29 懐中時計[財前side]
「財前」
「、何や」
金太郎が小声で話しかけてきた。
俺も奴らに気付かれないように、金太郎の方を見ずに小声で応える。
何や……?
やけに真剣な声やったけど…
「ワイの左ポケットに入っとる時計、取ってくれへん?」
「時計?」
こんな時に何を、と思ったが、どうやら金太郎には考えがあるらしい。
頼む、と もう一度真剣に言ってきた所を見ると、かなりマジだ。
俺はできるだけ気付かれないようにに金太郎の左ポケットに手を滑り込ませた。
「っ、これ……」
「ええから、早う」
出てきたのは、腕時計やデジタル時計などでは無い……
昔ながらの、年季の入った懐中時計……重さもある。
一体どうするんだ?
というかこんなもの持っていたのか。
「、ワイの、右手に……っ」
俺はとりあえず言う通りに、時計を金太郎の右手に持たせた。
チッチッチッと秒針が進む音が聞こえてきた。
カチッ
金太郎が時計を開いた。
その瞬間――
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