16.絶叫 何だかこの光景というか、この対応を数日前にも見たよなと、どことなく遠い目をしつつ思っていたカカシは、絶叫後動こうとしない一同を見渡し、呆れたように肩を竦めた。 「やっぱり言っておいた方が良かったですね」 「そうだね。しかし……そこまで驚くことかねぇ……あの二人見てたら、いずれはこうなったってオレは思うんだけど」 「ボクも同意見ですよ」 カカシとヤマトが顔を見合わせ頷きあいそう言うと、ガイがいち早く復活を遂げ、恐る恐るといった具合に口を開く。 全く珍しい光景だなと思いガイを見つめるカカシは、苦笑を浮かべるだけの余裕があった。 「カカシ、ナルトとヒナタは……そういう関係だったのか」 「まぁ、数日前からだけどね。ナルトの不眠症の原因もソレだし」 「はっ!?」 「まさかって思ったけど、アレは恋煩い。本人の自覚アリナシ関わらずだけど……そういえば、何で急に自覚したんだろうね、ナルトの奴」 「さぁ、ボクも詳しくは知りませんよ」 カカシが「知ってる?」とでも言う様にヤマトの方を見たので、ヤマトは首をかしげて笑った。 確かにナルトが恋煩いなんて似合わないと人は言うだろうが、症状としてはソレでしかない。 「現に、8班に負傷者って言った瞬間、アイツはヘロヘロだったのに目をキリッと上げてヒナタが怪我したんだから早く行かないとまた無理するって言ったんだよ」 カカシの言葉を聞いて、ヤマトは首を傾げる。 自分の記憶をさかのぼって照らし合わせて見ても、一箇所何故か合わないところがあるのだ。 「あれ?ボク、負傷者連絡しましたっけ?」 疑問を素直に口にしてみれば、カカシは首を振って否定した。 「いいや、誰だか分からない状態だったよ。でも、ナルトは……『対象者を体張って守るなんてことするのはヒナタしかいねー』って言い張ってね」 「まぁ、それは正しかったですけど」 「だから、合流した時、既にナルトは影分身結構な数出してたでしょ?アイツ今までみたいに言葉に出して怒ったりするなら分かりやすかったんだけどね、今回無言で怒り狂ってね、抑えるの大変だったのよ」 「あー、やっぱり激怒してたんですね。いやー、ヒナタさんが凄くナルトに似てるなぁって思ったら、そんな彼女をナルトが大事にしてないハズないなと考えたら、正直背筋が寒くなりましたよ。ヒナタさんが怪我したのを知れば、ナルトは怒るだろうなと思ったもんで」 苦笑するヤマトに、カカシも頷く。 目の前で見た二人の姿は、とても優しくあたたかいモノを感じさせる。 それを実感として感じているカカシとヤマトは、自然と二人を支援するカタチになってしまう自分たちに戸惑いを最初は感じていたが、今ではそれを受け入れ当たり前になっていた。 「しかし、そんな状況だって言うなら、ナルトが結構ヤバイんじゃないッスか……ヒナタが苦しんでるの、間近で見て平気でいられるワケねーから」 シカマルが少し考え、その状況のナルトとヒナタを思ったのだろう、口にし辛そうな顔をした。 「いや、ナルト意外は今彼女を助ける事が出来ない。ヒナタに九尾チャクラをナルトが分け与えているんだ」 「何だと!?だ、大丈夫なのかっ!カカシ!ソレはナルトだからセーブ出来るものであって、ヒナタでは……」 「それがねー、不思議なんだよね。ヒナタは九尾チャクラであっても、ナルトであると認識しているみたいで、抵抗なくすんなり受け入れてるワケよ。九尾の方もそれが楽しいみたいで、結構協力的だし」 もう、衝撃過ぎて言葉が出てこないという状況である。 九尾チャクラが誰でも扱えるようなものであれば、そんな苦労など無い。 しかも、いくらナルトが仲介しているとは言え、元はあの九尾の力。 すんなりと体に馴染むワケがないのだ。 「それはもう愛のなせる業としか言いようが無いよ。ハッキリ言って、どれも憶測で説明がつかない」 カカシが肩を竦めて見せると、一同も大きな溜息をついた。 「でも、ヒナタなら、ナルトだって言うだけで、オールオッケーみたいなところあるわよね」 テンテンが呆れ口調でそう言うと、ネジも困ったような顔をしつつも頷く。 