影山 飛雄
- ナノ -


悪い虫



まさか、烏野が青城と練習試合をする日が来るなんて・・・思いもよらなかった。


烏野が強豪と呼ばれていた時代には、何度かしてはいたようだけど最近は全くで。
だから私が幼馴染のトオルちゃんやハジメちゃんと部活で会えるのは、公式戦の時のみ。けれどシード常連の青城とは対戦する事は無く、体育館ですれ違うだけだった。

それが急に練習試合だなんて、どういう風の吹きまわしだろう...?
しかも影山くんを試合に出すようにだなんて条件付きだ。

私は疑問半分、でも久しぶりに幼馴染のプレーが見れるとワクワクもいっぱいでこの日を迎えた。
この頃は自分の部活も忙しくて、二人に全然会えていなかったし。


しかし蓋を開けてみると、そこにはトオルちゃんの姿は無くて。
ハジメちゃんの話によると、大怪我では無いけれど調子が悪いという事だった。


ハジメちゃんのプレーや、かつて北一で一緒だったチームメイトのプレー。
そして久しぶりに見る、実戦での影山くんのプレーに私は興奮しっぱなしで。
そしてトオルちゃんも最後に少しだけ出場して、サーブを打つ瞬間なんかに私にいちいち合図を送ってくるものだから恥ずかしくてたまらなかった。まったくもう、彼には自分が目立つ存在だって事をもっと自覚してほしい。
それに、ああいう事されると女の子には疎まれるし、男子にもなぜだか距離を置かれてしまうというのに・・・。


「名前っ!」

試合が終わって、ベンチの後片付けをしていると突然、背中に重みを感じる。
振り返らなくてもわかる。・・・これはゼッタイに、

「名前ー、トオルちゃんだよー」

・・・だよねえ。


「トオルちゃん、重いよっ」
「つれないねー。こんなの俺らにとって、いつものことじゃない」

体育館のギャラリーにいる、トオルちゃんのファンと思わしき女の子達から悲鳴に近い声が響いた。
そりゃそうだよ、人気者のトオルちゃんが他校の女子の背中に引っ付いてるんだから。
クールダウンをしている烏野の皆も、こっちを見てる・・・もう、やめてったら!トオルちゃん、絶対わざとやってるよね?


「ねぇ名前、俺のサーブ見てたー?」
「トオルちゃ...お、及川さんっ。重たいです、背中から降りてください」
「ねえ、見てた?!どうだった?」
「も、もう…何よう、どうって」
「凄かった?かっこよかった?」

…確かに、トオルちゃんのサーブは凄かった。
中学の頃から威力と精度のどちらも高くて、対戦相手達から恐れられていたサーブ。努力家な彼の事だ。あれからきっと、もっともっと練習したんだろう。
本当は、褒めてあげたい。

でも私は今、烏野高校のマネージャーなのだ。
幼馴染とはいえ部員のいる前で、他校の選手を褒めるわけにはいかない。


「すごかった?・・・飛雄よりも?」
「・・・なんで、影山くんが出てくるの」


そういえばトオルちゃんって、昔からやたらと影山くんに突っかかる。
もしかして今回の"セッターに影山くんを出す事"なんて条件を言い出したのも、トオルちゃんだったりして?


「名前、俺のチーム強いでしょ?−−−烏野なんかよりも、さ」

その言葉に私はカチンときた私は、背中にくっついているトオルちゃんをグイと押しのける。
私の大好きなチームを、烏野"なんか"だなんて言ってほしくない。
そんなのトオルちゃんだって、わかってるはずなのに・・・どうして、そんな事言うんだろうか。


「私は烏野高校のマネージャーだから、烏野が一番強くてかっこいいって思ってます!」










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