13.守りたい彼と涙ぐむ彼女 「おお、ナルトにヒナタ、すまんな」 放課後になり、ナルトの勉強を見る前に呼び出されていた二人、ナルトとヒナタは職員室へと赴いたのはいいのだが、件の教員たちが見当たらず、二人顔を見合わせているところへ、背後から声がかかり驚き見ると、アスマが気さくにナルトとヒナタの肩に手を置いた。 「ちょっと別室でいいか」 「ああ、そうしたほうが助かるんだろ?」 「ヒナタがな」 「なら、断る理由なんてねーよ」 ナルトがそう頷き、ヒナタも申し訳無さそうに眉尻を下げて頭を下げると、ナルトがすぐさま元気付けるように『気にするんじゃねーよ』と、優しく声をかける。 (ふーん?ナルトの奴、やけにヒナタに優しいじゃねぇか) 背後の二人を観察しつつ、会議室の1つである部屋へ入っていくと、そこにはガイとカカシの両名が何故かジャンケンをしていて、その『どうしてそうなった』の光景を見つめながら、頬を引きつらせる。 「ほい、オレの勝ち」 「くっ……か、カカシ!もうひと勝負だっ!!」 「ダメだって、買出しはガイに決定、ナルトとヒナタも来たし、さっさと行って来てね」 「おぉ、ナルト、ヒナタ、すまんなっ!それではすぐ戻る!」 キラリーンと歯を輝かせて挨拶したかと思ったら、次の瞬間残像を残すようなスピードで出口を出て行くガイに、ナルトもヒナタも唖然とした顔をして、その後姿を見送った。 「……買出しのジャンケン、お前らいつまで経っても学生かよ」 「アスマが逃げるからでしょ」 「オレが何でそんなことしなくちゃなんねーんだよ……ったく、お前らは……」 大きな溜息をついたアスマに、カカシは苦笑を浮かべつつも、背後の二人に座るよう促す。 促されて座ったナルトとヒナタは、ぴったりと寄り添い座っているのを見て、アスマはやはり片眉を上げてナルトの変化を感じているようであった。 「で、話ってなんだってばよ」 「お前がとっ捕まえた連中なんだけどね」 カカシの言葉にナルトもヒナタも沈黙しつつ聞き入る。 「逃げられちゃった」 「は?」 ニッコリ笑い言われた言葉に、ナルトは呆然として聞き返し、そしてヒナタは目を丸くしてカカシとアスマを見つめた。 「スマン」 「いやいや、待て待て、待てってばよ、スマンじゃねーだろっ!?学校の生徒なら、顔覚えてんだろうがっ!捕まえられるってばよ!」 「それがねー、いないのよ」 「は?」 ナルトは本日2度目の『は?』をカカシに返し、カカシはニコニコしながら手を合わせてペコリと頭を下げる。 「ごめんね」 「……なっ、なっ、何やってんだーーーーーーーっ!!」 ナルトの怒号が響き、ヒナタはビックリして立ち上がったナルトを見上げオロオロすると、それと同時に扉からガイが入ってきて、いい汗をかいたような爽やかさでナルトの両肩に手を置いて座らせると、その前に紅茶の缶を置いた。 「ナルトはストレートか?ヒナタはアップルだったな」 「え、えっと……は、はい、ありがとうございます」 「……コレの買出しかよ」 ナルトはタイミングよく沈静化された気がしつつも、コレも目の前の担任の計算なんだろうと思えば腹立たしい。 折角捕まえた、あの許せない連中を、何故取り逃がすのかと、鋭い瞳で眼前の3人を睨み付ける。 しかも、それだけではなく、捕まえられないというのだ。 憮然とした顔をしながらも、ヒナタの前に置かれたアップルティーの缶のプルタブをあけて渡してやるという、細かな心遣いを見せるナルトにヒナタはふわりと微笑んで礼を言い、その笑顔のおかげで幾分険がとれたナルトは、口元に笑みを見せて何気なくヒナタの膝の上にある手にぽんぽんっと触れた。 安心しろという合図だとでも言うかのようなソレに、ヒナタの表情も少しだけ緊張が解け、ホッと息を吐いたようである。 そんな二人の様子を見ながらも、ナルトが睨み付けるように見てくるのを感じたアスマは慌てて話を切り出す。 どうやら、このタイミングを逃しては、ナルトが大人しく話を聞いてくれそうにもないと思ったからであった。 「まぁ、話を聞け」 ナルトはアスマが引き渡した生徒のその後を話そうとしていると察し、我慢強く言葉を挟まず、まずは話に耳を傾ける。 「あの後、職員室へ引っ張っていこうとしたんだが、1階のテラスへ差し掛かったとき、表から数名の生徒による妨害を受けてだな、二人を取り逃がしてしまった」 「相手は目潰しなどを用意しており、我々に捕まった時をも想定した計画性のあるものだと伺える」 アスマの次にガイがそう言いながら、アスマとカカシに缶コーヒーを渡し、眉根を寄せた。 「そして、オレたちが生徒の顔を覚えていないワケがない。探したさ、だけど見つからなかった……」 「つまりは、我が校の生徒ではないということだ」 「それで、お前たちに来て貰ったワケ。ヒナタ、お前さん、何か心辺り無い?他校の生徒とトラブルとか」 アスマとガイとカカシの言葉に、ヒナタは不安げに顔を歪ませ唇をきゅっと結ぶと、頭の中で何かないかと探り始める。 他校がらみと言えば、テマリたち姉弟くらいなものであり、他は思い当たるフシがない。 