あの頃からきっと 17





 ナルトの報告が終わるか終わらないかの頃、影分身のナルトたちが広間に姿を見せた。

 影分身のナルトは今にも暴れ出しそうに怒りを抑えるのに必死で、シカマルやネジも似たような状況でありながらも渋面で留めている。

「どうだった」

 ナルトが声をかければ、影分身のナルトがピクリと反応を返してから、小さく溜息をついた。

「やっぱり行って良かったってばよ。アイツらろくなこと考えちゃいねー……胸糞悪い」

 思いっきり顔を顰めた影分身に、ヒナタがらみのことだったのだろうと認識すると、情報を先に貰うべく印を結んで影分身を解く。

 ある程度覚悟しながら印を結んだとはいえ、情報が一気に頭の中に流れ込んできたと同時に怒りがふつふつ湧き上がってくる。

 大事なヒナタの事に関してだからこその怒りであった。

 ナルトの表情が険しくなったのを見ながら、あまり良い知らせではないのだろうと理解したカカシはシカマルとネジから情報を得ようと視線を向ける。

「めんどくせーが、ナルトが説明できることじゃねーだろ。簡潔に言うぜ、奴らの目的はヒナタに子供を産ませて、その子供の目を商品として売りさばくことだ。その子供も大きくなりゃ、目がなくても子を作れる……つまりそういうことだ」

 なるべく感情を篭めないで言ったシカマルの手もネジも怒りでやりきれない思いが渦巻いている。

 それがナルトとなればどれだけかと思うと、言葉も出てこない。

「ヒナタが言ってた通り、雇われた忍がそこにも同席してたんだな」

「ああ、どうやら砂の抜け忍みてぇだな。どうする、風影に連絡いれなくていいのか」

「殺さず捕らえて土産にして渡すってばよ。もし死なせちまったら、我愛羅に謝っておくってば」

「お前、謝るだけで済むのがすげーよな」

「一応今回の件、我愛羅も知ってるからな。そういや、ヤマト隊長、我愛羅に事の詳細知らせたのかってば」

「ああ、この屋敷に着いたときに、詳細は知らせてあるよ」

「だったら大丈夫だと思うぜ」

「本当かよ」

「ああ、我愛羅は今回の件で砂の協力が必要なら、手を貸してくれる約束してるしな」

 ニシシッと笑いながら言うナルトに対し、シカマルがそれがどれほど凄いことなのかわかっていないナルトに溜息しか出ない。

「全く……テメーはわかっちゃいねーな。本来砂のトップを動かすなんて早々出来ることじゃねーんだぞ」

「オレと我愛羅は親友だ。お前らとそう変わんねーよ」

 カラカラ笑っていうナルトの凄さはここだよなと、一同が再認識した後、マジメな顔をしてヤマビコのほうを見る。

 言い辛いが、言わなくてはならない事柄であった。

「あのさ、ヤマビコのおっちゃん。コダマは自分で白眼をどうとか考えたとは考えられねーんだけど、でも……その企みに乗っかっちまった。だから、何もお咎めなしってワケにはいかねーかもしんねェ」

「それは覚悟の上ですよ、ナルトくん」

「あ、あと……1つ許して欲しいことがある」

「なんでしょう」

「コダマを一発ぶん殴るかもしんねェ」

「……何かあったのですか」

「ヒナタは何でもねーって言ってたけど、オレの腹のムシが収まんねェ……噂の真相を聞きにきたのをヒナタも挑発するような言い方したっていうけどさ、それ自体あり得なさ過ぎて驚いたところだけどよ……無抵抗な女の顔殴るなんて最低の奴のすることだ」

 ナルトの言葉に驚いたのはヤマビコだけではない、今まで黙っていたナルトの心中を察して何も言えない仲間たちだが、やはり心配なのだろう、一瞬それぞれ反応をしたようだったが、次の瞬間静まり返った。

