44.相愛



「っ……は……あ……」

 ヒナタは荒い呼吸をしつつも、自分のおなかへ手を当ててほぅと吐息をつく。

(私……ナルトくんのモノになったんだ……ずっと、ずっと追いかけてきたナルトくんと……結ばれたんだ……)

 乱れた呼吸を整え、ホッと一息ついたナルトはぼんやりとしているヒナタを見つめた。

 くったりと力をなくしているその姿は、少し申し訳ない気分ではあるが、やはり綺麗でうっとりと見つめてしまう。

 月明かりに栄える真っ白な肌。

 先ほどまでほんのりピンクに染まっていた肌は、今ではその白さを取り戻し、頬が僅かに赤らんでいるだけ。

 いや、首筋から胸元に咲いている華は、いまだその赤さを鮮やかに咲き誇らせていたが、彼女は全く気づいていない様子であった。

(不思議だな……こんなにも愛しくて、こんなにも……愛してやまない相手が出来るなんて……しかもその相手がオレに全部捧げてくれるなんて……絶対にありえねェことだって思ってたのに)

 父と母のようなことはあるまいと、半ば諦めていたナルトである。

 母クシナの前身の人柱力は既に既婚者であったし、母が父と出会って己が生まれたのだって、どれほどの奇跡だろうと思っていたのに……。

(オレを受け入れ、オレに全てを捧げ……すげェよな。こんなヤツは他に絶対にいねェ……オレだけのヒナタ……)

