*第六章 奪還、そして
遂に、出発の時刻がやってきた。緊張していないと言えば嘘になるが、きっとどうにかなる、とも井宿は思っていた。
そうでもしないとやっていられないのかもしれない。
「本当に、気を付けるのだぞ……三人とも」
「うん、大丈夫」
心配そうな星宿の手を取り、雪が微笑む。無事を祈ることしか出来ない人間の心労を慮ると、しっかりしなくてはと改めて引き締まる。
「よっしゃ、俺も調子ええで!」
「それは頼もしいのだ。では、そろそろ行くのだ、二人とも」
広げた袈裟をとんと突つく。準備は整った。
何故かやけに神妙な面持ちの翼宿の背を押しながらそこへ乗ると、雪は留守番組に手を振った。
「じゃ、行ってきます!」
「早くたまちゃん連れて帰って来んのよっ!危なかったらとりあえず置いてきちゃってもいいから、さっさと逃げなさいよねっ!」
「それやと行った意味あらへんやろ」
翼宿が珍しく正論をかまして消え、次に苦笑した雪が消えた。要は「無理をするな」と言いたいのだろうが。
最後に残った井宿も、恭しく一礼して続く。
「では、また後ほどなのだ」