影山 飛雄
- ナノ -


ただのセンパイ 2





「ちょ、ちょっと、田中先輩!」


狼狽える俺の隣で、名前さんは突然の質問に瞳をぱちくりさせてる。
頼むーーー答えないでくれ。今はまだ、聞きたくない。だって、答えなんて目に見えてる。


「うん・・・影山くんは、特別」


ーー−、え?

ごく当たり前のようにそう答えた名前さん。
俺は、あまりに嬉しくて。
身体が、一気にブワっと熱くなるのを感じた。


「は、はぁ!?おい名前ッ・・・お前、それって影山の事を・・・!?」
「だって同中って影山くんだけだし、特別に可愛いよ。あっ、でもちゃんと皆の力になれるマネージャーになれるように、頑張るから!」

天国と地獄って、こういう事か・・・。
特別なんて言われて、一瞬浮かれたのがバカみてぇだ。
けど、そうだよな。入学式の時も、名前さんはそう言ってた。

彼女の言葉に俺が落胆してるのを見て、周りの連中・・・とくに月島あたりが「可愛いだってさ、王様」つって可笑しそうに笑ってやがる。
クソ、覚えとけよ・・・!


「影山くんって・・・昔から知ってるけど、サボってる所見たこと無い。本当に努力家なんだよ。そんな姿見てたら、応援したくならない訳が無いよ」
名前さんは、すごく嬉しそうに俺の事を話し始めた。
「あとね、影山くんってぶっきらぼうっぽいけどホントはすごく優しいし、それに、」
「ちょ、名前さん・・・もう、いいですから」
「あれ・・・影山くん、顔真っ赤なんだけど・・・」


その時、体育館の向こう側で道具を運んでる清水先輩を見つけた名前さんは、「手伝わなくちゃ」と言ってその場を後にした。

−−−みんなの前で俺の事、特別なんだって言ってくれた名前さん。
けどそれは、後輩として可愛いからであって・・・
でも、その後俺の事めちゃくちゃ褒めてくれて・・・!?

ふ、フクザツだ。喜んでいいのか、落ち込むべきなのか・・・?


「影山、苗字先輩の事すきなの?」

横でストレッチしていた日向が、ヒソヒソと聞いてくる。
あぁ、そうだよ。けどそうだとしても、お前には関係無いだろ。

「・・・ボゲはだまってストレッチしろ。ヘタクソは無駄な筋肉使ってんだからよ」
「うわ、コエー。・・・なぁ、苗字先輩って綺麗だし優しいよな。俺にも話しかけてくれるしさ。清水先輩も、きっ、綺麗だけど。苗字先輩オレの事、小さな巨人みたいって言ってくれたし・・・ってイテテテテ!影山くん!!痛いです!!!!」





結局、日向との喧嘩に始まり喧嘩で終わった今日の部活だったけど・・・

帰り際、体育館の出口で一緒になった澤村先輩が
「手ごわいな、苗字って。ガンバレよ」
って、眉を下げて笑った。

手ごわい。
その言葉の意味が、悲しくも少しだけわかったような気がする俺であった。











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