影山 飛雄
- ナノ -


VSバレー部 2







そうしてとうとう、決戦の日がやってきた。

その日取りは、かなり前々から決定済みであった。白鳥沢学園のバレー部は強豪校という事で、練習もかなりハードだがオフはオフでしっかりとあるらしい。その中でも私の生徒会の集まりが無い日で、若利さんのチームメイトが集まれる日にちを彼が決めておいてくれたのだ。


若利さんに連れられ、私たち二人は学園近くのファミリーレストランへと向かっていた。そこにすでに、チームメイトを呼んでいてくれているらしい。

私は、ひどく緊張していた。

若利さんのお仲間、とはいえ相手は体育会系の男子で。この前のように気分が悪くなってしまったらどうしようという不安と、そして彼のチームメイトに何か失礼をしてしまったらどうしようという二重の不安に襲われていた。



「わ、若利さん。今日は、何人くらいの方が来ているの?」
「四人だ」
「そ、そう。随分たくさんお集まり頂いたのね・・・全員、三年生なの?」
「声を掛けたのは三人だったのだが、天童のやつが付いて来るというのでメンバーに入れた。学年はバラバラだ。お前がなるべく、緊張しないような面子を大平に相談して決めた」


テンドウとは、オオヒラとは、誰なの。緊張しないような面子とは、どんな基準なの。
色々と気になる事はあるが、とにかく若利さんによると、私が男性恐怖症である事は言わず、あくまで男嫌いという事で通したそうだ。
男嫌いの苗字名前だけれど、自分のチームメイトに紹介したい、だからまずは入り口として緊張感を与えにくいメンバーの相談に乗ってほしい、とオオヒラさんとやらに話したらしい。

・・・そこまで、してくれただなんて。私の男性恐怖症を、言わないでいてくれて。そして、メンバーにまで気を配ってくれて。
−−−よし、わかったわ、もう若利さんを信じるしかない。覚悟を決めましょうとも。


とはいえ、やはり大いに不安な私はこれから毛を刈り取られる子羊のような気分で、ファミリーレストランの店内に入った。
するとすぐに、奥の大きめのテーブル席から視線を感じる。距離はあれど、全員が高身長のバレー部員なのですぐにわかってしまった。


「わっかとしくん!こっちだよー」
「ああ、すまんな」


そう言って若利さんは、ごく自然に私の手を取ってそのテーブル席に座った。

私たちの目の前に若利さんのお仲間の四人が座り、そして向かいの席に私たち二人が腰掛ける。まるで面接か何かのよう・・・というか、なぜ若利さんは私の手を握っているの?!


「わ、若利さん、ど、どうして、手を、」
「名前、紹介する。向かって右側から、天童、大平、五色、白布だ」


私の必死の抗議も若利さんには届かず、普通にメンバーの紹介が始まってしまった。
彼らも、私たちの手元をちらちらと気にしながらも一言ずつ自己紹介をし、そして若利さんから何故選出されたのかの理由が添えられた。



「ヒュウ。若利君、早速見せつけてくれるじゃーん!にしてもホントに、名前サマと若利君が、ねぇ・・・へぇ〜・・・」
そう言って自己紹介をしたのは、天童さんというらしい。
若利さん曰く、本人たっての希望で参加したとか。

「苗字さん、こうやって話すのは初めてだな。気の良い連中だから、苗字さんも楽に接してもらえると嬉しいよ。よろしくな」
彼の名は大平さん。
若利さんによると、今回の事を最初に相談したのは彼で、彼が一番人当たりが良かったからとの事。
そ、そうなのね・・・なんだか見た目の印象からは、想像ができないわね。

「チ、チワッス!!は、はじめましてッ、生徒会長!!今日は牛島さんのプライベートからも盗める事盗んで、エースの座を奪ってみせます!!」
彼は五色君。若利さん曰く、より年下の方が親しみ易いのではという事で、一年生であるこの子が招集されたらしい。けれど何だか、物騒な事を言ってやしないかしら・・・?

「チワッス。牛島さんの頼みとあって来ました、光栄です。よろしくお願いします」
彼は、白布君。部の中では一番中性的というか、爽やかで男くさくないという理由で選ばれたらしい。

バレー部の皆さんの自己紹介が終わり、次は私の番・・・なのだけれど、その前に。
あなたはいつまで、私の手を握っているのよ?!

「ちょっと、若利さん」
「何だ」
「何だじゃないわよ、手よ、離して頂戴」
「お前が少しでも安心出来るようにと、握っている。・・・顔が紅いぞ、具合が悪いのか?俺が着いているんだ、心配しなくて良い」

なるほど、私を安心させるために握ってくれていたのね・・・って、そうじゃない。
私は今や、体育会系男子に囲まれる嫌悪感よりも、好きな人に手を握られているというハプニングで胸がいっぱいだ。しかも、人前で!

「なになに、すっかりラブラブだね〜。そんなに見せつけなくたって、名前サマの事奪ったりしないってば」
「さぁ名前、お前の自己紹介の番だぞ」

天童さんにからかわれて益々真っ赤になってる私を見て、若利さんは心配したのか握る手の力を少しだけ強くした。・・・これは具合が悪いのではなく、あなたのせいよ、あなたの!

私は、諦めて・・・というか少々ヤケになって、チームメイトの皆さんに改めて向き合った。


「・・・苗字名前です。白鳥沢学園で生徒会長をしています。今日は皆さん、貴重なオフにお集まりいただき感謝します」

私の挨拶が終わると、丁度頼んでいた食事が運ばれて来た。そしてそれを食べながら話そうか、という流れになった。

・・・さぁ、試合開始ね。私は心の中で、そう呟いた。











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