて聞くグループ名だな、と思った。


「越前は、"ニマニマ動画"って知ってるかい?」
「何すかそれ」


やはり純粋か、とまた不二先輩が呟く。
ニマニマ動画?


「動画サイトの名前なんだけどね、そこが発信点なんだ」
「へー、動画サイトで生まれたグループなんすね」
「グループ?……ああ、違う違う。ボーカロイドは機械なんだ」
「……は?


機械?


「機械で作った音で歌ってるんだよ」
「機械で作った音……?」
「フフ、気になるなら後で聴かせてあげるよ」


思えばこの日、不二先輩の鼻歌に興味を持たずにいたら、俺は一生ニマ動にハマらなかったのかもしれない。









「不二先輩」


部活後。
部活中も気になって仕方がなかった例の"機械で作った音の歌"を聴きに不二先輩の所へ来た。


「何だあ越前、不二先輩に用事か?」


ケラケラとモモ先輩が笑う。
余程俺が不二先輩に話しかけるのが珍しいらしい。


「ちょっと気になることがあって」
「気になること?」
「ぼーかろいぶふっ
「ごめんモモ。お先」
「え?あ、お疲れ様っす……」


不二先輩が細い指の手でとんでもない力で俺の口を塞いでそのまま部室を出る。
部室を出て何歩かした所で不二先輩は手を離した。


「……禁句なんすか、ぼーかろいど」
「ははは、ボーカロイドなんて何のことだい
「は?」


不二先輩はハハハと笑いながら俺にイヤホンを渡してきた。
俺は不思議に思いながらもそれを耳につける。

すぐに不二先輩が鼻歌で歌っていた曲だとわかった。

確かに、歌っているのは生身の人間ではない。


「これがボーカロイドっすか」
「だからボーカロイドなんて何のことだい


不二先輩はまたハハハと笑いながら携帯を操作した。
俺の携帯が鳴る。

見ると不二先輩からURLが添付されたメールが届いていた。
ここからニマ動にいける、と。


「ありがとうございます」
「ハハハ、ボーカロイドなんて何のことだい
いつまで続けるんすか


不二先輩はまたハハハと笑う。


「そこのURLの所に行けば僕が何故こうなっているのかわかるさハハハ」
「ふーん」


ちょうどその時、次の曲にうつった。
また同じ曲か。


「不二先輩、この曲――」


何で2つも入ってるんすか、と聴こうとして、聴こえてきた歌声に俺は息が止まった。



綺麗なソプラノの声。

機械音じゃない。

この歌声、今日聴いた――



「これ……もしかして不二先輩っすか」
「え?わああああああ!!ストップストップストップ!!


ぺいっと俺から慌ててイヤホンを引き抜く赤面の不二先輩。


「不二先輩、そんな高い声出せるんすね」
「……え、ヒかないの?」
「は?」


ヒク?


「だって……ぶっちゃけキモくない?」
「何がっすか?」
「男がこんな高い声出るの」
「寧ろ尊敬しますけど」


一瞬の静寂の後、不二先輩は震える手で俺の頭を撫でた。


「越前……キミは大物になるよ……」
「何言ってんすか」
「"テルノ"」
「え」
「"テルノ"を、ニマニマ動画で検索してみるといい」


じゃあ、と不二先輩は自宅への帰り道を歩いていった。

何か今日の不二先輩変だったな……


"テルノ"か……













「……おはよう、越前」
「……ああ、不二先輩」
「……寝不足?」
「見事にハマりました」


俺は昨日の夜ニマニマ動画を開き、朝までずっと徘徊してしまっていた。

ボーカロイドにはいろんなのがいるってことも、
先輩の言った"テルノ"は不二先輩のことだってことも、
俺は一晩で学習していた。


「本当、無駄な知識だけどね」
だからナチュラルに心読まないでください


不二先輩はフフフ、と笑う。
……昨日聴いた"テルノ"の印象はどこにもない。


「おもしろかった?」
「まあ……ちょっとやってみたくなりました」
「へえ。じゃあ越前が活動し始めたら真っ先に応援しに行くよ」
「はあ、どうも」


俺が興味を持ったのはゲーム実況とか、ボカロ曲を英語で歌ってみたとか。
それなら自分にでもできそうな気がした。


「あ、不二先輩」
「ん?」
「俺の名前、"サムライ"って言うんで」


俺はそれだけ言うと部室まで走った。



……なんか恥ずかしい。






……でも、



























なぜか、ちょっと嬉しかったんだ。









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亜矢子様リクエストありがとうございました!

キャラ指定がなかったのでとりあえず本編に登場していないリョーマを出してみました

何か微妙に腐ってますかね……そういうつもりはないんですけど!決して!

機会があれば他のキャラたちのきっかけも番外編で書きたいと思いますので
よろしくお願いします!



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