あの頃からきっと 11 「何ソレ!面白そうじゃない!」 そういってモミジの話に食いついたのは、いのである。 いのはモミジの傍に寄って、話を詳しく聞かせてくれとせがむと、モミジは得意げに話を続けた。 「巷の人っていうのは、結構お涙頂戴のラブロマンスに食いつく傾向があるから、ナルト兄ちゃんとヒナタ姉ちゃんが引き裂かれて、恋焦がれる二人の邪魔をする悪徳商人みたいなカンジに話を持っていければ良いんじゃないかな。そうすれば、巷の信用もガタ落ちで、コダマみたいなやり方してたら敵だって多いハズだから、そこを衝かれて相手だって焦るハズだよ!」 「……い、いや……こ、こい……恋焦がれ……ちょ……ちょっと待て、待てってばっ、そ、ソレ、ヒナタが困るだろっ、オレはいいけど、ぜってー後でヒナタが困るからダメだって!」 真っ赤になってアタフタと二人を止めようとするナルトをハルナが不思議そうな顔をして見つめ、決定的なことを尋ねた。 「ナルトはヒナタが好きなのでしょう?なら、諦めずに嫁にするくらいの気概がなくては」 まるで地上に打ち上げられた魚のように、口をパクパクさせているナルトを、サスケは哀れ……とでも言うように見つめ、そして溜息をつく。 自覚が無いとは言わないが、流石に人から言われると恥ずかしいのだろう、全身真っ赤とはまさにこの事。 「大丈夫だナルト。ヒナタなら……気絶する程度で終わる」 「い、いや、キバ。気絶もどうかって思うってばよ!?」 「何言ってやがる!今までオマエがヒナタを気絶させた回数数えて見ろ!何回あるんだよっ!!」 「え……あー……えーっと……何回……だ?ってか、何で気絶したんだ?」 「大好きなお前が過剰なスキンシップを、何故かヒナタにはとっちまうからじゃねぇの?お前無自覚にヒナタに抱きつきすぎなんだよ!」 「……え?お、オレ……そんなこと……してたっけ?」 「顔を近づけすぎるのもあるな」 シノにまで言われて、ナルトは身内の攻撃に居た堪れなくなり、両手で顔を覆ってしまった。 「か、勘弁してくれ……自覚前ならまだしも、自覚してから思い出したら……すっげー恥ずかしい……ってばよ……」 「ヒナタはもっと恥ずかしい思いしてるんだ、ちっとはその気持ちを考えろっつーの」 「いや、一概にはそう言えん。何せヒナタだ……ナルトに話しかけられただけで気絶ということもある」 班員のヒナタの気絶に関する暴露を聞きながら、ナルトはとりあえず記憶にあるだけのヒナタの気絶を思い出し、そういえば……抱きついていたなとか、顔近かったかなとか、あぁ、そういや抱き上げていたなとか思い出してはその場でのた打ち回りたい心境になり、暫く呻く。 そんなナルトを見ながら『若いねー』と呟いたカカシは、ヤマトと顔を見合わせて苦笑を浮かべた。 「でも、ほら、最近ヒナタ気絶しなくなったわよっ」 あまりにもナルトが可哀想になったのか、いのが何とかフォローを入れようとするが、キバは容赦ない。 昔からこういうところは融通の利かないというより、徹底的にやりたがる男である。 「そうだよな、手を繋いで里中歩いていても、何かナルトのアパートに料理作りに行くようになっても、夜家に送って貰っても、平気になったみてーだな」 「良く知ってるわね、アンタ」 サクラがキバを見ると、キバは大きな溜息をついて首を振った。 「オレら班の打ち合わせしようとヒナタ探してたら大抵、ナルトとヒナタ一緒にいるし、一緒にいてコイツらなんで付き合ってねぇの?って……バカップル!!さっさとくっつけ!くっついたらこの鬱憤絶対に晴らしてやるって思ってたんだよ!!このバカ!!大体なんだよっ!お前のアパートにヒナタが飯作りに行くっていう……どうしてそうなったっ!」 「キバ、あまりそういうことは詮索しないものだ。何せ1人暮らしのナルトの事、ラーメンばかりでは体を壊すと心配したヒナタの申し出だろう」 「でもよ、ふつーあり得るか!?」 