第五章 いざ 張宏へ

翌日の昼間、星宿のもとに集まった雪達は、軫宿を探しに行くための相談をしていた。

「やはり、心当たりを潰していくしかないようだ」

「と言っても、張宏くらいしか」

「栄陽に居そうな感じじゃないわよね」

「それは絶対ないわ」

初めて彼に会った時は、張宏の町外れにある小さな家に住んでいたようだが……今、あの場所に舞い戻っているのだろうか?前にも話したように、可能性は低かった。戦争以降は余計に名が知れてしまったと思うし、そうなったら軫宿のような人間が落ち着いて住める環境ではない。

「ともかく、行ってみるしかないんじゃない?」

雪がそう言うと、他の仲間達も頷く。拒否する理由はひとつもない。

そこでただ一人、少し考えるような仕草をとっていた井宿が口を開いた。

「ここから先はちょっと厳しくなるかもしれないのだ……今回は相手が人間じゃない。万が一なにかあってはいけないから、張宿は星宿様と宮殿に残って欲しいのだが」

「えっ、あ」

「足手まといだからとかではなくて、オイラが自信無いからなのだ。危険な場所に行くときは、人数は少ない方が良い」

「せやな。俺も同じやわ」

何を思い出したのか、少し遠い目をした翼宿が同意する。そして張宿もまた、皆の気持ちを察してくれた。要するにまあ適材適所ということだ。

「すみません。じゃあ僕は、陛下のお手伝いと……何か調べものなど出来たら。とにかく出来ることをやって皆さんを待ってますから」

「張宿がいてくれると私も心強い、よき相談相手になってくれるだろう」

本心からそう言った星宿に、彼は少し幼さが滲む、恥ずかしそうな笑顔を向けた。一人で待つばかりしかできない星宿も、張宿がいれば気が少しは楽になると思う。

「根拠のない直感だけで、仲間の不安を煽りたくはない」と口には出さないでいる事が井宿にはいくつかある。そして実を言うと、今とても嫌な予感がしていた。

ここから先で現れるのは、雑魚では済まない可能性が高い。例えば、人の姿を借りていたりすればかなり厄介だ。

危険なのは、なにも張宏などの旅先だけではない。宮殿にまで魔の手が及ぶ日も、このままだといつかきっとくる。

――軫宿がいない以上ヘマは許されない。自分達が彼の力にどれほど頼って、安心を得ていたかを思い知らされる。

勿論「軫宿がいるから無茶しても平気だ」と思っていたわけではないのだが。

「井宿?難しい顔して、どうしたの?」

「へっ?ああ、何でもないのだ」

すぐそばで見られていたのを思い出して、井宿は咄嗟に笑顔を作る。彼女は人の顔色を敏感に読み取るからだ。特に読まれたくないときに限って。

雪は不思議そうに首を傾げたが、今回はそれ以上深追いすることはなかった。

「では、出発は明日ということで」

「あーあ、こない嫌な天気やなかったら、今からでも行ったるのになぁ」

解散しようと扉を開けた途端に飛び込んでくる激しい雨音で、翼宿があからさまに顔をしかめる。今日の紅南国は、珍しく荒れ模様なのだ。

「仕方がないのだ、こうも降っていては何もなくたって危ない」

「雨は嫌いや、全身がじっとりしてくる」

確かに能天気な君にはお天道様が似合いなのだ……と思いつつ、井宿は翼宿に続いて廊下へ出た。






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