1万打企画 | ナノ


  記録すとっぷ


「同窓会?」
《おん。来るやろ、光?》


電話から懐かしい中学時代のクラスメイトの声がする。



俺は、20歳になった。
まあ成人っちゅーやつやな。


クラスメイトの声を聞き、思わず中学の頃を思い出す。

1年生の時、先輩らの根性に負けてテニス部に入り、初めて"自分"について考えた。
今まで何となく生きてきた自分を……これからを、生きていく自分を……。

2年生の時、全国ベスト4まで進み、俺は部長になった。
U-17の合宿にも(面倒臭かったが)参加し、高校生との……たった2、3年の"差"を見せつけられた。

3年生の時、全国ベスト8までで止まってしまい、初めて悔し涙を流した。
卒業式でも泣かなかったのにな……。


……そういえば、卒業式の時……いや、卒業式のしばらく後にあった打ち上げの時だったかな。


・・・
あいつに、連絡先聞かれたんだっけ。



でも周りにいたクラスメイトが冷やかしたから、結局連絡先渡せずに……


《光? おーい》
「……あ」
《行くんか? 行かないんか?》


あいつも、来るかな。
もう遅いかもしれないけど、元気かな……

会いたいな、あいつに。


「……しゃーないから行ったるわ」








打ち上げの場所は昔よく行ったお好み焼きの店。

楽しみにしていたことを気付かれないようにちょっと遅く行くと、既にみんなは酔っぱらっていた。


「おー光遅えぞー!!」
「光も呑めよー!!」
「呑まんわ。明日朝早いし」


酒臭い元クラスメイトを退け、あいつを探す。
女子は酒を呑んだくれる男子から離れて女子トークしているようだ。


「あれ、財前くん?」


その時、突然後ろから声をかけられた。
聞き覚えのある声に、振り向く。


「……倉科」


あいつ……倉科葵は、持ってきたジュースの氷をカランと鳴らして微笑んだ。








倉科と一緒に蒸し暑いお好み焼き屋から外に出た。
涼しい風が火照った体を少しだけ冷ました。


「久しぶり。大学、どう?」
「まあまあやな。遠いから通学大変やけど、自分の好きなこと学べて楽に生きとるわ」


そう言うと、倉科はぷっと笑った。


「お前は?」
「私? 私も毎日充実してるよ。府内の大学だし、短期だからもう就職活動してる人もいるんだ」
「……そうか」


冷たい風が、二人の間をすり抜けた。


「財前くん」


名前を呼ばれて、俺は倉科の方を向いた。


「私ね、大学卒業したら、ニューヨークに行くの」


ニューヨーク……?


「私の通っている大学の教授がね、私の書いた論文をニューヨークの大学に提出したら、"ぜひウチの大学院に"って……せっかくだから、行くことにしたの。……何年あっちにいるかもわからない。もう、日本に戻って来ないかもしれない」


あはは、と笑う倉科だったが、俺には倉科の表情が泣いているようにしか見えなかった。


「……良かったやん」


違う。


「……うん」


こんな表情させるつもりじゃなかった。


"俺はお前に会うために今日ここに来た"

"必ず日本に帰ってきてくれ"

"ニューヨークに行っても、俺のこと忘れないでくれ"

"帰ってこれないのなら、俺が会いに行く"



"好きだ"



こんな簡潔な言葉が、言えない。
たった3文字の言葉さえ、喉から出てくれない。

あの時も、そうだった。


"あー!! 財前と倉科が連絡先交換してるー!!"

"ひゅーひゅー!!"


"ばっ、違うわアホ。誰が俺の連絡先教えるかボケ"

"あ……ごめ……、"

"あ、いや、今のは、"

"ごめんっ、じゃあね"



"今のはあいつらを追い払うための嘘や"
そう、言えなくて。
倉科を、傷つけて。


「……倉科」


もう俺は、中学生(こども)やない。


「……戻ってくるんやぞ」
「え?」
「ニューヨーク行っても、絶対戻ってくるんやぞ。……俺のところに」
「……え、」


頬に当たる風が、妙に冷たく気持ちよく感じる。
多分顔に熱が集まってるからやな。


「財前くん、それって、」
「うっさいわ、ボケ。……持っときい」


自分のアドレスを書いた紙きれを乱暴に渡す。


「これ……」
「……あの時、渡せへんかったからな。今お前に彼氏とやらがおるんやったら、余計なお世話やろうけど」


もう5年もたっているから、こいつに既に彼氏がいることは覚悟していた。
いつまでも俺のこと想っとるとか、そういうことも別に期待はしとらんかった。

でも倉科は、優しく紙きれを受け取ってくれた。


「……ありがとう。ちなみに彼氏いない歴20年はまだまだ更新中だよ」
「アホか」


俺は、倉科の唇に、自分のそれを重ねた。
倉科がリアクションをとる前に、俺は体を戻した。


「……これで、記録ストップやろ」
「……うん!」












(瞬きして流れた倉科の涙は温かかくて)

(笑顔の頬を伝って)

(俺の服に小さな染みをつけた)















(あ、ところでさっきのニューヨークに行くっていう話、嘘だから)

(は?)

(そう言えば財前くんからアクション起こしてくれるからって、白石先輩と忍足先輩が言ってたから、試しちゃった。ごめんね)

(エクスタとスピード殺す)












(葵ちゃん、うまくやっとるかなあ)

(多分大丈夫やと思うで。財前、ずっと気にかけとったし)

(そうか。じゃあ謙也、逃げるで)

(え、なぜ? てかどこに?)

(どこでもええから逃げるんや! 殺されるで!!)

(えええええ)









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すすす。様リクエストの、未来設定 財前の同窓会『記録すとっぷ』でした!

主人公の設定は管理人おまかせということで、一応「東京から大阪に引っ越してきた」という設定で書きました。

きっと財前は大人になったらちょっとは自分のツンデレ具合に気づいて自分でコントロールするんじゃないかと思いますw

すすす。様リクエストありがとうございました!!

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