06.籠の鳥




 百鬼の国の若に氷雪の国の姫を届け、それと共に捕虜とした忍頭を百鬼の国の忍に引渡し、ナルトたちは漸く任務完了の運びとなった。

 サクラに簡単な治療を受けヒナタは多少引きつりながらも足を動かせるようにはなったが、まだ樹から樹へ飛び移ることは出来ず、傷口から入った菌が原因で出ている熱も高い。

 そんなヒナタの症状を心配した氷雪の姫と、事の次第を聞いた百鬼の国の若が休んでいってくれと申し出をしてくれた。

 実際問題、熱が高すぎて動かすのも問題があるだろうという判断から、サイの鳥を飛ばして里に連絡を入れ、百鬼の国に数日間滞在する事となった。

 ヒナタは熱が高いため、目を覚ましても虚ろで食事もおぼつかない。

 そんなヒナタが心配で、ナルトは片時も傍を離れず、目を覚ませば甲斐甲斐しく世話をする。

 ナルトのその対応に驚いたのは、サクラとキバ。

 シノとサイは何か感じるところがあったのか、さすがにナルトが倒れると言いナルトを止めようと動くサクラとキバを、黙ってナルトの好きにさせてやれと言い止めた。

「お前さんが倒れそうな勢いだな」

 不意にかけられた声に、ナルトは視線を上げると、そこには見事な銀髪と真紅の瞳の粋な男が立っていた。

「すまねーってばよ、世話になっちまって」

「いいや、それは気にしなくていいがな……大事な女が心配なのは判るが、お前が倒れて喜ぶような女か?コイツ」

「……いいや」

「だったら、お前もちゃんと休みな」

 一国の若にしては気遣いの出きる男の低い声に、ナルトは苦笑を浮かべた。

「アンタも、姫さんと同じ事言うんだな」

「ああ、アイツにも言われたのか」

「……理屈じゃねーんだな……こういう気持ってよ」

 ナルトの言葉に、百鬼の国の若はニッと笑みを浮かべる。

 今更何を……とでも言いたげな顔をして百鬼の国の若は口角を上げた。

「テメーの女を心配するのも、大事にするのも当たり前のことだ」

「い、いや、お、オレの女じゃねーってばよ」

 視線を彷徨わせ赤くなった頬をそのままに、ナルトは呻くように言うが、百鬼の国の若は苦笑を浮かべるだけ。

「ただの仲間をそんな目で見る男はいないぜ」

「そ、そんな……目?」

「それは恋する男の目ってんだ。愛する女を心配して眠れねぇくらい大事に思う」

「眠れねェくらい……」

「お前さんたちのおかげで、オレはそれからすぐ解放されちまったが……そのせいで、お前の大事な女が傷ついたのは謝る。すまねぇ」

「そ、そんな簡単に一国の跡継ぎが謝っていいのかよ。オレたちは忍だしさ」

「そんなの関係ねぇだろ。どんな立場であろうと、自分の大事な女が傷ついたのは辛ぇ……一歩間違えれば、アイツは還らぬ者となったって報告は聞いている。お前の女はオレの大事な女の命の恩人だ」

 柔らかな瞳でヒナタを見つめる若の姿に、ナルトは黙ってヒナタに視線を移す。

「オレは……よくわかんねー……大事だって思う。だけど、それがどこから来るかなんてわかんねーんだ……女として……って言われても、オレが求めているものって、そういう意味なのかも……」

