04.見惚れる彼と本当の彼女





「あー……じゃぁ、さっそく勉強見て欲しいってばよ。オレってば、やっとレギュラーになれたのに、試合出られなくなっちまうっ!」

「う、うん」

 机の上を素早く片付けて、ヒナタはカカシから渡されたプリントを広げると、ナルトの方を見てまずはやってみてと呟いた。

「お、おう」

 筆記用具を出し、プリントに向かう姿は良かったのだが、一向に解ける気配が無い。

 シャーペンを握り、プリントを睨み付けては『うーん』と唸っている。

 別段ふざけているワケでもなく、必死に考えているのだということはジックリ観察していれば容易に理解できた。

(もしかして……全然、わからないのかな……)

 ジッとナルトを見ると、彼は困ったような顔をして、眉根を下げる。

「わ、悪ぃ……わかんねェ……」

 弱々しい声で呟かれた言葉に、やっぱりと思いながらも、プリントを眺めてからもう一度ナルトを見つめた。

 必死に頑張ろうとしている。

 それは伺える。

 ほとほと弱った顔をしているナルトを見つめながら、ヒナタは思考を巡らせ疑問に思ったことを素直に言葉にして質問してみた。

「ナルトくん、いつからわからないなって思ったのか……わかるかな」

「あー……今年の春過ぎからはからっきしになっちまった」

 ナルホドと、ヒナタは頷く。

 現在習っている事を叩き込むだけではダメなのだと理解して、ヒナタは不安げなナルトを安心させるように微笑む。

「ナルトくん、大丈夫だよ」

 ヒナタがそう呟けば、ナルトはキョトンとした顔をしてヒナタの目を見つめた。

 何を言おうとしているのか、それを推し量るかのように……

 嘘偽り全てを見抜こうとするかのようなナルトの行動に、ヒナタは心からの言葉なのだと視線を逸らさずに続ける。

「焦らなくても大丈夫。数学の時間苦痛じゃなかった?わからないのに、ジッとしてないといけないなんて辛いよね」

 不思議なくらいスラスラと言葉が出てくるヒナタは、己に驚きながらも、何とかナルトの力になりたいという一心で思考を巡らせる。

「そ、そりゃそーだけどさ……オレがバカだからさ」

 不貞腐れたように口を突き出して、ボソボソ話すナルトに対し、ヒナタは微笑を浮かべたまま首を左右に振ってそれを否定した。

「ナルトくんは、バカじゃないと思う。だって、学ぼうとする意欲があるもの」

「だけど、サクラちゃんは覚えが悪いって殴り飛ばすしさ」

 記憶に新しい、幼馴染の洗礼を思い出したナルトは、ガックリと肩を落とすが、ヒナタはソッとナルトの手を取り、視線を合わせる。

「わからないのは、もっと前からなんだもの。今の授業がわからないのは、小さなわからないものが積み重なっていった結果なんだと思う。だからそれを1つずつ解決すればいいんじゃないかな?それにわからない授業をわからないまま聴いていたら身にならないし、理解出来なくても仕方ないと思うの」

 淀むことなく紡がれる綺麗な声色と、勇気付けられる言葉は、ナルトの頑なだった心に染み込むように響き、涙が滲みそうになるほどの衝撃を与えた。

「仕方ない……こと……」

「うん、だから大丈夫。きっと理解できるようになるから。私も頑張るから、一緒に頑張ろう」

 ナルトを励ますように言葉を紡ぐ桃色の唇を、ナルトは不思議そうに見つめる。

 何故こんなに自分を元気にしてくれる、欲しい言葉をこの唇は紡ぐのだろうと……

 いつもサクラの後ろで小さくなっている彼女が、今ナルトの手をとり、勇気をくれて優しさをくれて元気付けてくれる事実。

 この時、ナルトははじめて本当の日向ヒナタを見た気がした。

 青紫色の綺麗なストレートの髪、不可思議に煌く色素の薄い瞳、白い肌、通った鼻筋、ふんわりした頬、桃色の唇。

 美人とまでは言えないかもしれないが、ナルトにしてみれば可愛らしいと思える容姿。

 何よりも、その笑顔が眩しいと感じた。

「な、ナルト……くん?」

 ジッと己を見つめたまま動かないナルトを訝しげに思ったヒナタが声をかけ、ハッと我に返ったナルトは慌てて頷き返事をする。

 まさか、見惚れていたなんて、口が裂けても言えないと思いながらコクコク頷く。

「あ……お、おう!頑張るってばよ!」

 本当なら勉強なんて嫌いだし、グラウンドで走り回っているほうが好きだ。

 だけど、目の前のヒナタが一緒に頑張ろうと言ってくれているのが嬉しくて、己をバカにするのではなく、理解できるのだと信じてくれる彼女に応えたくて、ナルトは満面の笑みを浮かべ、赤点を取らないようになるぞっと決意新たに頷いたのだった。







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