幸せのアンテナ




 幸せを感じるとき
 それは人それぞれだが、幸せを感じるのにそれぞれ人にボーダーラインがあるらしく、たかがそれくらいの事でと良く言われるもので幸せを感じる自分は幸せなのだと思っていた。
 辛いと感じた分だけ、幸せを感じるアンテナは発達するらしい。
 だから、いつか、同じアンテナを持っている人がいたら、その人と一緒に生きてみたいと思った。
 きっとその人は、この小さな幸せを共有してくれて、一緒に感じてくれるだろうから。
 その人の幸せの欠片と、オレの幸せの欠片、あわせればきっと大きな幸せになると信じている。



「ヒナタ、どうしたのーっ」

 いのの馬鹿でかい声が響き、オレは溜息をついてそちらを見ると、おっとりした青紫色の長い髪を靡かせた彼女が道端にしゃがみ込み、何かを見て笑っていた。

「あ、いのちゃん……ほら、ここ……この前踏みつけられてぺしゃんこになっていた花、元気になったの。良かったなぁって」
「あぁ、それで幸せ感じてたの?全く、ヒナタはいいわよねぇ」

 クスクス笑い何事も無かったようにいのは、サクラに呼ばれてグループの先頭へ歩いていく。
 本日は久方ぶりに同期が集まり、近くの湖まで弁当を持ってハイキング。
 任務明けで面倒ではあったが、女性陣の手作り弁当に惹かれてここまでやってきたのだ。
 残念なことに、サイは所用、ガイ班は任務ゆえに欠席。
 サクラさんの手作り弁当が……と、ゲジマユが泣いていたのは見なかったことにしよう。
 いのに声をかけられたヒナタは、道端の小さな花に微笑みかける。
 そんな小さなことに幸せを見出すヒナタを見て、妙にドキリとした。
 あ……同じかもしれないと思うが、即座に否定。
 いや、オレより、素晴らしいアンテナを持っているのかも……と、思い直す。
 自分は道ばたの花に意識を向ける程、繊細ではない気がしたから……。

「ナルトくん、大丈夫?任務明けでやっぱり疲れちゃった?」

 自分の考えに没頭していたのだが、それを疲れだと心配したヒナタが、珍しくオレの顔を覗き込んできたので、見つめ返しながら笑顔を向けた。
 それと同時に、彼女の持つ大きな荷物が視野に入り、そっと手を差し出す。

「あ、ああ、大丈夫だってばよ、ホラ、ヒナタそれ持ってやるから」
「で、でも……」
「重いだろ」
「あ、ありがとう……」

 ふわんと笑うヒナタを見て、またドキリとする。
 そう、とても幸せそうに笑ってくれる。
 重そうな荷物を何も言わずに運んでいたのに気づかなかったことを詫びると、やはり彼女は嬉しそうに微笑む。
 陽だまりのような笑顔だ。
 見ているこちらが幸せになれる笑顔。

「ナルトくん、行こう」
「ああ」

 遅れを取り戻すように、オレとヒナタは軽く駆け出す。
 凄く嬉しそうで、凄く楽しそうで、凄く幸せそう。
 チラリと横目でその顔を見つめ、自然と笑みがこみ上げてくる。

「湖とても綺麗なんだよ、この前いのちゃんと見つけたの」

 大戦が終わってから、ヒナタは大分どもる事無く話す事ができるようになってきた。
 そういえば、気絶することも少なくなった気がする。
 毎日こうやって努力しているし、自分を変えようと必死なヒナタを見ていると、自分も頑張れる気がした。

「遅いぞ、ウスラトンカチ」
「うるせーよ、お前もサクラちゃんの荷物くら持てってばよ」
「……サクラ、貸せ」
「う、うん……ありがとう」

 それで気づいた男連中が、それぞれ女性陣の荷物を少しずつ持とうとするが、オレは一番重いものを持っていたヒナタの荷物を誰にも渡したくなくて、体力に自信あるんだから任せろと言い、手を退け持ち直す。

「な、ナルトくん、重くない?」
「平気だってばよ。ヒナタこそ、手……大丈夫か?」
「ん、うん……」

 平気と言いつつ隠した手を盗み見れば、少し赤みがさしていて痛々しい跡がついている。
 大丈夫ではないみたいだと思いながらも、それ以上は口にしなかった。
 他のみんなが変に気を回さないようにした配慮なのだろから、その意思を汲みたい。
 わかってる頑張ったなという意味を込めて、ぽんっと軽く頭に触れて柔らかく笑いかけると、ヒナタは恥ずかしそうに俯いてしまった。
 気づかれたのが恥ずかしかったのか?
 最近、こういうヒナタのもじもじした姿も見慣れてきたし、何よりちゃんと待っていれば意思表示だったり笑いかけたりしてくれる。
 以前の自分はその時間すら惜しいと「もういい」と言っていたが、それが無くなった。
 今思えば、かなり損をしていたような気がする。
 ちょっと待っていれば、もう少しちゃんと聴いていれば、彼女はこんなに表情豊かに微笑み、言葉をくれたというのに。


 他愛ない会話をしつつ、いのを先頭に歩いている内に湖に到着したようであった。
 森の間に開けた草原の向こうに、透明度の高い湖があり、その光景は一瞬絵の中に迷い込んだかのように綺麗で、雄大な景色を呆然と見ていたオレたちを促し、いのは草原のど真ん中に誘導した。
 どうやらそこで陣取るらしいと判断したオレたちは、それぞれ持っていた荷物をおろし、敷物を敷く。
 風に飛ばされないように、男連中でちゃんと固定して、その出来映えを確かめて納得いくと、女性陣がその上に弁当類を置いた。
 しかし昼にはまだ早い時間なので一度解散し、それぞれ散策やら湖の淵や水に足をつけて涼をとったりしながら、思い思いに時間を過ごす。


(仲間と自然と君の笑顔)














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