「あー、なまえちゃんはっけーん!」
「…げ、及川」
「げって何! ひどいよなまえちゃん!」

及川さんおこっちゃうぞー、なんてわざとらしく頬を膨らませるこの男は、非常にあざとい。

「あんた、何してんの? 部活は?」
「んー? 今から行くところ」
「へえ…。さっさと行けば」
「もー、つれないなぁ、なまえちゃんは。そんなんじゃモテないよ?」

ドキリ、心臓が嫌な音を立てた気がする。
けれど、その動揺を目の前の彼だけには悟られまいと、彼から目を逸らした。そっけなく、それも、自然に。

「うるさいなー。及川には関係ないでしょうが」

関係ない、そう自分で言ってしまった後、少しだけ後悔した。だって、心がズキズキする。

「そんなことないよ。だってなまえちゃんは、数少ない俺の大事な友達なんだから」
「数少ない、って…。“女友達の”でしょ」
「そういうこと!」

いきなり真面目になった顔つきの彼に驚いたけれど、きっと気づいていない。
あなたは何も知らないのだ。何も。

友達、友達、友達。
まるで復唱でもするかのように、心の中で、何気なく綴られた言葉繰り返した。

「…はいはい、私がモテるモテないなんてどうでもいいから、及川は早く部活に行きなよ。また岩泉に蹴られるよ?」
「あっ…、そうだった。俺、岩ちゃんに早く来い、って言われたたんだった…!」
「ほら、やっぱり。これじゃあ蹴られるの確実だね」
「そういうこと言わないで!」

「じゃあ、また明日ねなまえちゃん。帰り道には気を付けなよー!」そう腹が立つほどのキラキラな笑顔で、私の前から去って行った及川。

私のいる廊下には誰もいない。当たり前だ、時はもう既に放課後なのだから。
ポツリ、ポツリ
まるで涙を流しているかのように、私は一人小さく呟いた。

「――……ひどいなぁ」

「なんでそういうこと言うかな」

「私だって、及川のことが好きなのに」




prev|next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -