5万打企画 | ナノ


  私は"竜崎桜乃"


「おーい竜崎!」
『はーい』


"竜崎桜乃"は長い三つ編みを翻して立ち上がった。









+++私は"竜崎桜乃"+++









私の名前はさっきも言ったけど"竜崎桜乃"。
でも"原作"の竜崎桜乃とはちょっと違う。
え?ちょっとどころじゃない?
そう言う人もいるかもしれないね。


そう。"私"は"テニスの王子様"を知っている。


知っている、というかめちゃくちゃファンだった。
詳しいことは鮮明にはもう覚えていないけど、それだけは覚えている。


"私"が何者か。

まあ、一言で言うと成り代わりってやつ。


生まれた時はびっくりしたよ。
しゃべれないし。
体動かないし。
目の前に竜崎先生いるし。

てかどうせならレギュラーのキャラとかに成り代わりたかったな……


まあそんなこんなでこれを読んでいる人はもうお分かりだろうけど、私はかなりひねくれている
そこらへんは自分でもよーく理解しているから安心してほしい。


そんなひねくれた性格を持って生まれてきてしまった"私"――竜崎桜乃は、『テニプリの世界来てテニスしないなんてことがあるのか?いや、ない!(反語)』と思いたって、3歳ころかな?それくらいからテニスを始めた。
いや、正確には0歳からテニスボールとラケットには触れてたよ。
重くて持てなかったけど。

残念ながら"私"の頭の中には"原作通りの人生を歩む"という選択肢はなかったのだ。
だってつまんないじゃん!


てことで小学校の頃から大会に出場し始め、軽々と全国大会制覇。
毎年出場してたもんだから連続制覇しちゃったてへぺろ。


私ってすごい!!











さて、話はぶっ飛んで中学生になった私は青春学園中等部に進学。
部活は男子硬式テニス部のマネージャーをやっています。

もう一回言う?
男子硬式テニス部のマネージャーをやっています。


なんでマネージャー?って思った人も少なくないだろう。

『女子硬式テニス部には相手になるような人がいなくて正直雑魚ばっかだったから男子テニス部に入って男子と試合するんだ☆(キュルリルリーン』

























……なーんて


甘っちょろい理由じゃないんだなこれが。



詳しくは私もあんまり言いたくないんだけどさ、ほら、私ってこう見えて豆腐のハートの持ち主なのよね。
で、小学生の頃連続全国優勝してたら、相手から反感買っちゃってさ。
いわゆるいじめってやつだよ。
あー怖い怖い。


それで、私がテニスをできなくなるくらい、ひどいことを、されたんだ。


怪我とかじゃないよ。
どちらかというと精神的。

ま、気が向いたら詳しく教えるよ。


「竜崎、2年が一人足を捻ったみたいなんだ。2番コートのベンチに座らせてるから行ってくれ」
『わかりました、大石先輩』


救急箱を持って2番コートへ走る。


テニス部の皆は私がテニスをできることを知らない。
なぜなら私が言ってないから。
竜崎先生にも口止めしておいた。


本当はマネージャーなんてやりたくなかったんだけどね……またいじめとかあったら嫌だし、めんどくさいし。

友達の某朋ちゃんに連れられて一日マネージャー体験したのが悪かった。
なんか私燃えちゃって。
すんごいテキパキ働いちゃったから、後日手塚部長と大石副部長で「男子テニス部のマネージャーをやってくれないか」と言われた。教室で。
そんなこと教室で言われたら断れる訳ないじゃないですかー(棒)

そんなことがあって今は"全校生徒公認の"男子テニス部マネージャー、竜崎桜乃です。


『これ痛いですか?』
「大丈夫」
『これは「っああああああ痛い痛い痛い」……すみませんちょっと強く押しすぎました』


私は少し腫れている先輩の足に手早く氷袋を包帯で巻きつけた。


『骨は折れていないようですし、靭帯も多分切れてはいないと思います。でも少し腫れているので、痛みがひかないようでしたら病院に行ってくださいね』
「お、おう、ありがとな竜崎」


私はにこりと笑って答える。


『私はマネージャーですから』


前置きが長くなったが、そんな私が"テニスの王子様"の主人公……越前リョーマに出会った時の話をしようと思う。






















あれは私が青春学園中等部への推薦入学が決まった後のことだった。


『柿ノ木坂ジュニアテニス?』
《そうそう。それにアタシの教え子の息子が出場するっていうからさ、ちょいと見に行ってみないかい?桜乃と同い年だよ》


おばあちゃんの教え子の息子……?
私と同い年……?

って、それってもしかして……


『どういう人なの?その教え子の息子さんって』
《とんでもない奴さ。なんていったってJr.大会4連続優勝の天才少年だからねえ》


越前リョーマ キター!!!!