「……家庭の味を知らないナルトに、ヒナタが少しでも食事のあたたかさを知ってほしいとの心遣いだ。ソレを我々がとやかく言うのは間違いだ」 その言葉にナルトは『エッ』という顔をして顔を上げれば、シノがジッとナルトを見つめて優しい声で呟くように教えてくれる。 きっとずっとナルトに教えたかったのだろう。 「ナルト。お前は家族というものがない。あたたかい家庭の味を知らない。それはヒナタも同じだ。家族と食事を共にしても、あたたかさを感じることはない……だからこそ、その辛さを誰よりも知っているからこそ、お前にその痛みや辛さを少しでも感じて欲しくないとヒナタは頑張った」 「……シノ」 「そんなヒナタの想いにお前は無意識に守られていた。だから、今度はお前の番だ、ナルト」 「ああ、ぜってーに守る」 「それが何よりの言葉だ」 シノはコクリと頷くとそれ以上は話す事が無かったのか、再び黙り込んでしまった。 そんなシノの様子を見てキバは溜息をつくと、ナルトを見てヘッと笑う。 「ま、オレたちはヒナタの班員としてっていうか、兄貴みてーに心配してんだよ。それと同時に、惜しみなく手を貸してやる」 「キバ……」 「それはここにいる全員そうだよ」 「カカシ先生……」 「だから、ナルト。お前のやりたいようにやればいい」 「サスケ……」 「めんどくせーけど、知恵も貸してやる」 「シカマル……」 「だから、ヒナタを助けようね、ナルト」 「チョウジ……」 「そ!そのために、噂流すのは任せてよっ」 「モミジ……」 「ナルトくん、キミとヒナタさんには借りが沢山ある。少しくらい返させてくれないか」 「百合之丞さん……」 言葉には出さないが、全ての者が力を貸してくれる。 そんな状況にナルトは涙が出るほど嬉しく、そして、そんなみんなの想いが己の力になっていくような感覚を覚えながら、ナルトは大きな声を発する。 それは腹の底からの声で、己の心全てを詰めているような、そんな聞く者に何かを訴えかけるだけの力を宿したものであった。 「頼む!力を貸してくれ!!」 「おうっ!!」 返ってきた返事はとても力強く、そしてナルトは微笑む。 だからこそ、ナルトは1つの決断と共にヤマビコやハルナや百合之丞、そしてモミジたちを順に見つめてから、佇まいを正し、息を大きく吸って吐いた。 そのナルトの様子から何かあると思った一同は、ナルトの言葉をジッと待つ。 「きっと、噂を流せば、オレの事を調べられる。だから、ここにいる人たちが知らない情報があっちゃ困る」 ナルトの一言で何を言おうとしているのか察した同期メンバーは、渋い顔をしたが、ナルトの言わんとすることは理解できた。 そう、ナルトの一番重要事項。 コレをあとから知らされ内部崩壊されるのは困るのだ。 「ナルト、お前が話すと決めたのなら、ボクたちは止めないよ」 ヤマトの言葉にナルトは笑顔を向けて頷くと、ヤマビコたちを見据える。 「オレは、木ノ葉で今こそ英雄だって言われている……けどさ、その前は決してそんなことはなかった。どっちかって言うと厄介者で嫌われ者だったんだ」 驚いた顔をするヤマビコたちに対し、ナルトは少し寂しげに笑いながらそれでも伝えなければならない。 もしかしたら、彼らが化け物とののしる可能性だってある。 だからと言って言わなければ、きっと何もはじまらない。 『だって、ナルトくんはナルトくんだもの』 そう言ってくれたヒナタ。 優しいヒナタの声を思い出しながら、ナルトは決意を篭めて言い放つ。 「オレは、九尾の人柱力なんだ」 ピクリと反応し、ヤマビコは目を見開く。 百合之丞は、忍仲間の伝で知っているのかもしれない。 表情を変えずに黙って聞いている。 「人柱力……まさか、ナルトくん、キミが?」 「ああ……オレは、四代目火影……オレの父ちゃんに赤子の頃、オレが生まれた日に大暴れした九尾を封じられた。