第五章 栄陽にて

「……皆の者、待たせた。ご苦労であったな」

翻る豪華な衣装。明らかに高貴なその姿。ずらりと後ろに控えた付き人達。

これでもう、馬鹿でも解るはずだ。この男が一体、何者なのか。

「陛下も、ご無事で何よりですのだ!」

「へ……こ……」

新顔三人が、目を白黒させた。翼宿に至っては顔色が青く、色とりどりである。

「皇帝陛下あー!?」

「翼宿、うるさいのだ」

そこから彼は、すっかり萎んだようになって黙り込んでしまった。いつもこれくらいしおらしいと助かるのだと呟いても、豪雨に打たれる捨て犬のような目で井宿を一瞥しただけで反論してこない。

「翼宿、私たちは同じ星の下に生まれた仲間ではないか。楽にするがいい」

「は、はあ……。ううっ……俺、まだ信じられへん……吐きそうや」

「……さて、これであとは鬼宿が戻れば、七星士が本当に揃うわけだが」

「鬼宿、無事でいるかな?」

静かに箸を置いて、雪が呟く。

「大丈夫だとは思うのだが……。問題は、鬼宿をどうやって奪還するかだ。七星士が揃った以上、そう易々と取り戻せるとは思えぬ」

「じゃ、私行く」

あっさりと手を挙げているので、全員が驚いた。一体何を考えているのか。

「な……、何を申すのだ!」

「しかもアンタね……そんな、近所までおつかいにでも行くみたいなノリで……」

「そうですよ、倶東に行くなんて危険すぎます!」

張宿が真剣な顔で言うのは、自らが倶東の恐ろしさを知ったせいだろうか。それでも雪は構わず、どちらかというとかなり冷静に答えた。

「でも、誰かが迎えに行かなきゃなんないよねって……。私、必ず迎えに行くって約束したし……」

「よ……よっしゃ、せやったら俺も行く!」

「翼宿、お前まで……!」

「平気ですて、星宿様!なあ、井宿!」

「……君達だけで行かせられる訳がないのだ」

小さく呟いて、井宿はわざとらしくため息を漏らす。なんとなくだが、巻き込まれるのは予想していた。

全く、敵国へ乗り込むのにどれくらい覚悟がいるか分かっているのだろうか。特に翼宿は。

「三人だけで、か……?」

「あまりぞろぞろとは……恐らく三人くらいが限度ですのだ」

「俺、その鬼宿っちゅー奴に早よ会ってみたいんじゃ」

「あんた、遊びに行くんじゃないのよっ!ちゃんと雪を護んないと承知しないんだからね!あたしが代わりたいくらいよっ」

「あーあー、わーっとるわい!任せい!」

厚い胸を叩いて見せるその姿がとても頼もしいような、危なっかしいような……。まあ、やる気があるのはいいことである。

「じゃ、そうと決まれば――まずは鬼宿君と打ち合わせをするのだ」

「え? そんな事が出来るの?」

「術で倶東とこっちを繋げて……姿も見えるようにするから、無事もちゃんと確認できるのだ」

「本当に何でも出来るんだね……」

感心したように呟いた雪に、思わず苦笑してしまった。本当に何でも出来る男なら、鬼宿だけをこちらへ引き戻す術くらい見せて欲しいところである。

「買いかぶりすぎなのだ」

「せやで」

元気を取り戻して何故か口を挟んだ翼宿がふんぞり返り、目の前の食事を次々と胃袋に収めていた。







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