それはこの場にいる誰もが知りえることであった。 「愛のなせる業……素晴らしいじゃないですか!」 「うむ!愛か……青春と同じく輝けるものだぞ!リー!」 「押忍!!」 熱血師弟が騒ぎ出したのを聞きつけたのか、話は大体終わったのだろうと、キバとシノが戻ってきた。 「カカシ先生、どうやら周辺は何事もないみたいだぜ」 「こちらは念のため、蟲を配置させてある。問題はないだろう」 「よし、では一旦戻ろうか」 カカシの合図と共に、一同が動き出す。 一般人の目では捉える事ができないほどの速度で、一行はヤマトの建てた借りアジトへ向かうのであった。 「ご苦労様です」 そう言いながら出迎えたのはサイ。 そして、その後ろからサクラとシズネが姿を見せた。 「いま、ナルトくんとヒナタさんは疲れて眠ってしまったわ。しばらくソッとしておいてあげて」 シズネの言葉に一同は頷くと、家の中へと入っていく。 静かな廊下を歩き、一番手前の大きな部屋へと通された。 シズネ、カカシ、ヤマト、ガイ、サクラ、サイ、シノ、キバ、シカマル、ネジ、テンテン、リーというメンバーが部屋の中へ入ってもそれほど窮屈さを感じさせないほどの広さ。 それぞれが座り、円陣を組むような形になったのを見計らって、シズネとサクラがお茶を出した。 「で、ナルトも寝ちゃったの?」 「ええ、先ほど大量なチャクラを譲渡したんで、疲れたみたいよ。さすがに九尾チャクラとナルトくんのチャクラを混ぜ合わせたものをヒナタさんに注意深く注いでいるから、かなりの神経を使っているんでしょう。それに、献身的に世話をしているから、看護疲れもあるはずだもの」 カカシの言葉に、シズネが声を抑えてカカシが居ない間の二人の様子を報告する。 「ナルトが看護!?」 そんな報告の中で、似合わないというか、ナルトがするとは思えない単語を聞き取り驚き声を上げるテンテンに、同じ反応をしたことがあるのか、サクラとキバは苦笑を浮かべた。 「ボクも驚きましたけど、変われば変わるものなんですね。ナルトがあんなに我慢強く労わって接してる姿を見るのははじめてですよ」 サイの認識しているナルトは短気でガサツで乱暴なところがあり、考えるよりすぐ行動の人物。 しかし、今現在のナルトからはそれを感じることが出来ないでいた。 「そのチャクラ譲渡、ナルト以外は出来ないのか」 「あー、そういえば、その説明してなかった……」 「重要なところを……」 ガイの質問に対し、カカシがポンッと手を打って思い出したように呟けば、サクラが頭痛を覚えたように額を押さえて呻いた。 そう、そこが一番重要事項ではないだろうかと、サクラは思うワケである。 (あんな譲渡を何度も見せられたら、こっちは慣れちゃったけど、このメンツだと色々面倒だと思うのよね……) サクラの不安を余所に、話は進んでいく。 「簡潔に言えば、無理です。現在のヒナタさんのチャクラ消費量は、我々が補給できるようなスピードではないわ。それに、補給方法もアレなんで、ナルトくんが許してくれるとは思えないけど……」 「あー、本気モードのナルトに殺される覚悟しないと無理だね」 「そんな生易しいもんで済みますかね」 シズネ、カカシ、ヤマトの順に首を振りつつ言う言葉を聞きながら、事情を知っている者たち以外が首を傾げた。 「何か……聞いたらめんどくせーことになりそうなんッスけど……その方法って?」 シカマルの質問に対し、シズネ、カカシ、ヤマト、サイ、サクラ、シノ、キバ、赤丸が顔を見合わせ困ったような顔をした後、なにやら押し付け合いをしているようで、水面下の戦いになっていた。 中々言い出せないカカシたちを見つつ、よっぽどマズイことなのか?と不安になっていた一同は、次の瞬間息を呑み言葉を失う。 「…………」 己の喉下に突きつけられたクナイの冷たい感触。 そして、鋭利な刃を思わせる本能的に震えだすんじゃないかと思うほどの殺気。 冷気漂うほどのその気配に、瞬時に死を覚悟した。 そう、それほどの圧倒的な力。 絶対に格の違う力と、絶対零度の殺気が魂を貫いたのだった。 