『Jr.大会4連続優勝!?すごいね!!会ってみたいなあ』
《ハハハ!!16歳以下の部に出場するみたいだから、明日9時に青春台駅で待っておいで》
『9時に青春台駅ね!わかった!』


ガチャン、と家の固定電話の受話器をおく。

12歳で16歳以下の部に出場する、竜崎先生の教え子の息子……か。
やっと"テニスの王子様"が始まるわけだね!!
楽しみ楽しみ















家の最寄り駅から電車に乗る。

えーと、確か座ってたら高校生にはさまれちゃってふえーんってなるんだよね!
そんじゃ、まあ立つに決まってんじゃん?


「あっはっは!!お前ら自分のグリップの握りも知らねぇのかよ トップスピンを打ちてーんならウエスタングリップだろ!!」


あれ?
桜乃がいるはずの席に違う女の子がいる……
うわあめっちゃ困ってるよこれ私のせいかな


「こうやってラケット面を立てて握手する感じで握んだよ」
「おおーっさすが佐々部!!」
「バーカ常識だろ!!」
『その常識、間違ってるけどね』


ぴた、と高校生たちの声が止む。
しょうがないじゃん。
私の代わりに困っている人がいるんだもん。


「は?何か言ったかお譲ちゃん」
『握手するように握るのはイースタングリップ。置いたラケットを上から掴むように持つのが正しいウエスタングリップの握り方。よくいるんだよね、逆に覚えてる人』
「な……っ」
『ああ、ついでに言うと電車内でラケット振り回すのも非常識だけどね』
「てめ……っ言わせておけば!!」


佐々部のラケットが振り上げられる。
だから非常識は嫌なんだ。
小さくため息をついて身構えた、その時だった。


「ねえ」


!!

この、声は……

ゆっくりと、振り返る。


「うるさいんだけど」


越前リョーマ キター!!!!(二回目)


やっと会えたよ主人公に!!

この時の私は舞い上がっていて、高校生相手に"素"が出てしまったことをすっかり忘れていたのでした。


《青春台〜青春台〜お降りの際はお忘れものにご注意ください》


『あ』
「チッ降りるぞ!!」


私も降りなきゃ!


「ねえ」
『えっ』


ホームに降りた時だった。
腕を掴まれ、振り向くと越前リョーマがいた。

何これフラグ……!?


「アンタ、あんな高校生相手に一人で立ち向かうなんていい度胸してるよ」
『え……っ』
「ま、悪く言うと考えナシ、ってとこだけどね」


は?


『考え?』
「あのまま乱闘にでもなったらどうする気だったんだよ」
『ああ……あの佐々部とかいう高校生、あの人柿ノ木坂ジュニアテニスに出場してるみたいだったし、乱闘騒ぎ起こしたら即効デフォ(失格)でしょ?だから乱闘になる前にそれを言おうとしたの』


越前リョーマは驚いたように目を開いた。


「……フーン。なかなか面白いじゃん」
『え?』
「何でもない。じゃ」


越前リョーマは帽子を深く被り直して、改札口へ歩いて行った。


「あ、そうだ」


しかし、改札の一歩手前で立ち止まって振り返った。


「柿ノ木坂テニスガーデンってどっち?」







































「おーい桜乃ー!!すまんすまん遅くなった!」
『もー遅ーい!おばあちゃん』
「……何ニヤニヤしてんだい?何かいいことでもあったのかい?」
『えー?何もー?』


そりゃあニヤニヤもするよ!
やっとテニスの王子様のキャラに出会えたんだもん!


「そうかいそうかい、ま、早くアタシの車に乗りな!」


そう言っておばあちゃんが歩き出した方向は北口方面。


『あれ?南口じゃあ……』
「何言ってんだい、柿ノ木坂テニスガーデンは北口だよ?」


サアと全身の血が引く。


"柿ノ木坂テニスガーデンってどっち?"
"えーと、確か南口を出て真っ直ぐ行けば……"
"南口ね……ありがと"


私のばかあああああああああああ!!!!!!!!!!

所詮私は"竜崎桜乃"ってことかよちくしょおおおおおお

あんなに意識して原作通りに進まないようにしてたのに……!!!
注意してたのに……!!!
リョーマに会えたからって浮かれすぎた……!!!

……これで原作通りリョーマはデフォになって……





佐々部と試合だ!!!



『悪く思うなよ、少年……』
「?何か言ったかい桜乃」
『ううん!何も!!』
























えーと、確かこの辺に寝っ転がって……あ!


『いた!』


ラケットバックを枕にして寝っ転がっているリョーマ発見!
リョーマは私の声に反応して帽子の隙間から私を見た。


『あの……試合間に合いました?』
「……5分遅刻。デフォ」


やっぱりか!


『ご、ごめんなさい、私のせいですよね』
「当たり。他に誰がいる?」


リョーマの声は聞いたことのないくらい不機嫌そうだった。
うわあめっちゃ怒ってるよ。


「喉かわいた……」
『あっそれなら』


たまたま自動販売機あったから買っておいたんだよね、ポンタ!


