この幸せを、いつまでも

ちょうどいい機会かもしれない――そう思いながら、井宿はぼんやりと仲間達の話を聞いていた。

朱雀召喚の儀式に失敗して、まあそれから更に色々あって、北甲国へ旅立つ準備が整うまでの束の間の休息。どうも気だるい昼下がりである。

「要は、お祭りなのね」

雪が興味津々にふんふん頷きながら、柳宿に言った。

「そう!気晴らしにさ、ぱあっと……どうかしら?ね、井宿」

「へっ?何がなのだ?」

まさか自分にまで話を振られるとは思わずに、井宿は頬杖をついていた状態から顔を浮かせた。

「え、なに?聞いてなかったの?あんたの事だから、しっかり聞いてると思ってたんだけど」

「だ……あ、いや、聞いていたのだが」

ぽりぽりと頭をかく仕草を、柳宿が腕組みして見ている。……何か言いたげだ。

彼は雪に何事か耳打ちすると隣にやってきて、座っている井宿に合わせて腰を折った。

「あんた馬鹿?さらっと誘うくらいしなさいよ、反応鈍いんだから」

「えっ……オイラが、なのだ?てっきり君達だけで行くものだと思っていたから……」

「かーっ!殴りたいわっ!」

乱暴に髪をかきむしる柳宿と、いつの間にか現れた翼宿と喋っている雪を交互に見やる。

今夜、市街で"星見祭り"なる催しがあるのは知っていた。ただし参加したことはないので、どんなものかはよく分からない。

「あんたらも色々あったでしょ?これからもあるわよ、それこそ死ぬ目見るかもしれないくらいの。気を抜けるうちに、抜いておかないと。あの娘は特にね」

まさか柳宿にそんな事を言われるとは思わず井宿は目を丸くしたが、それもそうだなと数回頷くなり、素直に席を立った。

雪のすぐそばまで行くと、その気配で今まで続いていた会話が中断される。

「あ、井宿。どしたの?」

「いや……今夜、行くのだ?」

「あー、星見祭り?興味はあるけど、今そんな余裕あるかなぁ」

その苦笑に、複雑な心境が見て取れた。

「逆に今のうちなのだ。君さえよければ、一緒にどうなのだ?オイラも行ったことないから」

「えっ、ほんと?一緒に行ってくれるの?」

うって変わって、雪は大きな目を驚きで見開く。ああ、と頷けば、何故か背後の柳宿を一瞥して嬉しそうに笑った。

「……うん、行く!」

「ん、じゃあ夕方になったら、準備して――」

「いやー。人数がいたほうが、賑やかでいいわよねえ!?翼宿!」

「お?おお、せやな、俺も目一杯おめかしせなあかんな!」

「……けしかけておいて、なんなのだ?それは」

後ろから肩を組んできた柳宿だけに聞こえるように低く呟くと、少しも動じることなくこんな返事が飛んできた。

「別にいいじゃない。間違いがあったらいけないから」


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