円陣を組んでいるだけに、その元となる人物が誰であるか視野には入れることができた。 ガイ、シカマル、リー、ネジ、テンテンの背後にいる、燃える様な金色の髪、冷たく煌く蒼の瞳、オレンジ色と黒の服。 「……ん?何だ、お前らだったのかってばよ」 冷たい目をしていた人物が誰だが理解することが出来なかった一同は、ナルトの発した声と共に離れるクナイと殺気が消えた事により、漸く金縛りから解け体の力を抜いた。 普段のナルトからは考えられない気配。 そして、普段太陽のような彼が、こんな冷たい殺気を出せるのかと驚く。 震える体をどうにかしようとしている者たちが見えぬかのように、ナルトはいつものように明るい声で話し始める。 「カカシ先生たち以外の気配がしたから、ちっと焦っちまったってばよ」 「ごめんなさいね、寝入ったところだったのに」 シズネが詫びると、ナルトは困ったような顔をしてから首を振る。 「いや、すまねーってばよ……寝るつもりなかったのにさ。って、言ってもまだ本体の方は動けねーけど」 「何かあったのか」 カカシの問いに対し、ナルトは瞬時に赤くなると、サッと視線を逸らしてしまう。 「あ……い、いや……そ、その……ヒナタが起きちまうから」 明後日の方向を向きながら、赤くなった頬をカリカリ掻いて恥かしさを誤魔化している一体の影分身。 他の影分身たちも居た堪れないような顔をしている。 動けない=密着したような状態で寝ていますと暴露したようなものである。 「ナルト、めんどくせーけど、お前が答えてくれ」 「ん?」 「チャクラ譲渡、お前以外が……って、オイ、何で殺気向けんだよ」 「シカマル、お前がやろうってのか?……へー、ほー……」 目が笑っていない。 先ほどのナルトも恐ろしいと感じたが、今のナルトもハッキリ言って怖い。 一般の忍なら、あてられた殺気だけで気絶ものだ。 現に、シカマルほどの者であったとしても、流れ出る冷や汗を押さえることが出来ないでいた。 「待てナルト、我々はその方法を知らないから教えてくれと言っているだけだ」 「何で知りたいんだよ」 「え?」 「だから、何で知りてーんだって聞いてんだ」 ギロリと睨まれ、ネジは言葉の選択を間違えたのだと悟った。 今のナルトは、対ヒナタのことに過敏になっている。 それでなくても、知らない男がヒナタの足に刻印なんぞという面倒なモノを残し、所有物扱いしてくれているのだ。 ナルトにしてみれば、ソレも面白くは無い。 そんな現状のナルトは、チャクラ譲渡方法を知った者たちが、ヒナタを自らの手の内から奪い去るのではないかという危機感を覚えたのかもしれない。 「ナルト、興味本位で悪いけど教えてよ。ネジもシカマルも、ヒナタをアンタから奪う気なんてないんだから」 テンテンが声を張り上げると、それを聞いたナルトは口を尖らせ「むー」と唸る。 「本当かよ」 「だって、みんな言いづらそうにしてるから、気になるじゃないっ」 テンテンの言葉は尤もだと思ったナルトは、1つ頷くと納得したように腕を前で組んだ。 「そういうことならわかったってばよ」 「で?どういう方法なのっ」 目をキラキラ輝かせ、単なる興味本位、好奇心で尋ねてくるテンテンに、ナルトは視線を逸らしてから、やはり言いづらそうに口をもごもごさせる。 「男ならハッキリ言いなさいよねー!」 「あーもーっ!言えば良いんだろ!……だ、だから……粘膜吸収が一番いいみてーなんだよな」 「粘膜?」 キョトンとしているガイ、ネジ、テンテン、リー。 1人シカマルだけが、何か思い当たったのか「マジかよ」と天を仰ぎ、右手を目元にあてた。 「そりゃ、お前に殺気向けられてもしかたねぇな」 シカマル1人理解した状況で、ナルトは拗ねたように「しょうがねーじゃん」と呟く。 「ナルト……簡潔に言ってくれ。オレたちはシカマルのように察する事が出来ん」 ガイの言葉に、ナルトは観念したように溜息をつくと、先ほどより顔を赤くして叫ぶように言った。 「キスしてチャクラ譲渡してんだよ!」 「はああぁぁぁーーーーーーーーっ!!!??」 結果 本日二度目の絶叫が、森に響くのであった。 |