「他校の知り合いと言われれば、砂縛高校のテマリさんとカンクロウさんと我愛羅くんくらいです」 「砂縛高校……か、現在あの高校は生徒会役員選挙が近くて、色々もめていると聞くが……」 アスマが難しそうな顔をして呟き、カカシも困ったような顔をしてヒナタを見つめる。 「関連性がないとは言えないね。テマリって言ったら、現・生徒会長でしょ?」 「は、はい。ですが……それなら、シカマルくんのほうが危ないと……彼氏ですし」 「アイツ、他校の生徒に行ったか」 アスマが大きく溜息をつき、カカシは苦笑し、ガイは中々やるなと賞賛して見せたが、ナルトとしてはそんなものはどうでもいいとでも言いたげな剣呑な表情でカカシたちを見た。 「で、今後どうするんだよ。うちの生徒でもねーし、取り逃がしちまったし、ヒナタが現状危ねーのは変わんねーじゃねェかよ」 「だから、お前も呼んだんでしょ。ナルト」 ニッコリ笑われたナルトは、予測はしていたが全く生徒任せにしようとしている大人三人に呆れてしまい、かといって、ヒナタを一人にさせるワケにもいかず、大きな溜息をつくに留まる。 「あのさ……カカシ先生たちはどーするワケよ」 「どうするもこうするも、オレたちは色々制限があって中々動けないワケよ。だから、ナルト、お前が現状ヒナタに一番近い……いろんな意味でね」 「……それで?」 「勉強見てもらう代わりに、ボディーガードするって言ったんでしょ?」 「……言った」 「紅茶も飲んだよね」 「……飲んだ」 コレ賄賂かよ……と、ナルトは己の手の中にある紅茶缶を見つめながら、小さく溜息をつく。 「ナルト、ヒナタを守ってやってくんない?」 「か、カカシ先生っ!」 そこで慌てて声を出したのはヒナタであった。 危険なのだとわかっているからこそ、ヒナタはそれにナルトを巻き込めないと必死に言葉を紡ごうとして、言葉にならず、ただ首を振る。 それでも、厄介ごとに巻き込みたくない一心で、何とか言葉を押し出す。 「ダメ、ですっ、危ない……から……そんな危ないこと……させないでくださいっ……大会も、近い……ですからっ!」 必死に首を振り言うヒナタに、教員三人は己の身に何が起こっているかわからず不安だろうに、それでもナルトの身を案じるヒナタという生徒の心根の優しさを見た気がして、自然とナルトへと視線を向けた。 「オレが守る」 ハッキリとその部屋に響いた言葉に、ヒナタは驚き顔をあげ、涙に濡れた顔をそのままにナルトを見つめる。 「言ったろ?オレが守ってやるから安心しろってさ……だから、んな泣くんじゃねェよ」 「でもっ!」 「ヒナタ、オレはお前のその心遣いがすげーって正直思うぜ?不安で怖いだろ?なのにさ、オレを気遣うとか……そうそうできるもんじゃねーって。だから、そんな優しいヒナタだから、オレは守りたいって思う。それにさ、オレ、ヒナタに何かあったらきっと……すっげー辛いし苦しい。だから、守らせてくんねーかな」 まるで告白のような言葉に思わず教師陣が赤くなってしまうが、ヒナタはほろほろ流れる涙をそのままに、首を振り、ダメだと繰り返す。 「大丈夫だって、オレだけじゃねーよ、みんなお前を大事だって思ってる連中と連携組んでやるからさ。だけど、一番傍にいて守るのはオレってことで勘弁してくんねーかな。誰にも譲る気ねーし……ヒナタが嫌がっても、コレだけは譲れねーわ」 「い、嫌じゃないっ、で、でも、危ないよ……折角レギュラーになれたのにっ」 「確かにそうだけどさ、ここでヒナタ守らないで尻ごみしてるような奴は、レギュラーになれても男になれねーってばよ!」 「ナルトくん……」 「だから、安心しろ。オレが傍にいてやる……一人にしねーから。大丈夫だ」 完全に二人の世界だな……と、カカシは目の前の自分の生徒を見ながら、肩を竦めてしまうと、両隣のアスマとガイを見て笑う。 話はナルトがまとめてくれ、そして、コトを運ぶのにこれほど最良の人物は存在しない。 (ナルトもあの人の指導を受けてるから、そうそうやられるとは思えないし……やり過ぎることもないでしょ) もしも相手が物騒な手を使ってきたとしても、ナルトならば大丈夫だとカカシは密かにほくそ笑む。 何せ、本人は校内でもその他でもそれを使ったことはないが、両親に色々と仕込まれているのだ。 ナルトの父であるミナトを知っているカカシは、ナルトが知らないだけで様々な事柄を知っている人物でもある。 (あの小さな赤ちゃんが、ここまで大きくなって……しかも、いっぱしに女の子を守るって言い切ってるんだから、親子して凄いっていうか何と言うか……本当に、あの人の息子だよ) 苦笑を浮かべつつ、泣いているヒナタを慰めているナルトを見守り、カカシは思考を巡らせ、他校の生徒である者がこちらの生徒の制服まで用意して用意周到に狙ってきたという事実を踏まえ、校長に報告すべきだよねと心の中で呟き、そして、何よりも自分の生徒を守るべく、己の最大の知恵と人脈を持ってこの難関に立ち向かうことを心に誓うのであった。 |