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「…え」

 ただ、ほんの無意識に声が出た。状況が把握できない上、大人しく叩かれたルアーにも理解が出来ない。
叩いた女性は30代と見られルアーと同じ様な黒髪に金の瞳。段の入ったセミロングの髪で、お世辞にも整ってるとはいえなかった。少し埃がついている。

 しばらく黙っていると、色々言うことはあるが始めにはというように女性が口を開いた。

「あなたはこんな所で何をやっているの!!村に居ないで魔術の勉強をなさい!」

ルアーの手から本の入った鞄が落ちる。
女性はそれに気がつかずに言葉を続ける。
「どれだけあなたに期待していると…」
「ごめん…なさい」
心配はしているようだが、他に何も言う気配はない。ルアーは落ちた本を拾った。その時女性は何を思ったのか申し訳無さそうな顔をした。
そして女性の視線がこちらに向く
「………………あら」
その女性は今まで自分の存分に気がついていなかったようで、見られても構わないと言う様子でこんにちは、と挨拶をした。そしてそれに返す。
「この村に何か?」
あぁしまったと思った。もう少しよく考えてくるんだった。初対面だけど人探してますなんて言ったら怪しまれる。そしたら聞くことが聞けないかもしれない…ルアーが異例なだけだ。。
「魔術が身近な村だと聞いて…お話を伺いたいなと思いまして」
「貴方が?それで、話を聞きに?…なら私が答えましょう。村で一番詳しいのは私ですから。中央の図書館で司書をしていますので。」
知りたいのは嘘ではない。魔術を使う村については街では聞けないことだ。
「では図書館へどうぞ。ルアーは新しい本を借りたら家に戻りなさい」
「は、はい」「ありがとうございます」
相変わらず人の少ない村を、3人で図書館へ歩いて向かった。
 彼女はホークと名乗った。
産まれながらの魔術への才能と、機敏な人格を見込まれて18歳にして司書になったらしい。図書館の本すべてに目を通しており、場所も把握済。誰もが認める「秀才」だろう。
「それで、質問を承りましょう。」
 通された部屋はとても綺麗とは言えないが、整頓されている所だった。やはり同じ焦げ茶色の木材製の壁と床、机と椅子もだ。統一感はある。ついでに言うとルアーは一人で本を返している。
 そして自分は彼女へと質問をする
「この村にー…」



 僕は彼に嘘をついた。
同情を誘って助けて貰おうと思った。
けど彼の勘はどうやら鋭くないようで、黙って立ち去ることも出来ないわけで。
はぁ、とため息を付き数ある本棚の中、奥の奥にあるとびきり大きいものの前に立つ。
分厚い魔術書が幾冊も収められているそれは少しカビ臭い。
言わば禁断の魔術書と呼ばれるもので、永らくの間誰も手にとってなどいないだろう。暫く同じ場所をうろうろする。
僕はこの本棚の本は下半分なら読みきっている。下半分だけ。理由は簡単、届かないから。それに足場の梯子は自分一人では運べないという重なる悲劇。
どうしたものかのともう一度ため息をつく。
ノアさんが彼女と話し終わるのを待つか、それとも更に奥の本棚へ手を出すか。
「上の本が取りたいのかい?」
不意に頭上から声がした。振り返ると男性が立っていた。自分がよっぽど集中していたのか、それとも男性の足音が小さいのか、全く気がつかなかった。
この村の人間では無いようだ。ここの村人が好まない服を来ている。
「どの本がいいのかな?」
「えっと・・・そこの本を・・・」
重い本を数冊渡されてよろけながらお礼を言う。男性は少し長い茶色の髪を揺らして微笑んだ。
男性は辺りを興味深そうに見回して1冊手に取る。
「この村に魔術を使う人間ってどれくらいいるんだい?」「どうして?」「魔術なんて滅多に触れられない物に触れる機会だ、それは興味も湧くだろう?」
・・・知らない相手に簡単に話す事ではない・・・と、思った。
はっきり言って、僕以外に魔術を学ぶ者はもういない。僕が死んだら同じような境遇で学ぶ者がいるであろうが、今のところは僕だけだ。
「さぁ・・・僕にはよく・・・」
また嘘をついた。
「それなら詳しい人にでもあたってみるよ。それじゃ。」
男性は諦めがいいのか悪いのか、それ以上何も言わずに立ち去った。
彼の背中を見送ってしばらく、そこを動かずに俯いた。
「僕だけ・・・か」

『どれだけあなたに期待していると・・・』

ホーク・・・母の言葉だけが頭に響いた。

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