01.やっぱりみんな心配なんです




 任務が終わり、ナルト、カカシ、サイ、サクラの4名は、夜通し走りぬけ昼頃漸く着いた木ノ葉の里中を、火影の執務室に向かっていた。

 今回の任務は、ナルトがかなり体を酷使する事となったが、その分早くカタがつき、そして、何よりも犠牲者が出ずに済んだと素直に喜びながら報告すべく、ここまで来たら急ぐ事もないだろうと閑談しながら里を歩いているときだった。

「は……くしゅんっ」

 一瞬誰がくしゃみをしたのかわからず、一同はキョトンとした顔をして辺りを見渡し、鼻がまだムズムズするのか、微妙な顔をしているナルトを見つける。

 およそ病気から縁が無いとは言わないが、縁遠そうなナルトがくしゃみをしたのもそうなのだが、どう見ても顔が少し赤い。

「ナルト、お前風邪か?」

 カカシが思わず身を乗り出して額に手を当てれば、普段の体温から比べてとても熱い。

 今まで何も感じなかったのがウソのような、そんな体温である。

「あー、熱が出ちゃってるね」

「え、マジでっ」

 カカシの思わぬ言葉に、ナルトはギョッとした顔をしてみれば、呆れたサクラの顔と少々驚いたようなサイの表情が見えた。

「アンタ自分の体温くらいわかりなさいよ」

「へぇ、ナルトでも風邪なんてひくんですね」

 それぞれの反応が返ってくる中、ナルトは己の手で熱を測ってみるが、イマイチわからないといった風体である。

「忍は自己管理も大事な仕事だよ、ナルト。今日はもう帰って休め」

「おう」

「ほら、アンタのことだから、風邪薬なんてないでしょ。あとで持って行ってあげるから」

「すまないってばよ、サクラちゃん」

「家の前までは送っていってあげるよ」

「あー、別に気にすんな、サイ。言うほど大変じゃねーよ」

 何だか照れくさそうに笑いながら、ナルトは手をひらひら振って自らのアパートの方へと歩いていく。

 その後姿を、何となく不安げに見つめる一同は、とりあえず火影執務室へと向かった。

 火影執務室では、シズネが忙しそうにバタバタしており、綱手はというと難しい顔をして書類とにらめっこをしている。

 普段と違い、何だか声をかけづらいような様子ではあったが、報告を済ませなくてはカカシが恐る恐る声をかけた。

「任務終了の報告です」

「ああ……ん?ナルトの姿が見えないが、アイツはどうしたんだい。怪我でもしたのか?」

 書類から視線を上げ、いつもうるさいくらいに声を張り上げるナルトがいないのに気づき、綱手は一瞬目を丸くした。

「ナルトは少々熱があったので、帰って療養するよう言い渡しました」

 カカシの言葉に、綱手は困ったような顔をしてから溜息をつく。

「あのナルトでもかかるんじゃ、仕方ないねぇ」

「と、言いますと?」

「ああ、最近この里でタチの悪い風邪が流行していてね。正直現在人手不足なんだよ……帰ってきて早速で悪いが、サイはヤマトと合流して次の任務へ当たってくれ。カカシはシカマルの小隊に追いついて救助要因強化を頼む。あっちも小隊の一人が高熱を出して動けず欠員補充が必要だ。サクラは医療棟で重症患者の治療」

 テキパキと指示を与えつつ、報告書を受け取り、綱手は大きな溜息をつく。

「ナルトが元気であれば、こっちもカタつがつきそうだったが……シズネ、こちらの件は、犬塚キバと油女シノを向かわせる。召集を頼む」

「はいっ!……あ、ヒナタさんはどうします?」

「それはそれで考えがある、ヒナタも頼む」

「了解しましたっ!」

 バタバタ出て行くシズネを見送った一同は、それぞれの新たな任務の内容を詳しく説明され、各々了承の意を告げ、火影執務室から出ようとして、サクラが「あっ」と声を上げた。

「あ、あの師匠。ナルトに風邪薬届けると約束したんですが……」

「そうかい、それなら別の者を行かせよう。お前は重症患者の対処が先だ、いいね」

「はい」

 任務優先と言われ、さすがに反論も出来ずに頷くと、七班と入れ違うように八班が執務室に入ってきて、少し疲れたような綱手を見つつも次の言葉を待った。

「犬塚キバ、油女シノの両名は、ガイ班と合流。後、ガイの指示に従ってくれ」

「……承知した」

「おう!……って、あれ?ヒナタは?」

「ヒナタは別に頼むことがある」

 そう言って言葉を区切ると、シノとキバの前に地図を出し、簡単な任務の説明をすると、二人は迅速な対応が求められていると判断し、ヒナタに軽く挨拶をしてすぐに執務室を出て行ってしまった。

「あ、あの……綱手様、わ、私は……」

「ああ、お前には、今回ちょっと面倒を頼むことになる」

「は、はい」

 神妙な面持ちでヒナタが頷けば、綱手はどこか安心したような顔をし、小さな袋を出した。

「あ……それは、今回流行している風邪に効く……」

「ああ、厄介なヤツがその風邪を引いちまったみたいでね」

「そ、そうなんですか?」

「ソイツが素直に入院するとも思えん。ソレに……看病っていうあたたかいものも知らないだろうと思う」

「……ナルトくん……ですか」

「鋭いねぇ、頼めるかい。この任務にあたっては拒否権もあるが?」

「ぜ、是非させてください」

「ああ、お前ならそう言ってくれると思ったよ」

 綱手は我が事のように嬉しそうな顔をして頷くと、ヒナタにわずかばかりの金子と薬を渡した。

「あ、あの……これは……」

「この任務の依頼主は私だ」

「綱手様……」

「ナルトの風邪が治るまで、頼んだよ、ヒナタ」

「は、はい!」

 元気良く出て行くヒナタを見送りながら、綱手はホッと一息つく。

 本当なら自らが看病してやりたいのは山々だが、己の仕事を考えると、現状無理だと判断できる。

 何より、ナルトを大事に思ってくれる相手が看病してくれるなら、ナルトも擬似的とは言え、そのあたたかさに触れられるのではないかと思ったのだ。

「甘いかねぇ」

「そうかもしれませんが、そんな綱手様が私は大好きです」

 シズネの柔らかい笑みを見ながら、綱手は照れくさそうな笑みを浮かべる。

 長年知っている間柄だとは言え、こう素直に大好きだといわれると、照れくささが先立ったのだろう。

 綱手はまるでナルトがするように頬骨を指先でコリコリ掻いて、照れくささを誤魔化す。

 そんな姿を見て、シズネは微笑ましくもどことなく似ている二人を思い、笑みを深めるのだった。






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