「それに関して、私は止めません。存分にやってやってください」

「……いいのかってば」

「私はコレでもナルトくん、キミを信じていますから」

 ナルトは困ったような顔をしてから溜息をつくと、小さく笑ってヤマビコを見つめる。

「ま、ヒナタもそれを望んじゃいねーから、力加減はしてやるってば」

 ニシシッと笑うとフッと鋭い瞳をして溜息をつく。

「つけられたワケじゃねーからな」

 シカマルが前もって言うのを聞いて、カカシが笑う。

「そりゃそうだと思うよ。ま、父親が怪しいというのはそろそろ気づいておかしくない」

「遅いくらいだな。修業が足らん!」

 カカシとガイの言葉と共にナルトとサスケの姿が消え、すぐさま1人ずつ捕らえてその場に戻ってくる。

 さすがに速い。

「ナルトくん、サスケくん、流石です!」

 リーが賞賛を送ると、二人は軽く片手を上げて返事をし、それから縛り上げた男たちを畳の上に転がした。

 カカシたちよりも歳は上なのかもしれない男二人は、悔しそうにナルトとサスケを睨みつけるが、二人にとってはどこ吹く風。

 何よりもこの二人に捕まったのが運のつきとも言えた。

「ここは月読でなぶるか」

「うーん、そうだな、見た目で変化なく……ってのは、サスケの十八番だしな。情報聞き出すのもできそうか」

「それは任せておけ。幻術はオレ以外使えないだろ」

「んじゃ任せた。んで、シカマルとサクラちゃんはサポートよろしく」

 ナルトがニカッと笑って言うと、二人も心得たとばかりに頷いて見せる。

 情報収集能力に長けたシカマルと、サスケのサポートに関して右に出る者がいないであろうサクラをつけておけば、まず間違いはない。

「ヤマビコのおっちゃん、どっか部屋空いてない」

「隣の部屋でもよければ」

「十分だってばよ、血なまぐさいことになんねーし。な、サスケ」

「ああ、そんな物騒なことしなくても十分だ」

 フッと笑みを浮かべると、サクラとシカマルが1人ずつ捕まえ連れて行こうとするが、サクラのほうの男は相手が女だと思って甘く見たようで、力を入れて振り切ろうとするがびくともしない腕の力に驚いたような顔をしてサクラを見ると小さく呟く。

「馬鹿力め……」

「なんですってーっ!?」

 ドゴッ!

「あー、サクラちゃん……サスケが幻術かけるまえに気絶させちゃダメだってばよ……」

「だ、だって!コイツ!!」

「いい、とりあえずあっちからかける。早くつれて来い」

 呆れた顔のサスケに言われて、サクラはしょんぼりしつつも男を引きずるように連れて行く。

 全く重さを感じさせない動きで……

「サクラちゃんのソレは禁句だっつーの……」

「ですね。ボクもナルトも結構痛い目みましたしね」

「だよな……」

 はぁっとナルトとサイが溜息をついたのを見て、他のメンバーは苦笑を浮かべつつもサスケたちにその場を任せて再び腰を落ち着けるとナルトのほうを見た。

 何気なく視線が集まるのを感じながら、ナルトはサスケたちが仕入れてくる情報によっては、少し変更しなくてはならない場所もあるだろうと考えつつも、何より疲れも見え始めている。交代で休ませた方がいいだろうと判断して、ヤマビコたちに気にすることはなく休んでくれと頼むと、彼らも疲れを感じていたのだろう、軽く頷き了承するとそれぞれ部屋へと引き上げていった。

 強行軍でこちらへ来たヒアシやガイ班にも休んでくれと頼めば、コチラは渋々頷くといった感じだ。

 まだまだ元気有り余るという様子ではなるが、本番があるんだからといい含め、ヤマビコが用意してくれた部屋へと引き上げるのを見てから、女性陣も同じく休みをとるカタチとなりまだ人数も多いので、戦力的に考えて、カカシとキバとシノに休んでもらうこととなった。

