第十八章 新たな味方


その日は夜がくるのがやけに早かった。たった半日程度で、色々な事がありすぎたせいだろう。

――部屋の寝台が、二人分の重みで小さく軋む。

「しかし、不思議なのだ」

隣に座った雪が黙って見上げたところに、井宿は苦笑を浮かべて視線を返す。

「青龍の巫女、」

「葉月さんね」

「ん。あの子、一体何が目的なのだ?」

「あー。まだ信じてないんだ?」

不満だが、心情に一定の理解は示すような声だった。だって井宿は、青龍側の内情をこの目で見てきたのだから。

いくらあちらさんよりだいぶお人好しでも、手放しで歓迎できる人物ではない。仲間うちで一番疑り深いのも分かっている。

「今すぐには無理なのだ。ほんの最近まで、君の事を憎んでいた娘なのに」

そっと髪に触れて、ため息をつく。仮にも敵同士、まだ言葉を交わした時間も浅い。やっぱり警戒するに越したことはないのだと、口にして再確認する。

「けど、君は一体あの娘に何をしたのだ?まさか脅したわけではないだろうが、まるで人が変わったみたいに召喚を怖がっていたような……とても演技には見えなかった」

「私? んー……ただ、危険だからやめてほしいって言っただけ」

こちらの困惑をよそに、倶東国は本当に四正国全てを手中におさめようとしているのか、等と質問された時は困ったものだ。井宿たちもその場で雪に亢宿との話を補足してもらって、ようやく話半分を理解したのだから。

彼女はどうやら巫女としてそこに居るだけで、青龍側のしようとしていることなど何も把握してはいないらしい。実質全てを動かすのは心宿で、皆その命令に従っているなのだ。

随分精神的にも疲れていた様だったし、今ごろはきっと昴宿の部屋でぐっすり眠っていることだろう。

「あ……そっか、よくよく考えたら、井宿は」

ぼんやりしていた井宿を見て唐突に何かを思い出した雪が、あからさまに視線を床に落とす。青龍の巫女との接点は特に思い当たらないので、蠱毒の件に違いない。

「……ああ、いや。そんな恨み事を言ってるわけじゃないのだ。あの子が命じてやらせたわけじゃないし、ただ君が心配なのだ」

「私が?」

「もし、万が一……これも青龍側の作戦だったとしたら?危険な目に遇うのは目に見えてるのだ」

神座宝は隠してあるが、もし心宿が出てくればそんなものが通用するか分からないだろう。卑怯でも力ずくでも、という彼らのやり方は今回で嫌というほど分かった。

「いずれにしても、雪の言う通り……彼女に青龍を呼び出させてはいけない事は確かなのだ」

抱き寄せた雪は腕の中で、同意するように頷いた。

「私、もう一度ちゃんと話をしようと思う。あの時は心宿に邪魔されちゃったし」

「いいけど、無茶はしない約束なのだ。油断も禁物」

「うん、分かってる。……でも、葉月さんの事は信じてあげて欲しいんだ。これは私からのお願い」

返事の代わりに軽く口付けてから、井宿はまた深いため息をついた。さすがに疲れているのだ。

続けて雪が小さく欠伸をしたので、それも伝染しそうになる。

「今夜は早いとこ寝ちゃう?」

「だー……そうなのだ……」

「でも寝台一個しかないよね、何で私ら同じ部屋にしたんだろ……」

「なんでって、他の誰かと一緒に寝る気なのだ?」

苦笑すれば、ああそうか……と何ともすっとぼけた返事だった。何となく腑に落ちない。

無言で先にごそごそと寝台に潜り込んでから、ぼんやりと座ったままの彼女の手を引っ張る。

「わあっ……!」

「よし、おやすみなのだ」

「ね、眠れないんだけど!」

「こっちは熟睡出来そうなのだ」

余裕の笑みに顔をそらして、雪はおやすみ!とただ一言だけ言い放つ。

後の事は、明日考えよう。今夜が束の間の休息になるのは間違いない。――井宿は重い瞼を閉じて、かちかちに固まる雪の体をしっかりと抱きすくめていた。






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