「そうか」

 静かにそう呟けば、若にも覚えがある感覚だったのかもしれず、彼は押し黙った後に小さく呟くようにナルトに語りかけた。

「なら、今はこれだけ判ってろ」

「ん?」

「テメーが眠れなくなるほど、ぶっ倒れても傍にいてやりてぇほど、コイツが大事なんだってな」

「……ああ、そうだな……そうなんだよな」

「隣に布団敷いてやるから、体を横にしていろ。それだけでも休まり方は違う。女が心配して泣き出してもしらねぇぞ」

「う……」

「オレにも覚えがあるからな」

 ニッと笑い、若はナルトの頭を優しくポンポンと叩き部屋を出て行く。

「あー……さんきゅ……」

「気にするな」

「お布団もってきましたよー」

「何でお前が持ってくんだ!」

 若の言葉に氷雪の国の姫がきょとんとした顔をして彼を見上げると、綻ぶように笑う。

 姫にしては力持ちなのか、それともこういう仕事に慣れているのか、彼女は布団一式をその細腕で持ち上げてよたよたと歩いてくる。

「だって、ヒナタさんの事が気になったんですものっ、それにこれくらい、大丈夫で……ひゃああっ!」

 畳に足をとられ、氷雪の国の姫の体が傾ぐ。

 放り出された布団一式がヒナタへ向かって落ちていくのを見て、ナルトは思わず自分の体で衝撃をカバーすべくヒナタに覆いかぶさった。

 背に柔らかいが、重い布団がどかどかぶつかるが、腕を突っぱねて自分の下で眠っているヒナタを守った。

 姫のほうは、どうやら若が支えて事なきを得たようである。

「お前はっ!」

「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」

 ばさばさと布団を背から落とされ、ナルトは思わず一息つくと、今一度ヒナタの無事な姿を目にし、その薄紫色のかち合ったのを見て安堵する。

(……え?)

 ヒナタの目が瞬かれ、ナルトを見る視線は呆然としていた。

 それを見たナルトは、自分の姿勢を改めて考え……そして、頬を引きつらせてしまう。

(ど、どう考えても、オレ、ヒナタを押し倒してる?いや、オレがヒナタを襲ってるみてーじゃねェか!?)

 硬直したナルトとヒナタの横で、土下座をせんばかりの勢いで、氷雪の国の姫が膝をつき、必死に謝ってはいるが、二人の耳にそんな声は入ってはおらず、それを1人冷静に分析していた百鬼の国の若は口の端を上げると、姫の頭に手をやった。

「え……ど、どうしたんですか?」

「今謝っても聞こえちゃいねぇよ」

「え?」

 みるみる真っ赤になるヒナタと、まるで動けなくなってしまったナルト。

「い、いや、違っ、ご、誤解だっ!んなマネしようとしたんじゃなくって、あ、え、そのっ、ち、違うんだってばよっ!」

 真っ青から一転、真っ赤になったナルトは、必死にヒナタに声をかけるが、ヒナタは真っ赤になったまま硬直していて言葉を理解している様子でもない。

(そ、それに、んな事するならギャラリーのいねーとこでするっつーのっ!)

 ナルトの内心の叫びなど聞こえるはずもなく、ヒナタの瞳がうるりと潤いを見せ始め、大いに焦りながらどうにかしなくてはと気持だけが焦る。

「怪我人襲うようなマネだけはしねーって!襲うなら元気のいい……と……き?い、いや、違う、違うってばよ、オレなに言ってんの!?」

 もう完全にパニック状態のナルトに、若と姫は笑いを堪えながらも暫く静観することに決め込み、息を潜めて二人の様子を見守る。

「な……ナルト……くん?」

「えっと、そ、その……ご、ごめん……あー、違うんだってば……そ、そんなつもりなんてねーんだって」

「う、うん……わ、私にそんな気にならないのはわかって……」

「んなことねー!」

「え?」

「あ……」

 シマッタ!という顔をしたまま、ナルトは気を失いたいような心持で泣きたくなった。

 呆然として見上げてくるヒナタの目から目を離す事も出来ず、もういっぱいいっぱいだと心で叫ぶ。

 正直、色々とキツい。

 傷口の化膿のせいで熱っぽく潤んだ瞳、少し開いた柔らかそうな唇、少し乱れた髪、熱い吐息、少し肌蹴ている胸元。

(だーっ!マズイマズイ、本気でマズイっ!煩悩退散だってばよ!)

