これの続き


「あいつら幸せそうやなー…」
『そうだね』

謙也の言うあいつら、というのは白石と友達の名前のことだ。
彼らが付き合ったという話がでてからもう一ヶ月が経った。順調に進んでいるらしい。まあ端から見ても、幸せそうに見えるもんね。

『謙也はもういいの…?』

なんだかさっきの質問もそうだったけど、彼にしては随分淡々としていた声だった。

「どういう意味で?」

にこ、と私のほうへ向ける笑顔はいつもと変わらない…けど、やっぱり無理をしている気がする。

『どういう意味、って…』

屋上から見ていた校庭にいる白石と友達の名前から目を離して、隣に座っている謙也を見た。

『もう吹っ切れたのか、って』
「ああ。…そないなこと」
『そないなこと、って謙也。…つらくないの?』
「そりゃあつらいけど。…でも俺には今隣に、名前がおるんやし」
『…は?』
「俺が悲しんでるとき、ずっと傍にいてくれるんやろ?」

何その言い方。
まるで、自分の隣には私がいるからいい、って言ってるようなもんじゃない。

『なに、それ』
「…名前?」

どうして、簡単に壊すの。
人が必死に押し殺そうとしてきた気持ちを、想いを。
なんでそんなに、

優しいの。


『なんでそんなに、優しいの…。わたし、は、謙也のこと、っ利用してるんだよ…!?』
「名前、」
『謙也のことが好きで、でも叶わないって分かってたから、必死に押し殺したのに。…どうして、私が優しいみたいな言い方するわけ…!? わたしは!優しくなんかない、最低なんだよ…っ』

――だって振られた謙也につけいろうとしてたんだから。
そう言うと同時に、ポタポタと滴が零れ落ちた。はあはあ、と肩で息をするのが苦しい。

息を整えて、改めて謙也のほうを向くと、

『あ…』

泣きそうな、傷ついた顔をしていた。
最悪だ、私。親友でもなんでもないね。間違った形で告白もして。
最低だね、私。

『っ、ごめん…』

これ以上彼の前にいられない。いては、いけないのだ。きっと彼は嫌がる。それに私だってつらい。彼の隣にいることが。
急いで走り出したけど、誤って転びそうになったのを彼の手が私を支える。

「名前、待ってや。話を、」
『やだ、聞きたくない…!』

嫌いだとか。そんなこと言われたら立ち直れない。自分で撒いた種なのにね。
予想以上に彼が私の腕を掴む力が強くて、なかなか振り切れそうにない。

「名前、お願いや。ちゃんと聞いて」
『…!わ、かった』

まっすぐに私を見て。決して視線を逸らさない。そんな謙也を見たのはいつぶりだろう。

「…俺な。確かに友達の名前のことは好きやった。でも友達の名前がアイツと付き合うってなったときはほんまに悲しかってん。だけど、な。違うことに気づいた。確かに友達の名前ことは好きやったけど。…俺が振られたとき、いっつも俺ん側にいてくれたんは名前や。それだけやない。そうじゃないときも、俺を励ましたり、笑わせてくれたのは、名前。お前や。知らない内に惹かれてた、って言うんやろうな…。って、こんな話、おかしいやろ?」
『な、にそれ。…謙也?』

彼が言ったことがいまいち理解できない。だって、そんなの。ありえないもの。
「名前が俺を利用してるって言うんやったら、俺も名前を利用してるんやで」そういった謙也は、悲しそうに笑うのだった。
私の頬を撫でる彼の指は、次第に目のほうにやってきて。流れ落ちる涙をやさしく掬った。

『謙也、は。私のこと、…?』
「おん。好きやで。…もちろん友達としてやなくて」
『…ぅ、っ…』

思いがけない告白に涙は増幅。前に立っている彼がわたわたと慌てているのが目に見える。

「え、ちょ、名前…!?す、すまん…」
『ち、違う…! その、嬉しくて…』

だって叶うなんて思ってなかった。一生片想いだって。叶うはずなんてないって。報われないって信じていたから。

「そっか…。良かったわ。嫌われたと思ったわ…」
『そんなのあるわけないでしょ…。私、ずっと好きだったんだから』
「おん。ありがとな。俺も大好きやで」

照れたように頬をかいた彼は、優しく私を腕の中に抱きとめる。

「ほんま好きや。…愛してんで」

耳元で囁かれた愛の言葉はきっと、嘘偽りなんかじゃない、幻聴でもない。
現実の、真実の言葉。

消したはずの気持ち、
溢れだしてきちゃった



title by 確かに恋だった様

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