*この幸せを、いつまでも
陽がすっかり沈んで、少し宮殿の外に出れば祭りの賑わいが聞こえてくる。天気も良さそうで何よりだ。
「久しぶりやなー」
「どんなもんか、よく知らないのだが」
「お前、紅南の人間やろ?」
「だけど栄陽の人間じゃないのだ。それに、ああいうのは一人で行くもんじゃないと思うのだが」
お祭り男は納得したのかしないのか、ふうんと短く鼻を鳴らした。
「しかし、雪達はまだかいな」
「女の子は準備に時間がかかるものなのだっ。これくらいでぶつぶつ言っていてはモテないのだよ、翼宿君」
「けっ。ええわい、別に。ぶっこいとれ」
柳宿から「いつもの服装では駄目よ、お洒落にね」と言われた二人は、借り物の着物で佇んでいた。何でもいいと見繕ってもらっただけなので、これが果たしてお洒落なのかどうかはちょっと分からない。
とはいえ翼宿は鉄線くらい携えているし、有事の備えも忘れてはいない。雪を連れて外に出る以上は欠かせないものだ。
「お待たせーっ!」
宮殿の出口から、柳宿のご機嫌な声が聞こえてきた。薄暗がりの中、人影ふたつがこちらへ近付いてくる。
雪の髪がしっかり結われていて、なるほどあれは、時間がかかりそうなのだ……等とぼんやり思ったりした。
「ほんまお待たせやで」
「あらやだ。女の子は念入りな準備が必要なのよ?そんな事で文句言ってたらモテないわよ」
「やっかましゃー、オカマ!くそっ、どいつもこいつも!」
またもや痛いところを突かれた翼宿が地団駄を踏む。彼の場合、文句というよりもただの軽口なのである。
「ま、モテない翼宿君は放っといて。行くのだ、雪」
「あ、うん」
並んで歩き出した二人を追うように、なにやら下らない言い合いをする二人組も進み出した。