*第五章 栄陽にて
「着いたのだー!」
栄陽に着いた頃にはもう陽も真上になっていて、途中を少しだけ井宿によって短縮してきたが、それでもかなりの距離を自力で歩いてきた。
「おい井宿、張宏ん時みたいに一気にぶっ飛んで行けへんかったのか」
「こんだけ人数がいたら、いくら何でもしんどいのだ」
宮殿へ戻ってもゆっくりできるか分からないし、体力はなるべく温存しておきたい。旅人を名乗るだけあって、徒歩の方が井宿には楽なのだ。
「ほう、お前も人間やってんなぁ」
「人を妖怪みたいに言うんじゃないのだ。妖怪に近いのはむしろ柳宿なのだ」
「何であたしを巻き込むのよっ!」
「何で俺を小突くねん!」
「ほら雪ちゃん、もう宮殿が見えてきたのだ」
二人を完全に無視して、井宿は一歩下がった場所を歩く雪に声をかけた。装備の軽さもあって、あまり疲労の色は見られない。
「ほんとだ!なんか物凄く久しぶりに感じるねぇ」
「案外、長かったのだ」
「ところで井宿さん。これから何処へ行くんです?」
「勿論、宮殿なの……だ?」
城門が見え始めた時、そのすぐ脇に立った久しい人物に、雪も反応を示した。
「星宿っ!」
「……雪!?よかった、無事であったか……!」
ほっとしたように迎えたその姿は軽装で、帰還する自分達を迎える為にそこにずっといたのだと容易に想像がついた。戻る前に井宿が連絡を入れていたが、それは随分前のことだ。
「遂に、全員揃ったのだな?」
雪に合わせてかがんだまま、彼は見慣れない顔ぶれを嬉しそうに眺めている。
「なんや、留守番がおったんか」
「ちょ、馬鹿、このお方は……!」
「よいのだ、柳宿。雪、私は身支度をしてくるから……広間で皆と先に休んでいておくれ。腹も減っているだろう?すぐに食事も用意させよう」
「うん、分かった!」
あのくらいの言葉で気分を害するような星宿ではない。柔らかく微笑んで立ち去る彼に、雪もとびきりの笑顔を返した。
「さ、行くのだ。お言葉に甘えよう」
「何やあいつ?偉いんか?」
「偉いわよ、あんたが思ってるよりもずっとね」
処刑されてしまえとばかりに柳宿がそう言うと、一行は広間へと向かった。
――星宿の言った通りすぐに食事が用意され、適当にそれをつまみながら待つ事しばし。
すっかり旅の緊張もほぐれ、あれこれと雑談に花が咲いていた頃……一部を凍りつかせる男が、ようやく御登場と相成った。