前の人柱力は、オレの母ちゃんだった。尾獣を抜かれた人柱力は死ぬ運命だ……オレは生まれた日に、父ちゃんと母ちゃんを失い、その代わりに、九尾の力をオレの中へ入れられたんだ」 知らず知らずに腹に手をやり、ナルトは柔らかく微笑む。 「きっと隠していても、必死になりゃそれくらいの情報、すぐに集まる。第四次忍大戦の時、その力を使ってオレは大暴れしたからな」 「尾獣……大きなチャクラの塊と聞く……人の器で尾獣を収めておくことが出来るのですか?」 「ああ、それにオレってば、九尾のクラマとは友達だってばよ!確かにコイツがいるせいで、オレは里の人たちに冷たく当たられた……でもさ、コイツも辛い思いいっぱいしてきたんだ」 腹を撫でながらナルトはそう言うと、へへっと笑う。 「勿論この事はヒナタも、オレの仲間たちも全員知ってる」 「ナルホド……確かにそれを知らずに、後から突かれて内部崩壊を狙われては困りますね」 ヤマビコはナルトの考えを読み、そしてその危惧がなかったワケではないだろうと頷いて見せる。 これだけ包み隠さずストレートにナルト自身が語ってくれたということは、やはり大きいと思えた。 通常、これほどの事柄を他者へ伝えるのは難しい。 だが、ナルトはそれを伝えることによって、信用しているのだと雄弁に語って見せたのだ。 「私は忍仲間から聞いてはいたよ」 「やっぱそうか」 「……ナルト、ひとついいですか」 ハルナがポツリと呟くように問いかける。 「何だってばよ」 「……私を助けた時、あの時、もうそのことを知っていたの?」 「ああ、知ってた。あの頃はまだ暴走しちまうから己の意思で力を使えねェ状態だったけどな」 「私は……ナルトに酷いことを言いました」 「気にしちゃいねーよ。それにさ、オレもかなり辛らつなこと言ったってば。大体、ヒナタとの約束で駆けつけたところも大きかったしな」 「そうですね、ヒナタに感謝しなくては」 微笑んで会話を交わす二人に、百合之丞は当時を思い出し笑う。 全くもって己のことしか考えていなかったハルナと、弱い者を守ろうと必死になっていたナルトの衝突の仕方は周りが呆れるほどであった。 そんな時にでもフォローを入れていたのはヒナタであったなと思い、ナルトの傍に彼女がいないのが不思議でならない。 どことなく控えめな彼女がナルトのフォローをし、控えめな彼女をナルトが引っ張っていく。 ちぐはぐに見えて、どこか似ている二人は、見事に互いを高めあっていた。 「じゃ、ナルト兄ちゃん、さっきの具合で噂流しちゃうね」 「あー、もー、好きにしてくれ……っていうかさ、本当にいいのかってば……息子のこと」 ナルトに再度そう問われたヤマビコは、少し寂しげに微笑みながらも力強く頷いて見せる。 確かに、良いと言うには辛い。 だがしかし、息子のしでかそうとしていることを止めなくては、今まで以上に多くの人が傷つくのは目に見えていた。 「親は子を信じる者。そして、その子が誤った道を行くならばそれをただし導くのも親。そして、それでもダメならば、共に汚泥をすすってでも歩み、共に最善を目指すのも親ですよ」 ヤマビコの言葉に四代目火影であるミナトを思い出し、ナルトはそれ以上なにも言うことは無く笑って返すと、モミジにゴーサインを出した。 「少し……照れるけど、しょーがねェよな」 「ならば、私にも妙案が」 ハルナは自分の考えに自信があるのか、皆にニヤリという姫らしくない笑みを浮かべながら自分の案を告げる。 その話に驚きながらも、ソレは良いのかもしれないと、一同は頷き合い、その日程を組まなくてはと綿密にシカマルを中心として対策を練っていく。 一行が話をし、計画を立て、それを段取りをし、一息ついた頃には既に日は落ち、辺りは暗くなっていた。 それでも話し足りないように話を詰め、時折冗談を交えながらも一団は結束を固め、この作戦を何としても成功させようと気持ちを高めるのであった。 |