 そんなことを考えながら力の抜けた体をヒナタの横へと横たえ、ナルトとヒナタは顔を見合わせたまま、自然とこみ上げて来る笑みを口元へ浮かべ、ソッと手を繋ぐ。

「へへ……全部貰っちまったな」

「うん……全部あげちゃったね」

 何が楽しいのかわからないが、ただ二人で共にいられる喜びと、互いに1つになれた充足感。

 何よりも愛しい人が傍にいる喜び。

 乱れた髪を撫で付けながらナルトは満足げに微笑むと、軽くヒナタの鼻先に音を立てて口付ける。

 それをくすぐったそうに受け入れながら、ヒナタはくすりと笑らい、より一層心の奥底から湧き上がってくる愛しさをどうしていいかわからず、ナルトは笑みを深めた。

 先ほどまでの夢幻の時間。

 思い出すだけでまだ体は熱くなるが、何よりも心と体を満たす充足感がなんとも言えない安らぎをもたらしていた。

「あー、こんなにすげーと思わなかった……正直マジで困った」

「困った?」

「オレ、ヒナタの虜だ。ダメ、オレはヒナタいないと生きていけねェ」

 決して軽い口調で言っているワケではない。

 ナルトはナルトで本気で悩んでいるのだが、ヒナタは冗談ととって取り合ってはくれない。

「ふふっ……ソレ変だよ、ナルトくん」

「いーや、自信持って言えるね。オレはヒナタがいねーと絶対ダメになる。生きる屍状態になる、きっとそうだってばよ」

 大真面目だってばと言っても、楽しげに笑うヒナタを見れば、離れるなんて選択肢ねーからいっかと笑い出し、やっぱり冗談ばっかりとヒナタに笑われる。

「も、もう、変なこと言わないで……」

 くすくす笑うヒナタに、ナルトもククッと笑みを浮かべながら、変に自信を持った言葉で言うものだから、ヒナタは可笑しくてたまらない。

 他愛ないこんな会話が愛しくて、嬉しくて、ナルトは心が震えてしょうがないのだ。

 この喜びをどう伝えていいかわからず、里中を飛び回って喜びを表現したい気分であるのだが、まさかそんなことするはずもなくヒナタとジャレて戯れる。

 指と指、手と手、足と足を絡め、視線を絡めて笑い合い、軽く口付けをしてから、額をコツリとすり合わせた。

「ナルトくん。これからも、よろしくね」

「ああ、こちらこそだってばよ。生涯頼む」

「……うん、ずっと……一緒ね」

 ナルトは一度してみたかったんだとヒナタの頭の下に腕を置くと、腕枕をしてヒナタを抱き寄せる。

「夢……だったことの1つ……だってばよ」

 ニシシッと笑うナルトを見つめながら、ヒナタもうっとりと腕に頭を預けて微笑む。

「私も……夢だった……かな」

「同じか」

「うん」

 変なところ似てるなーと、カラカラ笑うナルト。

 そうだねと同意して、微笑むヒナタ。

 こうして結ばれたのが奇跡なら、きっと同じ時代、同じ時に生まれたのもまた奇跡。

 そして、こうして手を繋ぎ合えるのも奇跡なのだろう。

「偶然が重なれば必然というけれど……私たちの結びつきも、きっとそうなんだね」

「偶然なんかじゃねェさ。オレたちは、こうやって手を繋ぎ共に生きていくために、今まで頑張って歩いてきたんだ」

「……うん」

「辛い道のりだったけどさ……色々あったけど……オレは今、すげー幸せだ」

「……私もだよ……辛い思いも沢山あるけど、でも……きっとそれは、この日この時のためなんだね」

「どれが欠けても、ここへ辿り着けなかった……そう思う」

 それがどれだけ確率の低いことで、どれだけの貴重な巡り会わせであるかなんて考えるだけ無駄な気がして、ナルトは目を閉じる。

 今あるこのぬくもりが真実。

「ありがとうな、ヒナタ……傍にいてくれて」

「私こそありがとう……私を選んでくれて」

「お前以外にはねーって」

 笑いあいながらも、互いに欠伸をかみ殺し困ったぞとナルトはうーんと頭を悩ませる。

 この状態でヒナタを帰せない、いや、帰したくない。

 となると……

(身代わり影分身……ヒアシのおっちゃんがいたらバレるよな……)

「ヒナタ、今日ヒアシのおっちゃんは……」

「……んっ……明日の……夜帰ってくるよ……」

 うつらうつらとしているヒナタの髪を梳いていた手を止め、ナルトはニヤリと笑うと、すぐさま印を結ぶ。

「影分身の術っ!」

 ぼふんっと現れた影分身はヘイヘイと返事をすると、印を結び変化の術を発動させた。

「これで……いいかな?」

「おう、へー……オレってばやるじゃん。ネジのヒナタより似てねーか?」

「……うわぁ……凄いねぇ……ナルトくん」

 重い瞼をこじ開けてヒナタそっくりに化けたナルトの影分身に拍手を送ると、影分身のヒナタは少し照れたように笑ってから寝室を出て行く前に、寝室の戸口でじーっとこちらを見つめると、一言。

「調子に乗って、何回もすんじゃねーぞ」

 と、ナルトの口調でもってヒナタの声で言うという、何とも不可思議なことをやってのけて外へと出て行った。

「何回もって……流石にはじめてだってのに、できっかよ」

 真っ赤になってオロオロしているヒナタと、呆然と己の影分身にぼやくナルト。

 まだまだスタミナと体力が有り余っていると認識している影分身の己だからわかることなのだが、どうみてもヒナタが無理だ。

 忍であるから、常人より体力もスタミナも確かにある。

 しかし、本日の行程とはじめての行為による極度の緊張が相まって、クタクタに疲れている様子であった。

 顔を見合わせクスリと笑うと、二人は同時に欠伸をし、これまたタイミングがいいものだと眠気を覚えながら体を摺り寄せる。

「裸……は風邪ひくな……えーと、Tシャツっと……ヒナタ、ほら」

「う、うん……あ、ありがとう」

 すっぽりとナルトのTシャツを被ったヒナタはコテンと無防備にベッドへと横になる。

 よっぽど眠いらしいヒナタの可愛らしいその仕草に笑いを堪えながら、再びタンスの中からTシャツや下着、ハーフパンツを出す。

 適当に服を着たナルトはヒナタを抱き寄せて、ふわぁと大きな欠伸をした。

「眠い……な」

「うん……」

「おやすみ……ヒナタ」

「ん……おやすみ……ナルトく……」

 最後まで言葉は音にならず、聞こえてくるのは穏やかな寝息。

 既に、先ほどまでの甘く激しい熱は寝室にはなく、穏やかであたたかく優しい時間が二人に訪れたのであった。







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