影山 飛雄
- ナノ -


トクベツ 2





影山くんとの出来事は、私の心に想像以上にダメージを残していたようだ。

影山くんの力になれなかった事。

彼と仲良しだなんて、ひとりで思い上がっていた事。

影山くんの言葉に傷ついた事。

そして何より・・・彼に、あんな事言わせてしまった事。本当はすごく優しい、影山くんに・・・。



こんな事誰に言えるわけでもなくて、トオルちゃんにだって言えてない。(相談乗ってくれたのにね。)
言えないなら何とも無いフリしなくちゃって過ごしてきたけど、友達や部員から時折心配される。

自分でした事なのに、影山くんはもっと悲しいかもしれないのに、案外傷ついていてその上周りにまで心配かけて・・・だめだな、ほんと。


潔子さんに元気が無いねと言われるのもこれが二回目だ。
もしかしたら、烏野バレー部での事かなとか心配をかけてしまっているのかも?

そういう事では無いんですと伝えて安心してほしい気持ちと、潔子さんの優しい言葉につい甘えて、私は誰にも言えなかった影山くんとの事を話した。


座ろうと言ってくれた潔子さんと並んで、更衣室に置いてあるベンチに腰をかけた。






「−−−そっか。そんな事があったんだね・・・」


中学のバレー部で、自分を慕ってくれていた後輩がいて。
久しぶりにみたその子の様子が心配になって。
・・・それで、余計なお節介をした事。
潔子さんは話の途中から私の肩に優しく手を置いてくれて、静かにでも暖かい眼差しで聞いてくれた。


「そうなんです・・・。でも、えっと、なので烏野バレー部とは関係の無い事なので潔子さん、心配しないで下さいね」

努めて明るくそう言った私に潔子さんは、驚いたような顔を見せた。

「・・・なんで、烏野での悩みごとじゃなかったら心配しなくて良いの?」
「えっ・・・だって、部内でのトラブルかと思ったのかなって・・・。なので、えっと、聞いてくださってありがとうございます。潔子さんの言うように、話してるとちょっと楽になれました」
「楽になれた?本当に?」

部内での事ではなかったのに、潔子さんの表情は依然心配した顔つきのままだ。

「確かに、部内の事の方が私にも力になれるかもしれない。けど、私たちが心配だったのは名前ちゃんの事だよ。部内の事だとか、そうじゃないとか、関係ない」
「・・・私、たち?」
「・・・ううん、何でもない。でもとにかく、そういう事だからね」
「潔子さん・・・ありがとうございますっ。ホントに、聞いてもらえて良かったです・・・!潔子さんがきいてくれて、そしてこんなふうに心配してくれているって知って、なんだか嬉しくて・・・すっきりしました。・・・やっぱり、いつまでも悩んでいても仕方ないですよね」

そう言うと、潔子さんはすこしだけ表情をやわらげた。
・・・いい先輩だなぁ、ホントに。




影山くんが言った、
『試合にも出れない奴に何がわかるんだ』
という・・・あの言葉。

本心なのか、それとも私が追い詰めてしまったが為に思わず言わせてしまったのかわからないけど。(そんな都合の良い希望を残してる私は、やっぱり図々しいのかな。)
正直あの言葉で、マネージャーとしての自分に自信をなくしてしまっていた。

・・・だって、図星だったから。

私は潔子さんみたいに気が利いたり、仕事ができるわけじゃない。他校のマネージャーさんのようにバレーをバリバリやってましたってワケでもない。
もちろん、『バレーが好き』って気持ちは他の人にも負けてないって思う!・・・けど、だからってマネージャーしてるのは自己満足なんじゃないかって、今まで思って来なかったわけじゃなかったから。
運動音痴でどんくさい私なんかが、ほんとにチームの役に立ててるんだろうかって、気にしてなかったわけじゃない。


・・・それを、一番慕ってくれていたと思っていた後輩の影山くんに言われたのが・・・正直、苦しい。

でも影山くんの方がもっと辛いはずだ。
私は勝手に傷ついただけ、って自分に言い聞かせて気持ちに蓋をしてた。

でも−−−私はここに居ていいのかな?って思って・・・あんなに大好きで楽しみだった部活が楽しくなくなっていた。




「・・・名前ちゃんの後輩の、その"カゲヤマ君"?はさ、名前ちゃんにとってトクベツなんだね」
「え?・・・そうですね。私にとっては特別です。まぁ一方通行ですけど、いちばん可愛い後輩なんです」
「可愛い後輩?それだけ?」

潔子さんがすこし、イタズラっぽく笑った。いつもクールな潔子さんのそんな表情は茶目っ気たっぷりで、同性ながらに思わず見惚れてしまう。

「えっ・・・それ以外に、何が・・・?」
「自覚ナシかあ」




−−−ガタッ、


不意に更衣室のドアの向こうで何か物音がして、心なしか潔子さんが眉を寄せた。

そして、「じゃあ、そろそろ帰ろうか」とすこし声を張って言って立ち上がった。

「はい!・・・潔子さん、なんだか嬉しそう・・・ですか?」
「えー?・・・ふふ。おせっかいばっかりだなぁって、このチーム。・・・名前ちゃん、がんばろーね。名前ちゃんが元気じゃなきゃ、アイツらも盛り上がんないみたいだよ」




・・・ありがとうございます。

心の中でもう一度お礼を言って、背中を追うように歩き出す。




・・・影山くんが、本当はどう思ってるのか。
きっと答えは、すぐには出ない。
彼はきっと、来年には青城か白鳥沢のバレー部に進学するだろう。公式戦ではシード校の常連であるその二校とは、いずれも会場ですれ違う事はあっても、今の烏野じゃ戦う事は難しいのかもしれない。
だからきっと、これからも影山くんとはすれ違ったままなのかもしれない。

私とは、それだって良い。

だけど、影山くんがあんなに大好きなバレーとは、またちゃんと向き合えたらいいのに・・・って、心から思ってる。

また、笑って、きらきらの顔でバレーができたらいいな。
遠くからでもそんな姿が見れたら、私はどれだけ幸せだろうか。









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