「白石、彼女できたんやって」

まだ肌寒い季節。
彼の恋は、唐突に終わりを告げた。

『…知ってるよ』
「沙織さん、やって」
『…うん』
「…先越されてもうたなあ」
『…そうだね』

私じゃあなたを、癒せない
(だって私は貴方のことが、)

屋上、フェンスの柵に腰掛けた彼は、隣に座っている私に問いかけた。

「なんで知っとったん?」

なんで知っていた、ね。

『…白石から聞いた』

嘘。

「そか…」

いや、半分本当、半分嘘だ。
私に報告をしてきたのは沙織と白石。二人とも同時にだ。

謙也には、好きな子がいた。
私の親友である、沙織。
確かに謙也の言うタイプの、「明るい子」に入るし可愛らしい容姿だ。その上、性格も申し分ない。
だけど、彼女には既に意中の人がいたのだ。
それが、白石。
二人とも両想いだったみたいで、告白もなんなりとうまく言ったようだった。

ちなみに私はというと、今現在、隣に座っている謙也のことが好き。
だけれど、肝心の謙也は私のことを、大切な友達としか思っていないらしい。
…わかっていたけれど、少し心は痛い。
大切な友達、…なんて私は、一ミリも思っていないのにね。

「好きやったんやけどなあ…。俺にもっと積極性があれば、なんか違ったんやろか」

ボソッと小さく呟かれた声は、涙声に聞こえる。

『謙也は、ヘタレだからね』
「なんやと」

いつもなら、食って掛かるように怒る彼だけれど、今はそんな気分にもなれないらしい。…覇気がない。

「なあ、名前…」
『…ん?』
「ほんの少しだけ、肩、借りてもええ…?」

そんな弱弱しく言われて、泣きそうな顔で、断れるわけないでしょう?

『…いいよ。思う存分、泣けばいい』

さらり、と謙也の明るい金髪が肩にかかった。シャツ越しに、冷たい涙が浸透していく。
涙と想いを全て流し去って、いつか私の気持ちに気づいてくれたらいいのに。

「ありがとう。…やっぱり名前は、優しいなあ」

優しくなんかない。私は醜いの。
私なんかが完全に、貴方を癒すことなど出来ないの。



(だって私は、)
(こんなにもあなたを利用しているのだから)




title by 確かに恋だった様
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