 ブンブンと目を固く閉じ、頭を大きく振ったナルトに対し、とうとう堪えきれず百鬼の国の若が声を出して笑い出した。

「クククッ……そういう事は、二人きりになってからやってくれ」

「う、うっせーっ!ていうか、もっと早くに助けてくれってばよ!」

「いいじゃねーか、別に……そういう仲になったほうが、お前らシックリしそうだしな」

「そ、そういう仲って、どういう仲だってばよ!」

「あん?お前がいまさっき考えた事じゃねぇか?」

「ば、ばっか!んなことできっか!!」

「ふーん?何を考えたんだ?お前」

 ニヤニヤと笑われ、ナルトは答えに窮すると頬を引きつらせ、真っ赤になる。

「な、ナルトくん……あ、あの……どちら様……なのかな」

 助け舟を出すようにヒナタは顔を横に向けて尋ねると、ナルトは幾分冷静になりコホンッと咳払いをした。

「あー、百鬼の国の若様だってばよ。何か、それっぽくねーけど」

 ナルトの素直な感想に、百鬼の国の若は妖艶に笑って見せる。

「そんじょそこらの奴らと一緒にされちゃ困る」

 黙って横に控えている姫は、くすくすと可愛らしい笑みを浮かべたかと思うと、ヒナタを心配そうに見つめた。

「大丈夫?」

「はい」

「それは聞き方が悪ぃな……お前とソックリだっていうなら、こう聞かねぇか」

 そう言うと、若はヒナタの顔を見て視線を合わせるとニッと笑う。

「足、どんな具合だい。正直に答えねぇと、ナルトがお仕置きするぜ?」

「どんな聞き方だってばよ!!」

 思わずツッコミを入れるナルトと、そんなナルトをからかって遊ぶ百鬼の国の若。

「オレがコイツに聞くときは、そういう感じだからかな」

「鬼畜かテメーは」

「いじめがいがあるからつい……な」

「あー……なるほど」

 妙に共感してしまったナルトは、チラリとヒナタを見る。

 確かにいじめたくなると、胸中で呟き、慌てて視線を逸らした。

「何してるんだいナルト、公開プレイ?」

 急にかかった声に、ナルトは心臓が飛び出る思いでガバリと上半身を起こし、戸口で無表情を貫き通しているサイと、終始ニヤニヤしているカカシを見つけ、顔を引きつらせた。

「知らなかったよ、ナルトにそんな性癖があったなんて……今度からボクも呼ん……」

「そんなんじゃねーってばよ!!バカーっ!」

 サイに皆まで言わせず真っ赤な顔のまま怒鳴るナルトに、サイは『残念』と呟く。

 本気か冗談かわからない事を言われて、ナルトはバクバクとうるさい心臓を持て余しつつ口元を片手で押さえてぜーはー息をつく。

 だが、ナルトは気づいていない。

 まだ、己がヒナタに跨ったような状態であることに……。

 先ほどまで押し倒した状態だったのだ、そこから上半身だけ上げた状態だと、おのずとそうなるものである。

 丁度際どい位置で跨った状態というのは、見るものをニヤニヤさせてくれた。

 ヒナタのほうは、近かったナルトの顔が離れた事で少し余裕が出てホッと吐息を漏らしたが、己のあられもない姿を認識していない。

 まるで情事の前のような二人の姿に、若は笑いを堪え、姫は少し頬を赤らめ、サイは胡散臭い笑顔を貼り付け、カカシはやっぱりニヤニヤしている。

「で、ナルト」

 カカシが話しかけると、ナルトはキョトンとして首を傾げて見せた。

「なんだってばよ、カカシ先生」

「そういう事は、ヒナタが元気になってからのほうがいいよ?」

「は?」

「まるで……襲ってるみたいだなーっとね」

「え?襲ってるんじゃないんですか?」

 カカシの言葉に、真顔で返すサイ。

