影山 飛雄
- ナノ -


ねがいごと 2





「すっごい人だねぇ・・・」
「そっすね・・・皆、ネガイゴトとかするんスかね」
「影山くんは、お願い事決めた?」
「・・・よくわかんないっス。そーゆーのは自分で叶えるから、良いんじゃないっスか」

その言葉に、ユース合宿から帰った影山くんの、部活中の姿を思い出した。あなたはそうやって叶えてきた人だもんね。…影山くんらしい。


「初詣の参拝って、お願い事じゃなくて自分自身への誓いでもあるって、前に本で読んだよ」
「名前さん、ほんと物知りっすね。・・・へぇ。誓い、スか・・・」

願い事、ではなく "誓い"なら何か浮かんだのだろうか、影山くんは何かを考えるようにすこし遠くを見た。
影山くんにばかり聞いてしまったけど、私は何を願おうかな。
烏野の皆が怪我無く春高で活躍できますように。影山くんがずっと、楽しくバレーができますように。トオルちゃんとハジメちゃんが希望の進路に進めますように。・・・ってあれ、人の事ばっかりになっちゃってる。


「・・・あ、そうだ影山くん。参拝のときにね、名前と住所を言う人もいるみたいよ。神様が、誰のをどこに叶えたら良いのかわかるように、って」
「え!マジっスか。じゃあ、名前さんの住所、教えてください!」
「えっ、私の?どうして?」

私がそう聞くと、影山くんは一瞬間を置いてからハッとしたように慌てて、そしてあからさまに話題を変えた。

「あー、あの、そういえば!!本当に良かったんですか、プレゼントが・・・デートなんて。このマフラーに釣り合ってなくないですか、これって俺の方こそ嬉しいし・・・」
「・・・影山くん、なんか話を逸らしてない?」
「な、何言ってんスか!アレですよ、名前さんホントに他に欲しい物とか無いんですか?!」
「うーん・・・そうだねぇ。じゃあ逆に聞くけど、影山くんはあるの?」
「名前さんに、してほしいコト・・・ですか」

そう言って彼は黙り込んでしまう。どうしたのかと思って見てみれば、顔を真っ赤にしている。

「ど、どうかした?」
「え・・・い、いや、なんでもないっす」
「でも、なんだか様子が・・・。してほしい事、なにかあるの?」
「そりゃ、いくらでも・・・って、イヤ・・・あ、ホラ!もう順番来ますよ!!」

・・・なんだか今日は影山くんに、はぐらかされてばっかりだなぁ。


私たちはお賽銭箱の前に立ち、二人で一緒に鈴を鳴らした。影山くんの力が強かったのか、ガランガランと大袈裟に鳴って少し恥ずかしかったけど、これだけ大きな音なら間違いなく神様に気付いてもらえそうだ。

手を合わせて目を閉じるも・・・、願い事が結局まとまっていなかった私はあれやこれやと頭の中で唱えて、そうだ住所と名前も言わなくちゃと気がついて付け足した。
ようやく終わって目を開けると、隣にいた影山くんは既に終わっていた様子でじっとこちらを見ていた。

「ごめんね、時間かかっちゃった」

後ろにも人が待っていたので、私は歩き出しながら謝った。

「名前さんのは、誓いですか?それとも、ネガイゴトっすか」
「うん、お願いしたい事がいっぱいあって・・・まとまらなくて」

待たせてしまった事を怒っているのかとビクビクしながらそう答えると、影山くんは案の定、口を尖らせてご不満な様子だ。


「・・・願い事、カミサマにならそんなにいっぱいあるんですか。クリスマスん時、俺には何も無いって言ったのに」

−−−しかしその理由は、待たせた事ではなく、思ってもみない事だった。
まさか、やきもち・・・?しかも、神さまに?

可笑しくなって私が吹き出すと、彼は「何、笑ってんスか」と言って面白く無さそうな顔をしている。全く、どこまで負けず嫌いなのやら・・・。


その後私たちはおみくじを引いたり、甘酒を飲んだりして神社でのひとときを過ごした。色々と見て回っているうちに、影山くんのご機嫌が戻ったようでホッとする。
 どこへ行っても凄い人だかりだったので、もしかして知り合いに会うかも、とすこしドキドキした。



影山くんとのお付き合いがスタートしてから。私たちは3つの決めごとをした。

その1。学校内(部活を含む)は恋人ではなく先輩後輩として接する。
その2。「名前さん」「影山くん」とこれからも呼び合う。
その3。他の部員と同じように接するけどやきもちを妬かない(お互いに)。


影山くんが告白してくれた時。
私は、影山くんの足を引っ張らないか、他の部員の迷惑にならないか、心配だった。
影山くんが「そんな事で揺らがない」と言っていて、確かにそうだと思ったし、私はまだ自分には自信は無いけれど皆の事は信じてる。

だけど、部内恋愛となる以上、決めごとは必要だと思った。これはネガティブな理由からじゃなく、決めないとなぁなぁになりそうな気がしたから。

まぁ、バレーにめちゃくちゃストイックな影山くんなので、部活中は全く心配無いけれど。でもちょっと天然な所があるからなぁ。

今日は、プライベートだ。もし学校の誰かに会っても問題は無いけど、でもきっと揶揄われるんだろうなぁ。




「名前さん、この後どーしますか?」

神社の中を一通り歩いた後、人の流れがすこし落ち着いた場所に立ち止まって影山くんが言った。時間を確認すると、もう少しでお昼の1時になる頃だった。

「そうだね。そろそろ帰ろうか?」
「え、もうですか!?」

初詣が終わったら解散というイメージで来ていた私は、ごく普通にそう言った。だって影山くんの貴重なオフなんだもの。
しかし影山くんは、物足りなそうに眉を寄せた。


「名前さん、なんか用事っすか?」
「ううん、そういうわけじゃないけど・・・春高前だし、影山くんも色々やる事あるかなって」
「名前さんは、ありますか」
「ううん、私は大丈夫なんだけど」
「・・・なら、まだ一緒に居たいっス」

そう言って影山くんは、向かい会ったまま私の両手を握った。掴まれたのは手のはずなのに、なぜだか私の心臓までキュッと苦しくなる。

でも、大事な大会前の影山くんに迷惑をかけたくないし・・・と私が抵抗するも、「一緒に居たいっス」ともう一度言われ、私の理性はアッサリ折れてしまう。
もう、なんて可愛い我儘なのだろう?こんなの、断れるわけ無いじゃない。


「でも・・・じゃあ、どこに行こうか?」
「昼飯でも食いますか?それか名前さん、どっか行きたいトコとかありますか」
「そうだねぇ・・・でも、まだ1月2日でしょう。きっとどこのお店も閉まってるよね」
「フーン、そういうもんスか。じゃあ、俺ん家来ますか?」
「えっ・・・そんな、急だし、それにお正月なのに」
「平気っす。それに家族も、名前さんまた連れて来いっつってたし」

良いのかなぁ、本当に。でも、かと言って他に代替案が浮かぶわけでもない。
影山くんのお言葉に甘えて、私はお家にお邪魔する事になったのだった。









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