『お詫びにどうぞ』
「……」


リョーマはポンタを見ると大きく目を見開いた。


「俺の好きなやつ、何で知ってんの?」
『え!?あ、あー、ぐ、偶然だね!私飲みたかったから同じの買っちゃったんだけど!良かったあーそれ買って!あはははは……』
「ふーん……」


やばいやばい。
そこまで考えてなかったよ。
これからは気をつけないと……


「おっあいつさっきのガキたちじゃねーか?」


馬鹿にしたような声がして、振り向くと佐々部たちがいた。
佐々部ユニフォームを着ている。
清々しい顔をしているところを見ると、まだ勝ち残っているらしい。


「あれれ?何かもう負けて帰るみたいよん?」


佐々部の後ろにいた女子高生がクスクスと笑う。
あー何かイラっとくるなあその言い方。
負けたんじゃなくて遅刻してデフォになったんだっつーの。
……私のせいだけど。

だいたいリョーマが試合して負けるわけないじゃんこいつらばっかじゃないの!!

私がイライラを心の内におさめておこうと自分と格闘していると、佐々部がニイッと笑って、リョーマに向けてラケットを振り上げた。


……残念ながら私の予測の範囲内だけどね。


ガンッ


「な、」
『小学生相手にこれはないんじゃない?大人げないよお兄さん』


私は素早くラケットを取り出し、佐々部のラケットを自分のラケットで止めた。


『ラケットは……人を傷つける道具じゃない』
「ハッ!最初から当てるつもりなんてねーよ!」
『後からなら何とでも言えるからね』
「何……?」


後ろでハァというリョーマのため息が聞こえた。
佐々部はみるみる顔を真っ赤にさせる。


「ちょうどいいからアップに付き合ってもらえば?佐々部」
「はあ?小学生の女子なんてアップにすらなんねえよ」
「なら」


リョーマがラケットを取り出してラケットで佐々部を差した。


「俺にテニス、教えてくんない?」































近くの空いているテニスコートに入る佐々部とリョーマ。
心配なんてしてない。
絶対リョーマが勝つに決まってる。


「ザ・ベスト・オブ・ワンセットマッチ・佐々部サービスプレイ」


てか佐々部からサーブなのか……やっぱ大人げない……


ガキに俺のサーブが返せるかよ!と余裕でサーブをする佐々部。
ドッとボールがリョーマのコートに入る。
リョーマはそのボールを見逃した。

……なーんだ、こんなもんか……。


「ガキ相手に容赦なんてするかよ!」


パァンとまたサーブを打つ佐々部。


「遅い」


リョーマは素早く反応してそのサーブを返した。
ボールは綺麗に佐々部の右脇を通り抜けた。

佐々部が呆然としていると佐々部の取り巻きたちが驚きの声をあげた。
え?今のファーストサーブだったの?


「ねえ、今のセカンドサーブ?」


リョーマが挑発する。
私はつまらなくなってあくびをしてベンチに座った。
試合終わるまで2分くらい、かな。





リョーマが佐々部のサービスゲームをとった後、リョーマはずっと右手でラケットを持っていた。
まああんな奴に左手なんて使う必要ないよね。


「会場におらんと思ったらこんな所にいた。困った王子様だねえ……」
『あ、おばあちゃん』


竜崎先生が来た。


「驚いたねえリョーマと桜乃が一緒にいたとは」
『ああ、実は電車でも会ったんだよね』
「おや、よくわかったねえ」
『そりゃあアメリカのジュニア大会は何回も見たもん。顔くらい嫌でも覚えるよぉ』





「ゲームセット。俺の勝ち」


ほーらやっぱり勝った。


「待て!」


もう1セットやれって言うんでしょ?
無理無理無理あんたらじゃリョーマになんて何回やっても勝てないって。


「コラー!そこで勝手に試合をやっちゃダメじゃないかー!!」
「やべっ逃げろ!!」


















あの日はその後リョーマくんとおばあちゃんが何か話してたなあ。
私はなんとなく二人の話に入れなくてそこらへんをぶらぶらしてた。

その時に私の話を聞いたのかな。




彼――越前リョーマと再会したのは入学式の日。

彼は私にこう言った。


「俺と試合してよ」


私は即答した。


断る



思えば、初対面の時から"素"が出てしまっていたし、おばあちゃんに私のテニスのことについて口止めをしたのもその後だった。


あろうことか私は彼に弱みを握られてしまったのだ。
















『はぁ……』
「なにでっかいため息ついてんの」
『げ』


出た。
救急箱を置きに部室に戻るとリョーマが部室に入ってきた。


『何か忘れ物?』
「べつに」


できるだけこいつには関わりたくない。
私の本能がそう言っていた。


『あっそ。じゃあ』
「いつ」


私は部室から出ようとしていた足を止めた。


『……何?』
「いつになったら、アンタのテニスが見られる?」





テニスラケットを握ると襲ってくるいじめの記憶。

ボールが飛んでくると過敏に反応してしまう身体。





『……わからない。けど……』





人間は、恐ろしい。


でも、最近は………



私は部室から出て、みんなの部活の様子を見渡した。




『……そう、遠くはないかもね』




















きっと






いつか






























































あなたと試合をしたいな。












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あおい様リクエストありがとうございました!

やたら長ったらしくなってしまってすみません

機会があればまた書きたいと思います



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