影山 飛雄
- ナノ -


言葉以上にまっすぐな 3




「せっかく来てくれたんだから見てもらったら、って…こんな余計なモン持って来やがって」

影山くんの、アルバム?
み、見たい。見たいに決まってます、親御さんありがとうっ!

「えっ、嬉しい!見ても良い?」
「面白く無いっスよ…こんなの見ても」
「えいっ、見せてっ」

影山くんがしぶとく粘るので、強引にアルバムを奪い取る。ドキドキしながら、待ちきれず立ったまま表紙に手をかけた。
そこには、赤ちゃんの頃の影山くんがあどけない表情で写真に納められていた。
産まれたばかりの頃から始まり、ハイハイができるようになった頃の写真、幼稚園の頃…。

「かっ…かわいい…!」

いちいち感嘆の声を漏らす私に、影山くんは何度もアルバムを奪おうとしたり、ため息をついたり、すごく恥ずかしそうにしていた。

アルバムは3冊程あり、後半の写真は...これは、小学校の低学年だろうか。すでにバレーボールを手にしている写真の横に、遠足と思われる1枚があった。そこに、女の子と映ってる影山くんがいた。...クラスメイト、かな?...いいなぁ。

当たり前だけどそこには、私と出会う前の影山くんがたくさんいて。
私は嬉しく思う反面、ほんの少しのさみしさも感じた。


大人からしたら、年が1つ違う位なんて大した事では無いのかもしれない。でも私たち高校生にとってそれは、果てしなく遠い世界で。
1つ違うだけで全ての日常、行事、経験までも隔てられる。
私が産まれるのがあと1年遅かったら…影山くんと同級生だったら、彼の事をもっと知れていただろうか?
中学からの先輩後輩、っていっても部活で会うだけで。影山くんの事で知らない事はたくさんある。


「…もっと知りたいな、影山くんの事」

私がぽつりとそう言うと、影山くんは意外そうな声で「俺の事?」と返した。


「うん。アルバム見てたら、そんな風に思っちゃった。例えば影山くんの好きなものとか…どんな事でも」
「好きなものなら、バレーです」
「あはは、それなら知ってる!ねぇ、他には?」
「名前さんです」

当然、というように照れもせず影山くんはそう言った。
そんなだから、私の方が恥ずかしくなってしまう。

「えっ!?う、うん…ありがと…。他には?たとえば…あ、そうだ。好きな女の子の服装のタイプとか」
「名前さんの着てるのなら何でも」
「もうっ…嬉しいけど、影山くんってばそればっかり」
「…バレーと、名前さん。それが今の俺の全部です」

相変わらずのド直球な彼に、私は返す言葉が見つからず、ただただ顔に熱が集まるのを感じた。
嬉しいけど、恐れ多すぎる。影山くんにとってのバレーと、名前を並べさせてもらうだなんて。


「影山くんは一体、私なんかのドコをそんなに好きでいてくれるの…?」
「んー…全部です、中学の時からずっと」
「前にも、そう言ってくれたよね。でもさぁ、中学のときって…」

影山くんは、あの告白の日…私の事を、中学生の頃から想っていたと伝えてくれた。
まるで夢のようなあの瞬間を、私はあれから何度となく大切に思い返した。まるで飴玉を舐めるように胸の中でゆっくりと転がした。でもその度に、いつもひとつの疑問に辿り着いていた。

影山くんに、好きになってもらえる要素なんてあっただろうか?しかも中学生の時だなんて、尚更。


「中学生の時なんて私、影山くんの前でドジしかしてないじゃない」
「それは今もっス」
「あ、ひどい!」

私が膨れてみせると、影山くんは目を細めて笑った。この笑顔を、見るたび好きだなぁと思う。
厳しい表情の方が多い影山くんが、私といる時にだけ見せてくれる柔らかい表情。それは、何度も見ても心が揺れた。

「自分で気がついたのは多分、中学の時に放課後、名前さんが知らないヤツに告白されてんの見て …その時です」
「…あったね、そんな事」

あの時影山くん、守ろうとしてくれたのよね。私よりまだ小さな身体で、腕をめいっぱい広げて…ふふ、なつかしいな。

「なんでかわかんねぇけどスゲェ気になって…渡したく無い、って思ったんです。隣にいんのが、俺なら良いのにって。けど俺は、名前さんよりチビで …せめて背だけでもでっかくなってから、告白しようって決めたんです」

−−−そんな風に思ってくれていただなんて。全然、気がつかなかったな。

今思えば、影山くんが気持ちを露わにしてくれた事はこれまで、いくつもあったのに。全然気付いてあげられなかった。影山くん、こんな私で本当に良いのだろうか…。


「名前さんは、その…いつからですか?好きになってくれたの」

影山くんが頬を赤くして、少し言いにくそうに聞いた。

自覚したきっかけはあるけど…好きになったのは、いつからだったんだろう。








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