12.電話する彼女と少しムッとする彼




 昼食タイムも終わり、さてそろそろ話し合おうかという時になって、シカマルの携帯が鳴りディスプレイを見てから驚いた顔をしつつもチョットなと断って離れたところで電話をしはじめたのは数分前のこと。

 ブレーンがいない中、とりあえず現状把握というカタチで報告すれば、いきり立ったサクラといのをサスケとチョウジが止めたのは数秒前。

 つまり、現在サスケとチョウジがとても大変な目に合っているのだが、加勢すべきか放置すべきか迷う仲間たちにサスケの鋭い視線が突き刺さり、渋々加勢することになった。

「とりあえず落ち着けってばよ……あー、でもヒナタ、お前昨日の……大丈夫か?」

 加勢するつもりで立ったのだが、加勢しようとしたヒナタの手首の包帯を見てナルトが心配そうに顔を歪めると、ピタリと女二人の動きが止まりヒナタのほうをバッと見る。

「怪我したの!?」

 これまた見事にハモって聞いてくれるものだから、ヒナタは押され気味にコクコク頷いて見せた。

 痛みは昨日ほどではないし、少し内出血して色が変わっているだけなのだが、念のための手当てがマズかったようだとヒナタが判断した時には遅かったようである。

 その事実に更にヒートアップしてしまった二人をほとんど全員で止めに入ったのを呆然と見ていたヒナタは、己の耳に携帯電話が押し当てられ、ひゃっと驚きの声を上げつつ見上げると、シカマルがニッと笑いながら小さく呟く。

「テマリからだ」

 時々シカマルもナルトと同じような悪戯をすると思いつつ携帯に耳を傾ければ携帯の向こうから音が聞こえてくる。

「あ、うん、ありがとう……もしもし、テマリさん?」

『ああ、シカマルとうずまきと一緒にお昼だって?いいねぇ、私もご一緒したい気分だ』

「ふふ」

 軽やかに笑いつつシカマルから携帯を受け取り視線を合わせると頷いたので、そのまま話し始める。

「我愛羅くん、大丈夫?」

『ああ、ちょっとあって脳震盪を起こして頭を打ったらしく検査入院だ。バタバタしてしまったけど、本人は至って元気だよ。心配ない』

「長くかかるの?」

『来週頭には退院できるとは思う』

「そっか……良かった……」

 ホッと安堵の吐息をつくと、ヒナタとシカマルのやりとりに気づいた一同がキョトンとして動きを止め、じぃーと凝視するが、その視線に気づかずシカマルはヒナタを見つめ肩を竦めて見せ、ヒナタはそんなシカマルの様子に優しく微笑む。

 そんな何か通じ合ったようなやり取りに、面白くないという顔をありありと見せたのはナルトである。

 頬がピクリと引きつり、どことなく切なそうにヒナタを見つめている様は、どこからどう見ても恋焦がれる女に対するソレであった。

(こんなところで喧嘩おっぱじめてくれるなよ……)

 とキバは祈りながらナルトの横顔を見て祈るように天を仰ぐが、あまり効果はなさそうだ。

「うん、じゃぁ週末にシカマルくんと一緒にお伺いするね」

『ああ、うずまきも一緒に頼む。我愛羅が興味を持ったみたいでね』

「はい、わかりました。あ……何がいいですか?お菓子作っていきますけど」

『うーん迷うところだね。うずまき絶賛のマフィンをお願いしようか』

「はい、わかりました」

 クスクス楽しげに笑いながらヒナタは了承すると、荷物からメモとペンを出して週末の予定を書き込む。

 携帯を耳と肩で挟みながら何やら聞き取って書き取っていく様を一同が静かに見守っている。

 いままでヒートアップしていたはずの二人も、今では大人しいものであった。

「では週末……ええ、はい、2時ごろに……はい、シカマルくんには……あ、はい、ではまた」

 と、通話を終えるとシカマルに携帯を礼を言いつつ返す。

「テマリ何だって?」

 ある程度話している内容は予測ついたが、食い入るように見つめている一同を横目で見て、ある程度わかるようにしていないと厄介だと判断したシカマルは、わざと聞いてみる。

「週末に我愛羅くんのところに来いって言われました」

「見舞いの催促かよ……ったく、アイツ何考えてんだ」

 ヤレヤレと溜息をついたシカマルはヒナタの書いたメモを覗き込み、それを携帯のスケジュール表に入れていく。

「あー、2時に病院ってことは、昼頃に合流しねーと間に合わねぇな。ヒナタは出てこれるのか?……あと、このマフィンってなんだ……何かめんどくせー感じしかしねぇが」

 あの食いしん坊め……と、内心呟きながらも大きく息を吐きつつ尋ねれば、ある程度予測していた言葉がヒナタから帰ってくる。

「待ち合わせに問題はないよ。そのマフィンはテマリさんが食べたいって……この前会って話していたときナルトくんが絶賛してたから」

「あー、あの時のやつか……ったく、アイツ食い意地だけは張ってやがる。すまねぇな、手間かける」

「ううん。テマリさんはいつもそうだから」

 なんでもないというような口ぶりに、これが初めてではないのだと認識したシカマルは、このお人好し……と心配になって思わず心配そうに顔を歪めながら忠告した。

「お前、友達選んだ方が良いぞ」

「その人を彼女にしてるのはシカマルくんだよ……」

 真剣な顔で注意してくるシカマルに呆れた顔をして返せば、めんどくせーことにそうだったと返され、ヒナタは苦笑するしかない。

 テマリという人物を知らずに聞いていれば、二人がデートの打ち合わせをしているように聞こえなくも無い。

 憮然とした顔をしていたナルトに、綺麗な笑みを浮かべたままヒナタは視線を合わせると、ふわりと笑ってナルトにお願いをするために口を開く。

「ナルトくん、テマリさんがね、我愛羅くんがナルトくんに会ってみたいって言っているから一緒に来てって……週末大丈夫かな?」

「……え?」

「だ、ダメ……かな」

 しゅんと落ち込んだようなヒナタの様子。

 ヒナタに犬やネコの耳がついていたならば、へしょりと垂れてしまっている状態だろう。

 可愛い……と思いつつも、それどころじゃないとナルトは慌てて返事をするべく口を開き、慌てて口を開いた故に声が出ず呼吸と言葉が噛み合わない。

 一度口を閉じ、もう一度呼吸をして口を開くとヒナタに向かって言葉を投げかける。

「だ、大丈夫!全然平気だってばよ!」

「良かった……」

 ぶんぶんっと首を縦に振るナルトに、ホッと安堵の吐息をつき嬉しそうに微笑むヒナタと、ヤレヤレとばかりに苦笑を浮かべるシカマル。

 全く持ってわかりやすい男である。

 ただ、本人の自覚がないところが大問題かもしれないと周囲が思い始めた頃、シカマルの携帯がもう一度鳴ってウンザリした顔をしながらシカマルは通話ボタンを押すと何か言われたようで肩を落としながら大きな溜息をつく。

 その様子から見て、あまりいい知らせではないなと思いつつ、ヒナタは首を傾げればシカマルが頭を垂れた状態で謝罪した。

「すまねぇ……めんどくせーが、クッキーも追加とのことだ」

「が、我愛羅くん……クッキー好きだから……」

 アハハハと乾いた笑いを浮かべたヒナタは、午前中いっぱいで全部作れるかな……とスケジュールを立てつつ眉根を寄せて唇を僅かに尖らせた。

「無理なら無理って言ってくれ。ていうか、あの姉弟あんまり甘やかさなくていいぞ」

「う、ううん、大丈夫。父と妹のご飯の準備と平行しないとって思って……買出しいつ行こうかなって。ただそれだけなの」

 フフと笑ってはいるが、スケジュールいっぱいいっぱいなのだろうというのは推測ができ、そういえばお母さんいなかったのよねと、サクラといのはヒナタの家庭環境を思い出しふーむと唸る。

「そうだナルト、アンタ買出し付き合ったら?」

 いのの言葉にナルトがキョトンとした顔をして返せば、いのはニヤリと笑いつつも、我ながら名案〜と自画自賛しつつナルトの鼻先に指を突きつける。

「だって、ヒナタ手を怪我してんのよ?重いもの持たせるなんて酷いと思わない?」

「……あ、ああ……そ、そうだな……」

 完全にいののペースに押されているナルトを哀れに思いながらも、チョウジたちは言葉を挟まない。

 ここでヘタに言葉を挟めば大変な目にあうのは長い付き合い上、もう嫌というほど身にしみている。

「男だったら、それくらいのフォローはするべきよ!」

「え?あ……うーん、そういうもんか?」

「アンタ、ヒナタの護衛するんでしょ」

「おう!んじゃ、ヒナタ、買出し一緒に行こうぜ!」

 話の流れについていけていなかったヒナタは呆然と見ていたのだが、急に話を振られて驚き目を丸くし、あまりにもナルトが嬉しそうに笑うものだから何も言えずに、ただウンと頷いてしまった。

 ヒナタが頷いたのを見届け、いのはニヤリと笑い、『うまくいったー♪』とサクラにアイコンタクト。

 サクラのほうも『ナイスよいの!』とこれまたアイコンタクトで返す。

(女って怖ぇ……)

 その様子を見ていたキバは、幼馴染の親友二人がとても恐ろしい女だと身震いしながら実感しているのであった。








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