05.お願い 数回交戦があったが、いずれも白眼で探知したヒナタと影分身のナルトにより撃破され、大きな戦いになることも無く国境までたどり着くことが出来た。 国境に入るその前に、どうやら敵の忍の頭である者が陣営を敷いていたようで、敵の忍の数は膨大で一種の人の壁のようであった。 その様子を隈なく探るために、カカシ、ヤマト、ナルト、ヒナタの四名はキバと赤丸と影分身のナルトそして氷雪の国の姫から少し離れた場所に移動していた。 「厄介だね……人海戦術とはね」 カカシが苦笑してそう言うと、ヤマトが同じような顔をして呟く。 「だから言ったじゃないですか、数日間、ボクらはこれに悩まされていたんですって」 「でも、小さな隠れ里にこんな人数揃えられるもんかね」 「先輩もそう思いました?雇われている感じがしますしね」 「手練を雇うゆとりはないけど……ってとこかな」 ヤマトとカカシの会話を聞きながら、ナルトは腕の中のヒナタを見た。 出血が多いため、肌は青白いのだが、足のほうは化膿したのか赤黒くなっているようであった。 「ヒナタ、白眼使うのもう辛いだろ、やめとけ」 「で……でも……」 「ここまで来たら、奴らの動きは見えてる。それに、仙人モードになって蹴散らすくらいはやってのけてやる。だから、お前はもう休め」 「……でも、ナルトくんも……本調子じゃないよね?」 「え?」 その言葉に、ナルトもカカシも驚いた顔をする。 この薄明かりの中、ヒナタはナルトの体調をしっかり見抜いていたのである。 澄んだ薄紫色の瞳は、月光を受けて綺麗に煌きながらも、その白眼ではない彼女本来の視線で彼を見ていた。 「目の下、クマできてるよ」 「寝不足くらい何でもないってばよ」 苦笑を浮かべてそう言うが、ヒナタは頑なに頷こうとはしない。 彼女はこういう時、見た目より頑固なのだ。それを知っているナルトは、暫し思案してから提案という形でこの場を収めようと試みた。 「よし」 「?」 「じゃぁさ、オレがここ突破したら、ひとつ頼まれて欲しい事があるんだけどさ」 「わ、私に出来ること?」 「ああ」 「……と、突破しなくても、ここへ来てくれたんだからそれくらいは……」 「いいや、突破したらお願いするってばよ」 「で、でも……」 頑なに頷くことを渋る彼女に、これでもかと言わんばかりに言葉をかぶせる。 「んじゃぁ、2つ」 「えっ」 「2つお願い」 「……な、ナルトくん……」 「ダメ?」 可愛らしく小首を傾げるという芸当をやってのけたナルトに、ヒナタが逆らえるわけもなく、頬を赤く染めながらコクリと頷いた。 「よっしゃ!やる気出てきたっ!カカシ先生っ、オレがあいつら黙らせてくるってばよっ」 「お前ねぇ……」 今までのやり取りを黙って聞いてたカカシは呆れた顔をして見るが、今のナルトの状況から言ってこの数相手にするのにも骨が折れるだろうと考えていただけに、諾とはすぐ言えない。 「カカシ先生と、ヤマト隊長が言ってたってばよ、あいつ等雇われてんだって。だったらさ、オレの名前って効果あるんじゃね?」 先の大戦で『うずまきナルト』の名は、忍界に広く知れ渡っている。 その強さに尾ひれ背びれ胸びれまでついていたとしても、噂として広がっているぶんには問題ない。 それに、今回のようなケースでは、反対に助かる。 「ああ、ナルホド」 「そうだね、ヒナタさんの気迫に押される連中だ、ナルトの気迫となれば、逃げる可能性も高いね」 「ヒナタの気迫は、誰かを護る時、一番強いからな」 ニッと笑い見てくるナルトから視線を逸らせ、ヒナタは真っ赤になると指をツンツンと突付いて何とも言えなくなってしまう。 そのいつもの見慣れた様子にみんなが苦笑していると、ナルトはヒナタを一度自分の膝の上に座らせ素早く印を切り、影分身を出現させる。 そして、自分に腕の中のヒナタを出来るだけ優しい動きで預けた。 「怪我させんじゃねーぞ」 「あったりまえだっつーの」 影分身にそれだけ言うと、カカシとヤマトに了承を取って、おもむろに茂みから歩み出て行く。 「貴様、よくも1人でのこのこと!」 敵の頭と思われる男の怒号が響くが、それに負けないほどの大声でナルトが怒鳴る。 「良ぉく聴きやがれ!木ノ葉隠れのうずまきナルト推参!!これ以上オレたちの邪魔をするようなら、容赦はしねェ!死ぬ気でかかってきやがれ!」 ナルトの怒号にあわせるように、影分身たちが一斉に出てくる。 そして、ナルトは止めとばかりに九喇嘛の力を借り、尾獣モードへと移行すると、敵の忍頭を睨み付けた。 「は、ハッタリ……だっ」 「それはどうかな」 そう言って、後ろからカカシが出てきて、ニヤリと笑う。 「しゃ、写輪眼のカカシ……てことは……本物の……うずまき……ナルト……っ!?」 「さーて、どうする?」 人の悪い笑みを浮かべ、ナルトとカカシはゆっくりと相手との距離を縮めていく。 「お、オレが手柄を上げてやる!」 切羽詰った窮鼠の如く敵の忍頭が声を張り上げ、真っ正面から攻撃をしかけてきたのをいいことに、ナルトは両手に乱回転のチャクラを練り上げ、相手の動きにあわせ右から回り込むように目にも留まらぬ速度で移動すると、相手の側面から容赦なく螺旋玉を叩きつけた。 「螺旋連玉っ!!!」 哀れ一瞬にして地面を数メートル転がり樹木をなぎ倒し茂みにめり込むハメとなった、敵の忍頭を見ていた他の雇われ忍たちは、疑いようも無く本物のうずまきナルトだと認識し、それは見事に、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。 「いやー、オレってば、結構有名になってるってばね」 「俺の名も棄てたもんじゃないねぇ」 軽やかに笑うナルトとカカシの両名に、ヤマトが「忍としてそれでいいのか?」と呟くのを、ヒナタは聴きながらも、笑顔で約束な?という影分身のナルトを見つめて微笑み返し、そして緊張の糸が切れたように意識を失ったのであった。 |