ちいさな ちいさな うさぎさん 2 「あ、うずまきさん、メッセージカードもお付けしますので、メッセージ書いてくださーいっ」 店員さんに呼ばれて、私たちはカウンターへ行くとそこで小さなメッセージカードがあって、ナルトくんが目で私に書けといっているのがわかり、頷いて了承するとありふれたメッセージを書き添える。それからナルトくんにペンを渡すと、彼はキョトンとして私を見る。 「ナルトくん、名前……書いて欲しいな……」 「ああ、そっか、そうだな」 そういってナルトくんは、うずまきナルトと書き入れ、私の名前……と思ったら、ヒナタと書いてしまった。 な、ナルトくん……そ、その書き方だと……アレだよ、ふ、夫婦……みたいだよっ 「コレでよしっと」 「な、ナルトくん……そ、その……」 「ん?どうした?」 「な……なんても……ないです」 私の様子がおかしいので不思議に思ったのか店員さんがメッセージカードを見て、キョトンとしつつ私たちを交互に見つめてから、私のいえなかった言葉を呟く。 「ご夫婦?」 「だから、結婚してねーっつーの!」 「予定?」 「はっ?」 「……いえ、この書き方……いえ、何でもありません、失礼しました」 笑いを必死に堪えてメッセージカードを添えてラッピングに戻る店員さん。 も、もう……わ、私の心臓が持たないです。 「なーヒナタ。オレたちってそんなに夫婦に見えんのか?」 「え、えっと……ど、どうか……な」 ナルトくんのメッセージカードの書き方が二度目の誤解を招く羽目になったなんて絶対にいえない…… で、でも教えておいた方がいいのかな……違う人に同じことしたら困るよね。 わ、私なら誤解で済むけど…… 「な、ナルトくん……あ、あの……」 「ん?」 「あのね……店員さんがさっき聞いたの……ナルトくんが『うずまきナルト』の後に、私の名字つけずに『ヒナタ』って書いたからなの」 「……それマズイのか?」 「ああいう場合は、私が『うずまきヒナタ』という扱いになっちゃうから」 それを聞いたナルトくんはバッと目を逸らすと耳まで赤くなって口元を手で覆ってしまった。 や、やっぱり恥ずかしいよね、わ、私も恥ずかしい……け、けど……よ、良かった、他の人にしないうちに話せて。 「お、教えてくれてサンキュ……ま、まぁ、ヒナタだからよかったってばよ」 「え?」 「あ、いや、何でもねー」 それ……どういう意味……と尋ねようとした瞬間、店員さんが戻ってきてラッピングの出来た大きな袋を私たちに手渡してくる。 ナルトくんがサッとお会計を済ませてしまって店の外に出ると、結構長い時間あれやこれや迷っていたんだなって改めて思い知った。 空がもう暗くなってる。 「んじゃ、コレはオレが預かってたほうがいいな。影分身の術っ!」 そういってすぐさま印を結んで影分身を出したナルトくんは、荷物を影分身に任せてしまって私の手を引いて一楽を目指す。 いつものようにカウンター席に座ると、くいくいとナルトくんの袖を引っ張って注意をこちらへ向ける。 「ナルトくん、私、お金渡してないよ」 「うーん、ヒナタから金貰いたくねーんだけど、コレばっかりはしょーがねェか」 と言って、素直に私から半分の1000両を受け取ると、見慣れたガマちゃんのお財布の中へ入れてしまう。 何故かナルトくんは、私に支払いをさせるのを極端に嫌がる。 気を遣ってくれているのはわかるんだけど……ナルトくんは一人暮らしなんだから、もっと……わ、私に使わなくても……ほかに使うところがいっぱいあるんじゃないのかな。 そう思っていると、ナルトくんがニヤッと笑って私を見つめながら反論許さぬとでも言うかのような視線で言葉を放つ。 「んじゃ、ココはオレ持ちな」 「……え?な、ナルトくんっ」 「驕り、ヒナタは今日オレのお願い聞いてくれたんだしさ」 「で、でも、私もお願い聞いてもらったものっ」 慌てて反論するけど聞いてくれる気配がない。 ど、どうしてこう……わ、私を甘やかしてくれるんだろう。 こんなの……彼女の特権みたいな……そんなこと…… 「普段頑張ってるヒナタにご褒美だってばよ」 「ナルトくんも頑張ってるもんっ」 「そ、だから、オレはオレでヒナタからご褒美貰ってる」 「……え?」 