 結局広間に残ったのは、ナルト、サイ、ヤマト、チョウジ。

 やれやれと一息つくと、ナルトは何気なく懐に入っているクナイを上着の上から触れながら、壁にもたれかかり目を閉じる。

 それぞれ起きてはいるが、体を休めている状態であった。

「ナルト……ヒナタは大丈夫?」

 チョウジの言葉に、ナルトは目を開けて頷く。

「ああ、大丈夫。アイツは挫けねェよ……みんなと木ノ葉に帰るために頑張る」

「なら安心だね。1人だと不安だろうし、それに、相手の考えていることがことだけに心配だよ」

「こんだけみんなで頑張ってんだ。ソレでもダメだったら……その時はその時だ」

 ナルトの笑みを見ながらチョウジは不安になる。

 ナルトの言うその時の行動は、いわなくとも理解できた。

 誰を敵にしようが、誰が歯向かおうが、それこそ誰が敵になろうともナルトはヒナタを守る為に全力を出すだろうと。

「今回はこの民の風習に守られたカンジだね」

「……ま、一応保険もかけてきたからな」

 ニヤリと笑ったナルトの顔を見て、どうせろくでもないことをしてきたに違いないと、妙な確信を持ったヤマトは溜息をついて外を見つめる。

 闇の中にうごめく意思があるのなら、この月の光にもその意思があるのだろうと、何気なく月を見上げた。

「もしこの地の民の風習破ろうなんて考えたヤツがいたら……狐の怒りに触れるってばよ」

 ボソリと呟かれた言葉に、ギョッと広間にいた一同が目を見張りナルトを見れば、彼は底冷えするような青い瞳を煌かせながら、ニヤリと口元に笑みを浮かべていた。

 その瞳の奥の光にゾッと身を竦めた一同は、それ以上なにも聞けずにただヒナタは何があろうと無事なのだろうと確信し、それだけの事実があればいいとばかりに目を閉じ、体を休めることに専念したのである。

(ま、あのトラップ発動するってコトになりゃ、タダじゃ済まさねェけどな)

 ヒナタに悟られないように彼女の体に触れながら九喇嘛のチャクラを少しばかり定着させてきたのだ。

 九喇嘛の案で、ヒナタの肌にナルト以外が触れるようなことになれば発動する仕組みとなっている九尾チャクラは、定着させた本人の体は平気だが、高密度のチャクラにいきなり晒されたモノがタダで済むとは思えない。

 それ故に、事前に使用人たちとの距離感を図るためヒナタに尋ねたのだ。

 お姫様扱いだとしたら、その肌に触れる者が女性だということもあり得る。

 干渉してこないということは、その可能性も少ないということだろう。

 そのトラップも、見合いの席の朝には解除されるようになっている。

(クラマがあんな提案してくるとは正直思わなかったってばよ)

『何言っておる、ワシとて日向の娘がああいう風に泣くのは面白くないだけだ。それにお前のつがいとなる女だろうが、他の男にくれてやるワケではあるまい』

(そりゃそーだけどさ……なんつーか、オレ、出来ること増えてんだなってさ)

『ふん、お前は自分が思っておるよりも力がついておる。その気になれば、世界を滅ぼすことも容易いわ』

(それは……)

『お前の望むところではないのだろう。だから、有効活用できるところしか教えておらん』

 フフンッと鼻で笑われ、ナルトは肩を竦めると確かに助かったと礼を述べてからゆっくりと目を開いて窓から見える月を見上げる。

(もう……寝たかな……ヒナタ……)

 数刻前、確かに自分の腕の中にあったぬくもりを思い出して、ナルトはふぅと溜息をつく。

 腕の中にあった愛しい存在。

(愛してる……か……へへっ……すっげー嬉しい……すっげー……切ねーな)

 ぐっと握り締めた手に残っていたはずの柔らかな感触も、腕の中にあったぬくもりも、今では記憶の中でしかない。

 とっくに冷めてしまった手と腕。

 全身で感じたはずの彼女は、今では己の腕の中にはおらず、捕らわれの姫。

(……ヒナタ。一緒に帰ろうな……一緒に……)

 懐のクナイを握り締めたナルトは、小ぶりなそれがとてもあたたかくカンジ、ぎゅっと目を閉じるのだった。








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