「ねー、私達もう受験近いけどさあ、どうよ。勉強はかどってる?」

二人で久しぶりに歩く道のりは、いつもよりなんだか長くて空気も重い。

「まあ、お前とは違ってはかどってる」
「お前とは違う、って…。否定はできないけど」
「少しはしろよアホか」

一定の距離を保ちながらも、宮地は私の隣を歩いてくれている。その事実にホッとして、少しだけ、泣きたくなった。

バスケのウィンターカップも無事終わり、私達高校三年生は、まもなく大学受験を迎えるところだ。
たまたま学校に行って勉強をしていた私が、帰ろうとした矢先に見つけた後姿。
忘れもしない、忘れられるはずも無い、愛しい人。
長い間姿を見ていなかった感覚に陥ってしまい、思わず声を掛けてしまった。私の呼び声に振り返った彼の顔は、最初こそ眉間に皺が寄って不機嫌そうだったけれど、私の顔を見た瞬間、口元が少しだけ緩んだ。

ウィンターカップの話や、勉強の話、どうでもいい話をいつまでも駄弁っていて、気づいたら二人の分岐点である駅についてしまっていた。

お互い向き合ったまま、けれど、その間に会話は無い。
「受験頑張ろうね」とか、そんな気の利いた台詞すら今の私には声に出せなくて。
…きっと、彼と二人きりになってしまったことに対して、動揺しているのだと思う。

何か話さなきゃ話さなきゃとは思っているものの、声が、言葉が浮かんでこない。
頭の中に浮かんでくる言葉はただひとつ。
「ごめん、ごめんね、宮地」という、今の状況に対してではない、謝罪の言葉。

好き、だったんだよ、本当に。
こんな馬鹿で愛想の悪い私なんか気に掛けてくれるあなたが。
いやいや言いながらも、私や部活の後輩の面倒をみる優しいあなたが。
部活が忙しいのにもかかわらず、まめに電話やメールをしてくれたあなたが。

その優しさがね、痛いくらい伝わったの。

でも、でもね宮地。
私、寂しかったよ。

「お前、暑いからっていっつも腹だして寝るのやめろよ」
「分かってるってばー。ほら、馬鹿は風邪引かない、って言うでしょ。そもそもこの時期におなかなんて出さないっての」
「…自分が馬鹿だってこと、気づいてたのか」
「え、なにその心底びっくりした顔。腹立つ」

ジャリ、と砂を踏む音がどちらからか聞こえる。
ああ、これで終わりなのか、と、音を聞きながら冷静に考えた。

宮地、宮地。行かないでよ、ねえ。わたし、本当はまだ、

「気をつけて帰れよ」
「…うん」
「…じゃあ、な」

私も彼も、心のどこかで気づいている。――もう、一緒にいることなどできないのだと。

「…――宮地。"またね"」
「…おう」

立ち止まっている私を一瞥した後、宮地は私から背を向け、手をヒラヒラさせた。

「またね」…、その日が来るのはこれから先、近いうちだろうか。それとももっともっと遠い未来だろうか。
徐々に徐々に滲んでいく視界に、耐え切れなくなった涙が、ポロリとこぼれた。



あなたの隣にいたかった。







※補足
訳がわからなった人もいると思うので、少しだけ説明。
バスケとか受験とかですれちがいがあった。その間に二人の気持ちが離れてしまう。久しぶりに会った好きな相手を見て、気持ちが膨らんでいった。でも、それはもう遅くて前のように笑いあうことはできないと思ってしまう(二人とも)。
たぶん、この二人は自然消滅みたいになってしまうと私は妄想してます。お互いの大学先も知らせずに社会人になっていく…、みたいな。でも、その後社会人になってからの同窓会とかなんやかんやでまだお互い好きだったことが分かり復縁(結局ハピエン)!
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