言っている意味がわからずキョトンとしてしまい、ナルトくんの顔を見つめれば、ナルトくんは嬉しそうに笑いながら私の頭をソッと撫でた。 「だから、気にすんなってばよ」 ナルトくんに、私が何をしてるの? ご褒美? 私に覚えは無いのに…… ナルトくんは嬉しそうに笑ってくれる。 運ばれてきたラーメンを美味しそうに啜りながら、ナルトくんは私の口にナルトを放り込む。 「んんっ」 「ぼーっとしてるとラーメンのびるってばよ」 クククッと楽しそうに笑いながら言うので、私は口の中のナルトをもぐもぐ食べながら自分の前のラーメンを啜り始める。 時々こうやってナルトくんは教えてくれないことがあるけれど、優しいのはいつも同じ。 隣でラーメンを食べるようになったのも、嬉しい出来事の1つ。 「しっかし、さっきのウサギの耳のバスローブ可愛かったな」 「うん、私も子供が出来たら、赤ちゃんにああいうの着せたいなって思ったの」 「あー、可愛いだろうな……うん、すっげェいいと思うぜ」 「可愛いよね」 「ああ、ぜってー可愛いよな」 ふふっと笑いあって私たちがそう話をしていたら、がちゃんっと大きな音がして、そちらを見てみると、アヤメさんがビックリした顔をしてからナルトくんの胸倉を思いっきり掴んだ。 「な、な、ナルト!アンタはヒナタちゃんになんてことをーーーーーっ!」 「は?ちょ、ま……ぎ、ぎぶっ、く、くるしっ」 「おいおい、待ちなアヤメ。ヒナタちゃん、赤ちゃんってどういうことだい」 私は成り行きについていけず、ただ呆然とアヤメさんを見つめていれば、テウチさんが尋ねてきたので、先ほどまでナルトくんと一緒に紅先生の出産祝いを買いに言っていたのだと説明する。 そうしたら、ぼすんっとナルトくんは解放されて席に座り込んだ。 「けほっ、な、……なんだってばよ……けほけほっ」 「ああ、すまねーなナルト。お前がヒナタちゃんを孕ましたと思ったんだよ、アヤメの奴は」 「はあぁっ!?ありえねーだろ!!」 その言葉に、何故かズキリと胸が痛んだ。 う、うん、あり得ないよ。 それはわかってるんだけど……でも、胸が痛いなぁ…… そういう対象としてみてないっていう……意味だよね。 ズキズキする胸を押さえて、私は唇をきゅっと噛めば、ナルトくんの次の言葉が容赦なく耳に飛び込んでくる。 「ヒナタと、そ、そんな……そんなことしたことねーし、それに……ほ、ほら……そういうのはやらねーよ。困るのはヒナタだしよ、女は大事にしてやんねーと。それに結婚してからだろ、子供ってさ。オレの父ちゃんと母ちゃんみてーに幸せになれねーじゃん」 ナルトくんの言い方を聞いてて、私はうん?と首を傾げる。 あり得ないのは、そういうことを……したことが……ないから? そういう……意味? 目を瞬かせてナルトくんを見れば、顔を赤くして私のほうを見ないようにしている横顔。 照れてる……? どうして? 「ほ、ホラ、ヒナタ、早く食っちまえって……ったく、変な誤解されてごめんな」 「う、ううん……い、いいの。気にしてないから」 そう言うとナルトくんの眉間に皺が寄って、え?と思うと、それから無言でナルトくんはラーメンを啜り出す。 さっきまで元気だったのに……気にしてないって……言ったのが気に障った? だ、だって、それは…… 「ナルトくんとだから……いいかなって」 小さく小さく呟いた言葉。 ピクリと反応した隣の気配。 え……ま、まさか……聞こえ……た? と、思って恐る恐るナルトくんを見れば、こちらに顔を見られないように明後日の方向を見ているナルトくん。 でも、首筋と耳はシッカリ見えていて…… とても赤くて…… どうしてか私も嬉しくなって、心がほっこりあたたかくなる。 「……オレも」 え……? その後は、やっぱり沈黙が流れて…… でもさっきと違い、とてもあたたかい沈黙。 どこか心満たされるその無言の世界に、私は笑みを隠すことが出来ず零れ落ちる。 どちらともなく笑い、そして声を上げて笑い出す。 あたたかな空間。 嬉しいと感じるこの時間に、私は心から感謝した。 |