影山 飛雄
- ナノ -


言葉以上にまっすぐな 4




初めて会ったとき。すごい新入生が入って来た、ってびっくりした。だけど一緒にいる内、弟みたいで可愛く思ってた。
影山くんは、あれから随分と変わった。
雰囲気がグンと大人っぽくなったし、身体も大きくなった。そういえば、追い越されたのはいつだったんだろう。
でも、バレーしてる時は今も、あの頃とおんなじでキラキラした顔してるよね。

そして私は卒業して。中学最後の大会中だった影山くんを呼び出して、怒らせてしまって。
会えなくなって、しばらく落ち込んだっけ。
だからその翌年、影山くんが烏野に進学した時は本当にびっくりした。

−−−あれからまだ、半年しか経っていないんだなぁ。でも本当に、いろんなことがあった。
ふたりで帰ったり、青城との練習試合もあった。それから、このお部屋での勉強会。
そして、東京遠征。黒尾さんと話していて影山くんに怒られた事もあった。こう考えてみたら、私って本当に影山くんを怒らせてばっかりなのでは。

"気が付いた"瞬間は、わかってるんだけど。
はじまりは一体、いつだったんだろう・・・?


「う、うぅーん…」


影山くんは私の答えを、はじめは期待に満ちた瞳でじっと待っていてくれた。けれど、いつまでたっても答えられない私をみて、少し、寂しそうにした。

「…サーセン、変な事聞いて」
「ごめんね、気がついたらっていうか、きっかけって考えると、パッと出てこなくて」
「俺、信じられないんです」
俯く影山くんは、自分の手のひらをギュッと握る。
「あ、いや、名前さんの事がとかじゃなくて。夢みたいっていうか…ずっと好きだったから…りょーおもいだとか、カノジョだとかってのが」

目の前の彼は、顔を真っ赤にして、瞳を揺らしてそう言った。ああ、もう。夢みたいなのは、こっちの方なのに。

コートに立つ影山くんの背中は果てしなく遠く感じる。それを尊敬する分、遠く感じる。
だけどこうやってまっすぐに伝えてくれるから…私はいっぱいに幸せになれて、安心することができる。ああ、同じ気持ちなんだ、って。

それなのに私ときたら、うまく想いを言葉にできない。
私だって、伝えたいのに。彼がいつも、私にくれるように。

どうしたら、信じてもらえるかな。
どうしたらもっと、この気持ちが届くのだろう。

そう思ったとき、私はさっきの電車での、彼のぬくもりの安心感を思い出した。ああ、もしかして。言葉以上に伝わるものって、あるのかもしれない。

私は腕をめいっぱい伸ばして、影山くんに抱きついた。








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