「な、なんでそーなんだよっ!」

「えー?お前、ヒナタの上に跨ってんのわかってる?しかも、ヒナタも微妙に着崩れて色っぽいし」

「なっ!このエロ教師!見てんじゃねーってばよ!」

 ガバッと上着を脱いでヒナタにかけると、カカシを容赦なく睨みつける。

 その前に、自分が跨ってる事実はどこへ?と、カカシは思ったが、何より『ヒナタの着崩れ』に反応するナルトが可愛く思えて、クククッと若と共に笑ってしまった。

 ナルトの上着をきゅっと胸に抱き、頬を赤くしつつ困ったような顔をしているヒナタは、姫と目が合いお互いどうしていいのかわからず、苦笑を浮かべた。

「ま、お邪魔虫はそろそろ退散だ。ゆっくり休みな……アンタはコイツの命の恩人だ、せめて動けるようになるまではここに居てくれ。ナルト、お前もゆっくりしていきな」

 百鬼の国の若は、姫の手を掴み立たせながら、サイとカカシをも引きつれ外へと出て行く。

「人払いしておいてやるから、存分にな」

「ば、ばっか!な、何言ってやがるっ!そんなことしねーってっ!」

 怒鳴り返せば、大きな笑い声が響き、その笑い声が遠ざかるのと同じく人の気配がなくなるのを感じ、ナルトは一息ついた。

「ったく……タチ悪ぃー奴……」

「ふふ、でも……いい人だね」

「まぁな」

 上から見下ろし、ナルトはフッと笑うと、ヒナタの汗で張り付いた前髪をそっと手でどかしてやる。

「まだ熱高ェな……」

「ごめんね……みんなの足止めしちゃって……」

「いや、綱手のばあちゃんからも、無理せずに帰って来いって知らせが来た。さっきの若が、直接綱手のばあちゃんに嘆願したらしい。恩人をそのまま帰すような仁義に反する事はさせてくれるなって言ったみてーだってばよ」

「そ、そうなんだ……お礼……言いそびれちゃったかな……」

「元気になりゃ、ちゃんと言えるさ」

 ソッと腕をヒナタの横について、再び顔を近づけると目を見つめる。

「な、ヒナタ……」

 先ほどのナルトの雰囲気と打って変わった様子に、ヒナタは何かを感じて息を呑む。

 冗談で言っていたことが、本当になるような、そんな妖しい雰囲気。

「ナル……ト……くん?」

 自然と頬が赤くなっていくのを止める事が出来ず、ヒナタは唇をきゅっと噛んでナルトを見上げる。

「唇、そんな噛んだら傷つくだろ」

 指を這わされ、ヒナタはうっすらと唇を開き、そして熱い吐息をつく。

 ナルトは指に触れたその熱さに、思わず息を呑んだ。

 ずっとあの森で見ていた肢体が自分の手の届く範囲にあり、そしてあの柔らかな旋律を紡ぐ唇が顔を近づければすぐに触れられる位置にある。

 思った以上に馨しいヒナタの香りを感じるくらい傍にいるという事実を唐突に理解し、喉がカラカラに干上がり引きつった。

 指先に力をこめれば、柔らかな唇の感触が指に伝わり、息をするのを忘れたように互いの瞳を見つめあう。

 確かめたいと思った柔らかさが、今自分のすぐ傍にあって、己の手を拒んでいない事実。

 気が狂うんじゃないかと思うほどの胸苦しさと共に、知らず知らずたまっていた息を吐くと、ヒナタの肩がかすかに揺れる。

 潤んだ瞳が理性を狂わせる。

 本能のままに求めるには何かが足りない。

(つまり、中途半端なんだ……オレたちの関係は)

 わかっているのに、わからない振りをする互いの関係。

 変化を求めないからこそ、そうなってしまう。

 だけど、もし……変化を求めたら?

(オレは……ヒナタが欲しいのか?ヒナタがオレのものになるって……どういうことだ?)

 身体だけでなく、心も欲しい。

 いや、心が一番欲しい……と、己の中の何かが囁く。

(欲しい、ヒナタの心が欲しい、心だけじゃねー、身体も……魂すら欲しい)

 認めてしまえば、何と楽なことだろうとナルトは思う。

 あとは、いつもの自分だ。

(当たって砕けろってな)

 優しく唇をなぞると、顔を傾け、口付けをするように近づける。

 息を呑むヒナタの様子に、笑みを浮かべると、ナルトはさらに顔を近づけた。

(さぁ、どうする?ヒナタ……お前の心を見せろ)

 迷いを含んだ瞳の色は、今一度唇を結んだあと、ゆるりと閉じられる。

 口付けするぞと暗に行動で示した結果は、是。

(やっと捕まえた、オレの小鳥……)

 熱っぽい唇に、己の唇を重ね合わせ、はじめての優しい感触に酔いしれ、もっととせがむように角度を変えれば、ヒナタの手が遠慮がちにナルトの背に回された。

 甘えるように軽くちゅっと音を立ててキスしてから離れれば、瞼を開いてナルトを見つめるヒナタ。

「もう一度……いいか」

「……うん」

 どうして?という疑問すらなく、ただ求めてくれる事が嬉しかったのか、ヒナタは頬を染めつつもナルトに応える。

 何度も何度も求めて、くったりと力を失ったヒナタに満足したナルトは、漸く口付けを止めてヒナタを見つめた。

 本当はもっと欲しいし、いつまでも重ねて、もっとより深く重なりたいとも願う。

 しかし、彼女は怪我人でもあり、何より順序を間違っている自覚もあった。

 耳元に唇を寄せて、ナルトは自分に出きるだけ甘く低い声で話しかける。

「ヒナタ」

「っ……は、はい」

 緊張したヒナタの耳朶に一度口付けてから、ナルトは小さく囁く。

「好きだぜ。お前の全部が欲しいくらい、大好きだってばよ」

「……な……ナルトく……ん……」

 足の怪我に注意しながらヒナタを抱きしめ、ナルトは優しく微笑む。

「大好きだ……お前の身も心も魂すらオレのものにしてーんだ」

「っ……ナルトくん……わ、私も……好き、大好き……」

 ぽろぽろ流れる涙。

 それがとても綺麗で、ナルトはうっとりと目を細める。

 ヒナタの目元を唇で拭い、そして再び唇を重ねると、微笑み合う。

「へへ……オレってば、幸せだってばよ」

「わ、私も……夢みたい……」

「だな……」

 でも、夢にしたくなくて、ナルトはぎゅぅっとヒナタを抱きしめる。

 柔らかな肢体と柔らかな声、そしてうっとりするほどのいい香り。

(あー、やべー……眠い……)

「ナルトくん、寝て?」

「ん……でも……」

「私も寝るから……ね?」

 心配そうなヒナタの様子に折れたナルトは、先ほど氷雪の国の姫様がぶちまけてしまった布団を乱雑に敷き、その上にゴロリと横になる。

 隙間無く隣に並んで敷かれた布団。

 そして、何も言う事無く身を寄せ合う。

 互いに横に並んで手を握りつつも、ナルトは眠るのが惜しくて、必死に瞼をこじ開けてヒナタを見つめる。

 本当は抱きしめて眠りたい。

 怪我のことを考えて、それだけは理性で押し止める。

「抱きしめて眠りてェな……」

「あ……う……怪我……治ったら……ね?」

「おう」

 約束を取り付けただけでも上出来と、ナルトは微笑んで眠る前にもう一度ヒナタの唇を奪うと、へへっと笑う。

「オレのヒナタ……」

「……うん」

「おやすみ」

「おやすみなさい、ナルトくん」

 今までの不眠症がウソのように眠りの中へ落ちていくナルトを、ヒナタは優しく見つめ、そしてナルトの寝息を確かめてから己の身体を少し起こして身を乗り出し、先ほどナルトがしたのと同じように唇を重ねた。

「大好きだよ、私のナルトくん」

 ふわりと笑って、夢見心地でヒナタは目を閉じる。

 傷の痛みも熱の高さも今は感じることもなく、ゆるりと互いの匂いと熱に包まれて至福な時に包まれた。
 返答のようにぎゅっと握る手に力が篭ったのを感じつつ、ヒナタも夢の中へと落ちていくのであった。





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