影山 飛雄
- ナノ -


言葉以上にまっすぐな





影山くんのお家に行く為に私たちは、電車に乗る事になった。歩いて行けない距離ではないけど、影山くんが「名前さん、運動とか苦手じゃないっスか」と言って電車が選択されたのだった。
いやいや、いくらなんでも数十分くらい歩けるってば、と思いながらも私は大人しく付いていく事にした。

数駅のために乗り込んだその電車は、初詣のために同じ駅から乗車する人がかなりいて車内は相当の混雑だった。
私は電車通学じゃないけど、朝のラッシュってこんな感じなのかなぁ。
私の周りにはおじさん達が窮屈そうに肩を寄せ合っていた。・・・なんだか、呼吸がし難いな。まぁでも、それはお互い様だよね。

私と向かい合う形で同じく直立不動状態だった影山くんが、もぞもぞと動き始める。身体の大きい影山くんは、私以上に居心地が悪いだろうなぁ・・・そんな風にぼんやりと考えていたら、影山くんの両腕が私の背中に回って、抱きしめられるような形になった。


「ちょ、ちょっ・・・」


周りに人も沢山いるので大きな声を出すわけにもいかない、と私はギリギリの所で冷静さを保ちながらも彼の胸に顔をうずめて目を白黒させていた。

「嫌かもしんないっスけど・・・あとちょっとで着くんで、ガマンして下さい」

耳元でそう囁かれて、ただでさえドキドキしていたのに私の顔は火が出るんじゃないかと思う程熱くなった。
うわー、うわーっ・・・ど、どうしよう。影山くんに抱きしめられるのは、初めてでは無いけど・・・。

いつも、一緒にいるだけで胸がいっぱいだっていうのに。
手を繋ぐだけでも、泣き出しそうなくらいドキドキするっていうのに。
大好きな人に身体を包み込まれているという現状は、今の私には完全にキャパオーバーだ。

あれ・・・でも、不思議だ。
なんだかすごく、安心する。

胸の鼓動は、相変わらず速いまま。でも・・・不思議と、さっきまでの息苦しさは消えていた。








最寄駅に着くと、彼に無言で手を引かれ着いて行く。
私はまだ、顔の火照りが引かなくて。さっきの・・・び、びっくりしたなぁ。
私のうぬぼれでなければ。きっと、守ってくれたんだと思う。

付き合うって、すごいんだなぁ・・・と、私はのぼせた頭でぼんやりと思った。
抱きしめられたり、当たり前のように手を繋いだり。ちょっと前からしたら、どれも想像もつかない事で。

ちら、と横目で彼を見れば、いつも通りの淡々とした表情に見える。私ばっかりこんなに、いちいちドキドキしてるのだろうか。男の子って、すごいなぁ。

「・・・スミマセンでした」

ぽつりと影山くんが呟いた。何の事かと問えば、さっきの電車での事で。


「えっと・・・守って、くれたんだよね?」
「・・・ッス。けど、嫌じゃなかったですか」
「嫌なわけないよっ!ビックリはしたけど・・・」
「・・・誰にも触らせたく、無いんです。それが知らないヤツでも。たまたまでも」

そう言って眉をひそめる影山くんを見て、−−−もしかして、これって嫉妬なのかも・・・と気が付いて、胸が鳴るのを感じた。

今までにも影山くんがこういう風に私に対してしてくれるのは、彼の負けず嫌いがそうさせるのかと思っていた。勿論、それもあるのかもしれない・・・だけどそれだけじゃ無いんだって気がついた。

私は今それが、すごく嬉しい。でも、もどかしくもあった。
私は、どこへも行ったりしないのになぁ。・・・どうしたら、信用してもらえるだろうか。








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