*第十八章 新たな味方
次に目を開けた時には、もう奎宿の家の庭だった。あれだけ気を張っていた直後に平和な景色に放り込まれると、一気に疲れが出てくる。
「ひとまず安心……なのだ」
「井宿、大丈夫?」
「オイラよりも、張宿と軫宿の方が心配なのだ」
「平気だ、少し休めば。俺は」
張宿を抱いてふらふらと立ち上がる軫宿は、今にも倒れそうである。
「いーや、あんたも布団行きね。あたしがついて行くわ」
そう言って柳宿と共に軫宿達が姿を消した後、こちらに歩いてくる奎宿に目をやった。
「およ、何や?おっさんに戻ったんか?」
「あの術はな、中身の老化が早まるんだよ。残念ながら長くは使えねえ」
確かに少し疲れたようにそう言うと、奎宿は続ける。
「そんな事よりだな。巫女ちゃんに大事な話があるんだが」
「はい?」
雪の返事とほぼ同時に、昴宿に寄り添われながら現れた人物に、全員が目を丸くした。
思わず鬼宿が一歩を踏み出し、焦ったような声をあげる。
「葉月!?お前、どうして此処に!」
気まずそうに俯いているのは、怒られたような気がしているからだろう。鬼宿にそんなつもりはないというのも、勿論分かっているはずだが。
「お前さん達が行った後、いきなり現れてな。一緒に連れていってくれって、聞かねえんだ」
「で、連れてきちゃったのだ……?」
「若い女の子のおねだりには弱くてなぁ」
彼女は何か企んでいるのだろうか、少々訝しげな七星士達に対して、雪だけは葉月に駆け寄って、じゃれつくようにその手を取った。
「わっ!?」
「よっしゃ!葉月さん、私の話信じてくれたってこと!?」
「あ、えっと……」
「よっしゃって……!雪、少し落ち着くのだ……!」
そんな声なんて、興奮しきった雪には届かない。本当に嬉しそうだから、それ以上声をかけることはしなかった。
「しかし葉月、お前がいなくなったら、心宿達が」
「……色々あったから多分、平気。奎宿さん達に会う前に、心宿には声をかけてきたの」
「心宿が了解、っつーのは、なかなか恐ろしくもあるんだけどな……色々ってなんだ?」
確かに鬼宿の言う通りである。というか目的はなんだろう。やはり神座宝?それとも他に何か狙いがあるのか。さっぱりなにも分からない。
それでも疑いだけで放り出すなんて、彼らにはとてもできないのだ。雪だって絶対に許さない。
「なあ、おい。あの女のこと信用すんのかぁ?俺知らんぞ……」
「翼宿、葉月さんは悪い人じゃないってば」
「そうだそうだ。来ちゃったものは仕方がない!とりあえず母ちゃん、茶でも入れてくれい」
結論にたどり着かない会話をしめるように言って宅内へ戻る奎宿の後を、一拍おいてからぞろぞろと追う。その後青龍の巫女を交えた不思議な茶会が長いこと、で行われることになったのだった。