「○○くんは、友達ぎょうさんできたんどすか?」
いつものようにアラくんとお昼ご飯を食べていると、彼がそのようなことを言い出したので、プリンをすくう手を止めて彼の方を見る。
彼はうどんを食べる手を止め、私の方をじっと見ていた。
「うーん…どうだろう。友達、って言っていいのかわからないけど、仲良くなれた人なら結構いるよ。」
「ああ、通りで最近お昼ご飯食べたらどこかに行くと…その仲良うなったお人とどっか行っとるんでっしゃろ?」
「へ?ああ、これは違うよ。1人で校舎を散策してるの」
そう言うと少し暗い顔をしていたアラくんは豆鉄砲を食らったような顔をした後、ああ。と納得したように目を細めた。どうやら私の方向音痴を思い出したようだ。
「そうやったんか…なんや、早とちりしてもうたわ」
「ん?何か言った?」
「な、なんもあらしまへん!…○○くん、今日も1人で校舎まわりはりますん?」
「あー、うん。そのつもり」
するとアラくんは突然ムッとしたような表情になった。あれ、ちょっと不機嫌?
「…わてがその都度連れてってあげるさかい、○○くんが頑張って場所覚える必要はあらしまへん」
「それじゃダメだよ。アラくんに迷惑だし、私のためにもならないもん」
「別に迷惑やあらしまへんし。そんなん今頑張らんでも、わてがゆっくり案内したるさかい、○○くんが心配する必要ないどす」
なにやらいつも以上に押し気味なアラくんに、うーんと考えていると突然アラくんが立ち上がり、私の腕を引いて食堂を飛び出してしまった。まだ、プリン残ってたのに。
アラくんに引かれてたどり着いた所は自分たちの部屋だった。アラくんは少し乱暴に扉を開けるとずかずかと私の腕を掴んだまま入り扉の鍵を閉めた。そしてようやく、掴んでいた私の腕を離してくれた。あ、少し赤くなってる。
アラくんは私の肩を抑え、また少し乱暴にその場に座らせると、アラくんも私の目の前に座った。なんだか、今日のアラくんは怖い。
「あ、アラくん?どうしたの…?」
「・・・この前、プールであの唐変木と何喋っとったん?」
唐変木?と小さく呟いて、プールに行った時のことを思い出す。
「ああ、コージくんのこと?」
思い出したように彼の名前を言うと、アラくんはまたムッと唇を尖らせた。どうしてこんなに不機嫌になることがあるのだろうか。
「別に、なんともないよ。彼のペットに一緒にご飯あげてただけ」
「その割には、えろう楽しそうでっしゃったな」
「彼はスキンシップが激しい人だからね…」
「…また、あいつんとこ行きはりますん?」
「うーん…うん。また来てもいいって言ってくれたから」
「あきまへん」
彼の突然の言葉にへ?と返すと袖をぎゅっと握られた。
「あいつんとこ行くのは、あきまへん。そんなん、わてが許さへん」
「な、なんでアラくんがそんなこと勝手に決めちゃうの…?ねえ、今日のアラくん、なんか変だよ。どうかしたの?」
私の袖を握る彼の手をそっと撫でながらそう言うと彼はうっと言葉を詰まらせ下を向いてしまった。そして、しばらくしてからポツリポツリと蚊のなくような声で話し始めた。
「・・・○○ちゃんが、あいつに取られてまう気がしたんや…わて、友達○○ちゃんしかおらへんさかい、○○ちゃんが、あいつに取られてもうたら、わてほんまに一人ぼっちになってまう、から…」
いつの間にか袖から私の手に移動していた彼の手がぎゅう、と握る力が強くなった。今にも泣き出してしまいそうな彼の頭をゆるゆると撫でてあげると、痛いくらい握られていた手が少しだけ緩くなった。
「…アラくん」
「…っん」
「バーカ」
「………へ? 」
「私がアラくんから離れたことなんて今まで1回でもあった?
どんな時でもアラくんのそばにいたし、アラくんのことを考えて行動してきたでしょ?それは、これからも変わらないよ。絶対に」
アラくんの頭を撫でながらそう言うと、彼はこくこくと頷きながらまた私の手を強く握った。彼が不機嫌だったのは、ヤキモチをやいていたということだったらしい。
背中にゆっくりと腕を回すと、これでもかと言うくらい強く抱きしめられる。フルフルと震える彼の体を撫でてあげる。ああ、彼はまだ小さな子どものようだ。アラくんには、まだ私が必要なのかもしれない。なんて考えだしている私も、きっと彼がいないと小さな子どもになってしまうのだろう。私たちはまだ、お互いがお互いの足枷を外せないままでいる。
いつか私が彼の足枷を外してあげることができますようにと思いながら、静かに目を閉じた。
mae tugi 11 / 26