第十二章 想うが故の偽り

「そうか、ご苦労だった」

宮殿にたどり着いた鬼宿からの報告を受け、星宿が静かに頷いた。浮かせかけていた腰もようやく椅子に落ち着き、七星士全員が無事に揃ったことに安堵する。

「軫宿も無事だったし、あとは雪が目を覚ませば……」

「とりあえず井宿も翼宿も、きっついお仕置きが必要ね」

そう言って、柳宿が関節を鳴らす。目が本気で、そばで見ていた張宿が慌てるほどだ。

「井宿さんは病み上がりですから、どうかお手柔らかに……!」

「おいおい、翼宿はいいのかよー?」

「自分を燃やして死ななかったなら、あたし達で袋叩きにしたって死にゃしないわよ。ねえ張宿」

「いや、僕はそういうつもりで言ったわけでは――!」

夜中にも関わらずすっかり目を覚ました面子がそんな会話を交わす中、星宿だけはまだ少しだけ妙な気分を抱いていた。

七星士が揃ったとあれば、敵も何らかの動きを見せるはず。翼宿を利用した今回の仕掛けも破られてしまったというのに、その後があまりに静かすぎた。

そもそも、敵の実態が見えなさすぎる。誰が、いったい、何のためにこんな。

「星宿様、そろそろ御休みになられては?」

はたと気付くと、三人がお喋りをやめて心配そうに星宿を見つめていた。無意識に眉を寄せ、ひどく険しい顔をしていたせいである。

せっかくいい報せが舞い込んだところなのだ。彼らの不安を煽ってはいけないと、取り繕うように笑ってみせる。

「うむ……そうだな。皆も休むといい。鬼宿も、今夜はもう泊まっていったほうがよい。このような天気だ」

「そうさせていただきます」

一足先に退室し、自室へ戻る道すがら……屋根から止めどなく落ちる大粒の雨垂れの向こう側で、一瞬だけ何か人影を見た気がした。

真っ黒で、どこか不完全な影だったように思える。

異様な寒気に全身が粟立ち身構えたのだが、いくら目をこらそうが擦ろうが、そこにはもういつも通りの庭園が広がるばかりだ。

「……疲れているのか。少し気にしすぎているようだ」

この国の皇帝として、そして七星士の一人として。どうしたって不安は募る。宮殿には、魔物に太刀打ちできる能力を持たぬ者のほうが圧倒的に多いのだ。今この場にいる七星士だけでは、有事の際にその者達を護ってやれるかどうか分からない。

やはり、全員の力が必要だと強く思った。

「今夜も少し、冷えるな。井宿が風邪をひくのも頷ける」

自室の寝台に手を伸ばし、我が妻が用意してくれたのであろう羽織をそっと重ねて微笑んだ。






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